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針指す時の終末日  作者: 鳥路
夏樹編序章「明治からの客人と時間旅行」
17/83

2ー16:6月2日。時間旅行の招待状

「へえ、相良が遂に「A‐LIFE」手に入れたのか」

「うん。今は使いこなせるように特訓中だよ」

「それはいいけど、ゲームは入れさせるなよ。今、ほら・・・」

「ああ。ドリーミング・プラネットの事件ね。新規は配信停止になってるから大丈夫だと思うよ。初期ダウンロードリストからも外れてたし」

「それならいいが・・・」


朝の掃除中の事

朝食を作りに来てくれた冬夜君と共に私は朝の掃除をしていた

朝食を早く作り終わって暇だから・・・だそうだ

その時に昨日の件を冬夜君に伝えると、意外そうな顔をされた


「しかし、あいつ・・・どんどん現代に馴染んでいるな」

「確かに・・・」

「もう帰る気失いそうだよな。この時代便利だからって」

「あ、あり得なくなさそうだから何とも言えないね・・・!」

「そういえば夏樹。お前に話さないといけないことがあるんだ」

「なに?」


箒を動かす手を止めて、彼の方を向く


「俺の家のポストの中に消印がない封筒が三通入っていたんだ」

「三通も?」

「ああ。しかも宛先は全部違う」


冬夜君はポケットからその封筒を取り出す

白い封筒の宛名は確かに全員異なっていた


「早瀬冬夜」「新橋夏樹」「相良幸雪」


冬夜君宛の封筒があるのはわかるけど、なんで私と幸雪君の封筒まであるのだろう


「悪いと思ったが、中身を確認するためにお前らの分も開封した」

「別にいいよ・・・中身はどんな感じ?」

「全部同じだった・・・読んでみろ」


差し出された私の封筒を受け取り、中身を取り出す


『新橋夏樹様

この度は、急なお手紙申し訳ございません。

私はラインハルト・スターカインと申します。

早速なのですが、新橋夏樹様。貴方は私が企画した時間旅行の企画に見事当選いたしました。

時を渡る船で移動する、九十日の時間旅行でございます。

過去を、そして記憶を辿る旅・・・一生できないような経験だと思っております。

もし、ご興味があるのなら・・・旅の準備をした上で「六月四日」の「十九時」に「永海山の山頂」でお待ちしております』

「胡散くさ」


何これ超胡散臭い


「・・・同じこと言うなよ」

「あ、やっぱり思ったんだ」


胡散臭い方法で届いた手紙に、胡散臭い内容の手紙

どこを信じろというのだ


「相良は信じられない話でも、可能性があるのなら行くのを即決するだろうから先にお前に見せた」

「確かに・・・時間旅行だもんね。上手くいけば、幸雪君は明治時代に帰れる」

「ああ。俺自身も少しこの話に興味がある。だから参加しようと思うんだ。胡散臭いが」


意外な反応に、私は驚きを隠せないが・・・何か意図があるのかもしれない


「最悪、相良だけなら俺が抱えて逃げることもできるが・・・」

「得策じゃないと思う」

「だろうな」


消印がついていない手紙が冬夜君の家に届いたってことは、このラインハルトさんとやらに住所は知られている

それを冬夜君も理解しているはずだ


「それにしても、お前たち宛に渡さなかったのが不思議なんだよな・・・」

「怪しい手紙はお兄ちゃんが捨てるかもだからじゃない?」

「冬樹ならやりかねないな」


「それに、冬夜君は今、教会じゃないところで一人暮らしているんでしょう?一番私たちの手に渡りやすい存在だから・・・私たちの分も一緒に入れたんじゃないかな」

「ああ。その考え方もできるな。しかし、先に行っておくが・・・俺は一人暮らしではない」

「え、誰かと一緒に暮らしているの!?」

「ああ」

「もしかして、彼女とか?」

「一生作る気はない。俺と同じく、身寄りのない奴だ」

