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針指す時の終末日  作者: 鳥路
夏樹編序章「明治からの客人と時間旅行」
11/83

2ー10:4月20日。本日の予定は?

四月二十日

今日は休日

私たちは神社の掃除を終えて朝食を食べた後、のんびりテレビを見ていた


あるニュースが連日のように報道されている

新進気鋭の怪盗「ワンリーフ」が永海美術館に期間限定展示されている「魔狼伝説」の巻物を二十日の七時に盗むと予告状を出した

ここ最近は、その話題で持ちきりだ


ワンリーフは義賊怪盗とも呼ばれ、盗品の可能性があるものを盗むことで有名な怪盗だ

そして彼が狙う「魔狼伝説の巻物」も、盗品の疑惑があるようなものだそうだ

しかし、決定的証拠がないためうやむやにされ続けていると、噂に詳しいクラスメイトが言っていた

ちなみに「魔狼」というのは、日本のどこかに存在した人と狼の「混ざりもの」な存在らしい


以前の私ならこう言っただろう「胡散臭い」と

しかしここ最近御伽話のような出来事に遭遇し続けているのでこの魔狼伝説も、もしかしたら本当にあった出来事なのではないだろうかと思っている


「・・・今日も平和ですねぇ」

「そうだな」

「それに暇ですねぇ、相良さん」

「・・・」

「相良さん?」

「あ、俺の事か。そうだな。暇だな」

「最近「幸雪君」って呼ばれるのが増えたから反応遅くなりましたね?」


最近、相良さんは一人で買い物に行けるようになった

その関係か、商店街の人とも少し仲良くなったようでおまけしてもらったと喜びながら報告してもらったのは記憶に新しい


「そうかもな。夏樹さんも名前でいいんだぞ?」

「じゃあ、幸雪君って呼ぶよ」

なんだか今まで苗字呼びだったのに、今更名前呼びに変えるのは少々照れくさい


「ああ」

「それにしても幸雪君。あまりにも暇だと溶けちゃいそうだよね」

「溶け・・・?まあ、そうだな。だらだらしそうだな」

「せっかくだしさ、雪季君も誘って永海美術館行ってみない?」

「ワンリーフに興味があるのか?」

「ワンリーフもだけど、魔狼伝説っていうのもなんだか面白そうだから」


テレビでは丁度魔狼伝説の特集をやっていた

丁度、魔狼伝説の巻物に記された時代の話をしていた

されど宣伝なので、肝心なところは美術館に見に来てね!という部分はお決まりだ

しかし、私が幸雪君に伝えたいことはきちんと伝えてくれた


「この魔狼伝説というのは、江戸時代の話なのか・・・書かれたのは明治時代みたいだけど」

「まあ、メインは暇つぶしだけどさ。もしかしたら、キッカケとかあるかもしれないでしょ?それに・・・」

「それに?」

「なんか、今日はいいことありそう!」

「・・・どういうことなんだ。しかし・・・お金の問題が」

「払おうか?」

「流石に、衣食住を提供してもらっている上で無心するのは・・・」

「じゃあ、お兄ちゃんにお給料先払いできないか聞いてみる?」

「そうだな。それで大丈夫なら、構わない」

「やった。早速雪季君に連絡してみよう」


A‐LIFEを起動させて、雪季君にメッセージを送る

「永海美術館に行ってみない?」

すると、意外と早く返信がやってきた


『幸雪さんのやる事探しですか?』

