2ー14:穏やかな翌日
四月二十一日
目が覚めたら、自分の部屋でした
布団の上で、いつも通り眠っていました
着ていた服は寝間着にしている浴衣ではなく、外出用の洋服
幸雪さんに自分の身体のことを告げたことまで覚えているのですが、それ以降は曖昧です
バスに乗ったのまではなんとなく覚えています
僕はどうやって家に帰ったのでしょう
それにこの様子では昨日、お風呂も入っていないようです
何があったんだろうと考えながら自室を出て廊下を歩いていきます
顔を洗って目を覚ませば、少しは頭が冴えるかもしれません
廊下を歩いていると、お母さんが忙しなく庭の掃除をしていました
「雪季君、起きたのね」
「おはよう、お母さん」
「おはよう。でももうお昼よ」
「え・・・今何時?」
「もう十一時。早起きの雪季君にしてはよく眠っていたわね」
「十一時・・・」
いつも六時起きですので、こんなに遅く起きたのは初めてのことです
本当に、休みでよかった
平日だとしてもお母さんのことですし、体調が悪いかもしれないと病院に連れて行ってその日は寝て過ごさせると思いますが・・・
「ええ。昨日、夏樹さんと幸雪さんと美術館に行ったのよね?」
「うん」
「お母さんとの約束通り、自分の病気の事二人に話したのね。連絡貰っていたから知っていたけど、二人して晩御飯の後にお薬飲んでいたので大丈夫です!って言っていたわ」
夏樹さんはお母さんに動画で薬を飲んだことを伝えたのに、伝えてくれたのか
その光景は容易に想像できて、笑いが零れる
「二人は帰りに眠った貴方を送って、お布団まで敷いてから帰ったの。お母さんもお礼を言ったけれど、雪季君からもお礼を言うのよ」
「もちろん。あとで連絡をするから、安心して」
「ならばよし。雪季君、シャワーだけでも浴びておいで」
「うん」
「それとね、雪季君」
「なあに、お母さん」
「雪季君は昨日、楽しかった?」
お母さんに僕の答えはもうわかっているようです
けれど、僕の口から聞きたいのだと思います
僕自身も、きちんと伝えたい
「楽しかった!」
「よかったね。雪季君」
あまり作らない笑顔を浮かべて、母さんにそう告げると母さんも嬉しそうに笑ってくれました
「また行っていい?」
「体調次第ね。それに夏樹さんと幸雪さんからもお願いされたわ。また雪季君を誘って出かけてもいいですかって」
「本当?お母さんはなんて言ったの?」
「もちろん。雪季君をお願いしますって言ったに決まっているじゃない」
「そっか。ありがとうお母さん」
「いえいえ。これからも仲良くするのよ?」
「うん!」
「ほら、早く行っておいで。その間にお昼を用意するわね」
「ありがとう」
「あ、そうだ。折角だし、昨日の事をお爺様にも教えてあげたら?」
「そうだね。じゃあ母さん、また後でね」
そう言って僕は廊下を歩いていきます
「・・・あの子の笑顔を見たのはいつ以来かしら」
「いいお友達を持ったわね、雪季君」
お母さんの一言は箒の掃く音に消えていきました
それから曾お爺様に昨日の件を教えると、嬉しそうに笑ってくれました
その後、お風呂に入り濡れた髪を乾かしながら自室に戻ります
部屋の引き出しから今日の分の薬を取り出し、また廊下を歩いて居間へ行きます
ああ、なんでこの屋敷はこんなにも無駄に広いのでしょうか
歩くだけでも体力がつきそうです
お昼ご飯の前に、夏樹さんへお礼の連絡をしようと「A‐LIFE」を操作して、連絡先を出しました
どんな感じに話を切り出そうかと考えていると、少し胸が痛んだ気がしました
普段起きている発作に比べたら非常に軽いけれど、少し不安を覚えてしまったことは事実です
『もしもし、夏樹です。起きたのかな、雪季君』
「はい。先ほど・・・・昨日は――――――――――」
彼女の声を聞くと、さらに胸が痛くなっていきました
発作が起きているのでしょうか
朝、薬を飲んでいないからでしょうか・・・早くお昼を食べた方がいいかもしれません
通話が終わると共に、胸の痛みもなくなりました
なんだったんだろうと思いつつ、僕は先ほどの痛みを思い返してみます
それは普段の発作よりも、凄く心地いい痛みだったと思うのです
その理由はまだ、わかりません