「なるほど・・・」


「とにかく、俺の場合、同居人には俺宛の手紙が来たらどんなものでも渡してほしいと頼んでいるから・・・一番手に渡りやすいだろう」

「それに、冬夜君が手に取ったとしても、自分の分を含め見知った名前があれば見てくれる可能性の方が大きいかもしれないよね」

「そうだな。冬樹の場合、不審物は捨てるだろうし、大体こんなところだろう」


「・・・ねえ、冬夜君」

「なんだ」

「私もこの時間旅行の誘いに乗りたいな」


胡散臭いけど、明治に帰る手掛かりができるかもしれない

それに、なんだか行くべきという感じがするのだ

感覚だけど、断言はできないけれど・・・それでも無視したらダメな感覚


「危険すぎると思うが、それでもか?」

「罠かもしれないのは重々承知だよ。槍持ち出すから自分の身ぐらいは守って見せる」

「照基爺さん仕込みの槍術を扱えるお前ならまあ心配はいらんが・・・自分の身は自分で守れよ」

「わかってる」

「・・・もしもの時は真っ先に俺を頼れ。それが条件だ」

「・・・うん!」


条件付きだが許可は出た

その条件はとても頼りがいのある条件だ


「この件は冬樹に言うな。心配する」

「うん。内緒だね」

「朝食食い終わったらそのまま学校に向かえ。部活だろ?」

「今日もね・・・」

「お前がやるって決めたんなら、頑張れよ・・・」

「へーい。あーあ、今日ぐらいは休みたいな」

「休んで冬樹と一緒に居たらぼろ出しそうだからな、お前」

「そ、そんなこと・・・・!」


ありそうだな・・・お兄ちゃんは案外勘いいし


「あるよな?」

「あるね・・・」


疑われて、そのままなし崩しに話してしまうかもしれない

そう考えると、今日は部活で本当によかったと思える


「俺は冬樹が仕事に出たタイミングで相良にこの件を説明する。もちろんお前と俺が参加する旨も」

「ありがとう、冬夜君。お願いね」

「しょうがないからな・・・」

「幸雪君の返事、送ってもらえる?」

「・・・真っ先に伝えてやる。でも部活の休憩時間に見ろよ」

「よろしく!」

「さて、掃除の続きに戻るか・・・ん、あれは?」

「あれって?」


冬夜君が指さした先にあるのは、小さな犬小屋だ


「・・・ああ。あれ?去年まで拾った犬を飼っていたんだ」

「でも今は・・・」

「出ていったんだ。首輪、自分で外して」

「ある意味凄いな・・・まあいいか。俺は反対側してくるから。お前はあっち」

「了解だよ!」


箒を持って、境内周辺へと向かう

掃除を終える頃にはお兄ちゃんと幸雪君が起きてくるだろう

先程の密談をした事がばれないように、どんな感じで振舞えばいいだろうなと考えながら、私は掃除に取り掛かった


・・


あの後、私は忙しなく部活へと向かった

私が所属しているのは薙刀部だ

槍の新たな戦い方を模索し、薙刀での戦い方を学んでいる


昔、私のお爺ちゃんである「新橋照基にいばしてるき」が存命だった頃

私はお爺ちゃんが持つ「新橋流の槍術」を叩きこまれた

なぜかうちの家には武術が伝わっている

本来ならお兄ちゃんが継がないといけないのだが、お兄ちゃんが筋金入りの運動音痴なので代わりに私が引き継ぐことになった経緯がある


私が継いだ槍術。その他に弓術と剣術、そして柔術の四つが伝わっている

お爺ちゃんが亡くなる前に、私は槍術だけ免許皆伝となり・・・正式な後継者として認められた

弓術と剣術に関しては弟子が二人いたそうだが、ある日を境に来なくなったと聞く

十五年前の話だし、私も会ったことのない人物だ

二人とも真面目な子だった・・・と、お爺ちゃんが言っていたことだけは覚えている

その二つに関してはもう継ぐ者がいなくなり教える者もいなくなってしまったのだ

そして柔術は・・・何というか、お爺ちゃんが自信を無くしてしまったが、技だけはすべて「彼」に引き継がれている