「ううん。暇つぶし。まあ、時代も近いし、何らかのキッカケになればなって思うのもあるけれど、単に興味の方が大きいんだけどね」

『なるほど。構いませんよ。待ち合わせはどうしますか?』

「そうだね。じゃあ、二時半に雪季君の家に行くよ。それでいい?」

『了解です』


時間を指定すると、あっという間に短い文章が送られてきた


「二時半に雪季君の家!」

「了解。それで合わせて準備をしようか」


幸雪君に決まったことを伝えると、彼はすぐに動き出す

動き出した理由はもう十二時近かったからだ


「お昼?お手伝いするよ」

「ああ。頼む」


お兄ちゃんの分も含めて二人で昼食を作りに行く

二時半は、もう少しだ


・・


二時半少し前

私たちは家を出て、相良家に向かう

そこで以前と同じようにインターフォンを押す

そして、応じてくれた女性に要件を伝えて雪季君が来るのを待っていた

しばらくするとゆっくりと門が開かれる

そこには洋服姿の雪季君が立っていた


「お待たせしました」

「ううん。大丈夫。今日は着物じゃないんだね?」

「あれは部屋着みたいなものですので。普段はこっちですよ」

「それじゃあ、そろそろ行くか」


幸雪君の声に私たち二人は頷いて、相良家から一番近いバス停まで向かう

ここから永海美術館に移動するのは、バスで行くしかない

徒歩で行ってもいいけれど、市街地に出るまで時間がかかる


「そういえば、幸雪さんはバスに乗るのは初めてですか?」

「そうなるな・・・」

「現金の準備は?」


私たちはA‐LIFEの電子マネー支払いができるけど、持っていない幸雪君は別だ

雪季君の問いに、幸雪君は嬉しそうに不敵な笑みを浮かべる


「ちゃんと用意している」

幸雪君は自慢げに鞄から財布を取り出す

あの後、二人でお兄ちゃんに給料の先払いを頼みに行った

「まあ、幸雪自身自由になる金が要るだろうしなあ・・・計算するから少し待っててくれよー」と返事を返して、部屋に籠り、昨日までのお給料を入れた財布を幸雪君に手渡してくれた

「家のことも色々としてくれるし、神社の手伝いも毎日遅くまでしてくれてるから、色付けてるぜ」とのことだ


「・・・というわけだ」

「なるほど。現代初給料おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。二人はその、耳に着けているのと、腕に着けているので払うのか?」


私たちが頷くと、幸雪君は羨ましそうにそれを見る


「・・・給料貯めて買おうかな」

「ここで暮らす上ではあった方が便利だよ」

「だろうな・・・」

「あの、幸雪さんはどちらで働いているのですか?」

「新橋神社の手伝いだ」

「へえ・・・。あ、そうそう・・・曾お爺様から一つ。幸雪さんの戸籍は取得したと言っていました。これが謄本になるそうです」


雪季君が鞄から茶封筒を取り出し、幸雪君に手渡す

戸籍ってそんな簡単に手に入れられるものなのかな・・・


「な、なるほど・・・助かるよ」

「一応、曾お爺様の隠し子と言う扱いにしたそうです。便宜上なので、怒らないでください。こうするしか、方法がなかったそうです」

「・・・深くは聞かない方がいいんだろうな」


それが理由としては一番手っ取り早かったのだろうか・・・?

私も深く聞かないでおこう・・・


「あ、バス来ましたよ」

「あれがバス・・・四角だな・・・」

「じゃあ乗ろうか。幸雪君は整理券取ってきてね」

「この紙か?」


整理券の箱を指さすと幸雪君はそこから一枚紙を取り出し手に取った


「そうそう。降りるときに運賃箱にお金と一緒に入れるんだよ」

「わかった」


幸雪君が先に乗り込み、私と雪季君はそれに続いて乗車する

入口を通過した時にA‐LIFEに通知が入る

目的地に着いたら移動した分だけの料金が自動的に支払われる旨の通知だ

電子マネーの残高を確認する

この前、給料という名のお小遣いをもらったため懐はまだあったかい

三人並んで一番後ろの席に座る

しばらくはバスに揺られることになるだろう


「あの」

「何かな、雪季君」

「・・・今日の美術館は人が多そうですよね」

「ワンリーフが来ちゃうもんね」

「やはり、展示ではなく怪盗ワンリーフが本命ですか?」

「本命は魔狼伝説だよ。江戸時代のお話だけど、何が幸雪君の「やるべきこと」を見つけるキッカケになるかわからないでしょう?だから暇つぶしも兼ねてね。雪季君は?」

「そうですね。協力と言うのもありますが、僕も興味があったので・・・」

「ワンリーフに?」

「いえ。魔狼伝説の方です」

「そうなんだ。もしかして展示を見に行くのは二回目?」

「いえ、一回目です。母はそういうのは怖いからと連れて行ってくれないので・・・」

「へえ・・・」


相良家に行くのは二回目だが、雪季君のご両親には会ったことがない


「お母さんは何をしている人?」

「ごく普通の主婦ですよ」

「珍しい・・・のかな」


この時代、共働きが多くて専業主婦をしている人はなかなか見ない

それだけ余裕があるということの証明でもあるかもしれない


「珍しいと思います。母が専業主婦だというと驚かれるので・・・驚かなかったのは夏樹さんだけですよ」


驚くも何も、それが普通なのか特別なのかわからないからどう反応したらいいかわからないだけ、なんて言えるわけがない

・・・両親が亡くなっているからか、周りの子は私の前では両親の話をしなかった

初めてだな、誰かのお母さんの話を聞くのは


「雪季君のお母さんってどんな人なの?」

「そうですね・・・過保護で、一人で外出するのは絶対にダメだと言われます。今回、展示に行きたかったんですけど、母が怖がってしまうので・・・誘ってくれて嬉しかったです」


雪季君の笑顔に少しだけ心がほっこりする


「今日出かけることを伝えると、とても喜んでくれて・・・お昼はお赤飯でした」

「優しいお母さんだね」

「はい。そういえば、これまでに幸雪さんの「やるべきこと」の手掛かりらしいものは見つかりましたか?」

「まだだね・・・まあ、時間はあるし気長にやるしかないよ」

「そうですね・・・まあ、すぐに見つかると言うものではないでしょうし。今日の外出で何かきっかけをつかむことができたらいいのですが・・・」


話の当人である幸雪君は子供のように流れる景色を眺めていた

彼がこうしてバスで移動するのも初めてだし、今はそっとしておこう


「・・・本当に楽しそうですよね」

「わかる」

「現代のことは、やはり珍しいことばかりなのでしょうか」

「そうだろうね。昔は自動車がこんなに普及してなかったとか、お金の単位が全然違うって。現代は高すぎるってぼやいてたし・・・洗濯機とかお風呂には感動してたよ」

「感動まで・・・まあ、生活習慣もだいぶ違いますし・・・でも、明治ですか」


雪季君が何かを思うように顔を上げる


「一度、行ってみたいですね」

「だね。私たちも明治に行ったら幸雪君みたいに、全部が凄いと思っちゃうかも」

「確かに。色々と目移りしちゃいそうです」

「こっちでは当たり前でも、時代が違えば全然だろうから・・・想像するだけでも楽しいかもしれないね」


「例えば、僕らが明治時代に行ったとして、最初に直面しそうな問題は何でしょう?」

「そうだな・・・お金の問題とか?」

「全然単位違いますもんね。それと僕は大丈夫ですけど、夏樹さんは着物とか・・・」

「神社で巫女服着てるから着付けは大丈夫。それなら後は・・・移動手段とか?」


「自転車は高いみたいですよ・・・曾お爺様が言っていました」

「永海は自転車向かないからセーフだね」

「坂道ばかりですもんね。逆にきつそうです」

「じゃあ、徒歩だね。ずっと草履とか下駄とかで移動はきつそうだよね」

「わかります。数時間履いているだけでも指の付け根が痛くなりません?」

「なるなる!絶対靴買わないとやっていけないかもしれないね」


「後は・・・なんでしょう」

「・・・洗濯とか大変そうじゃない?板だよ」

「想像したら一番苦痛に感じました。洗濯機最高ですね・・・」


『次はー美術館前。美術館前。お降り方はー』

バスのアナウンスで、そろそろ目的地だと気が付く

時間があっという間に感じさせられた


「次だね」

「降りる準備しましょう。ほら、幸雪さん、190円財布から出してください」

「あ、ああ。この銀色のと、穴が開いた銀色と、茶色が四枚。札じゃないんだなぁ・・・」


雪季君が窓に張り付いた幸雪君にお金を出すように促している

私はその間に降車ボタンを押して、美術館前のバス停に着くのを待った

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