朝から練習を続け、やっと部活も終わる

今日の部活は昼まで

私たちが練習に使用している武道場は、午後から柔道部が他校との練習試合で使用するそうなので空けなければならないのだ

モップ掛けを軽く行い、やるべきことは一通り終えた後、制服に着替えて武道場を出る


「あっつー・・・」


暦上は夏だが、もう少し涼しくてもいいのではないだろうか

私は邪魔にならない日陰に移動して、早速「A‐LIFE」を起動させる

冬夜君からメッセージが来てないか確認する為だ

メニューを見ると、新規メッセージが届いていることを示す通知が光っていた

それをタップすると、冬夜君から『予想通り、相良は行くと即決だった』というメッセージと、幸雪君からもう一つメッセージが来ていた


『雪季の方にも手紙が届いていたようだ。行くと言っている』


どうやらあの手紙は雪季君のところにも届いたようだ

本人が行くというなら止めないけれど、不安の方が大きい


『自分の小遣いで病院行って予備も含めた半年分の薬も手に入れてきたとかいうメッセージが来た。あいつやべえよ』

『しかも親に内緒という念書も書かせたとか、本当に中学生なのかあいつ』


・・・雪季君の行動力に恐れを覚えそうになった

全てにおいて準備が万端すぎる・・・自分のリスクも考慮した上での行動だろうけれど・・・それでもちょっと恐ろしい


「うーん・・・」


ふと時間旅行の手紙のことを思い返す

九十日・・・長い旅行みたいな感じだよね

お兄ちゃんに内緒で荷物を持ち出すのは可能だ

七時半前に荷物を運び出せば問題ないのだから


「・・・私も旅行に行く気で準備でもしようかな」


私は幸雪君と冬夜君にメッセージを一つ送る

二人も今日決めたので、必要なものとかはほとんど揃えていないだろう


「学校帰りにショッピングモールに行こうと思うんだよね。二人は何か必要なものはある?」


そう送ると、幸雪君からメッセージが来る


『ちょうど早瀬ともショッピングモールに行かないかと話していたんだ。その予定なら学校に迎えに行くから待っていろと早瀬が』

「了解。しばらく待ってるよ。到着する頃にまた連絡してくれる?」

『ああ。それじゃあまた後で』


幸雪君からのメッセージはそれで終わる

雪季君はどうかな思ったけれど、病院に行ったんだよね

ダメ元で連絡してみようかな


「雪季君、一つ聞きたいんだけど今大丈夫?」

『大丈夫ですよ。なんでしょう?』


こちらも反応が早い


「雪季君のところにも時間旅行の手紙が届いたって聞いたよ。薬は取りに行ったって」

『はい。それから病院の近くなのでショッピングモールで必要なものを揃えようかと思っています。夏樹さんたちはどうされるんですか?』

「私たちももう少ししたらショッピングモールに行く予定なんだ。せっかくだし一緒にどうかな?」

『ぜひご一緒させてください。僕は先にショッピングモール内で待っています。そこの・・・本屋さんの前で待ち合わせ・・・どうでしょう?』

「わかった。幸雪君と冬夜君・・・あ、雪季君は冬夜君とは初めて会うんだよね」

『その方も、手紙を?』

「うん。後で紹介するね」

『わかりました。では、また後で会いましょう』


雪季君とのメッセージも終わる

そして私は雪季君のことも幸雪君に教える


『了解。早瀬にも伝えておく』と一言送られてきた


その後に『もうすぐ到着だ』と送られてきた

私はすぐに二人と合流できるよう武道場から出た


「あ、そうだ」


幸雪君は冬夜君と二人でこの学校まで来るんだよね・・・

なんだか、悲惨な予感がする

校舎の近くに設置してある自販機で、水を一つ買う

それを持って、私は校門まで向かった

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