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異世界での幸福対策

 わたし、田神奈央。小学三年生。

 今、わたしの前では三人の魔法使いが、料理長から分けて貰ってきた梅酢でうがいをしている。


「小さじ一杯の梅酢を、コップ一杯の水で割るの。初めに口の中をゆすいで、その後は喉の奥をうがいしてね。乾燥にもだけど、風邪のひき始めにも効くわ」


 おばあちゃんの言葉に、うがいをしている三人がコクコクと頷く。

 年は、三人とも同じ高校生くらいだ。

 一人は短い金髪に、薄茶の目をした男の子で。

 もう一人は栗色の髪を三つ編みにした、青い目の女の子。

 そしてさっき、わたしを『座敷童』呼ばわりした、赤毛のツインテールに緑の目をした女の子だ。


(三人とも、日本人じゃない……転移じゃなく、転生ってことかな?)


 ミケを腕に抱いたまま、そんなことを考えていると――うがいを終わらせた三人が、わたしとお婆ちゃんを見た。


「あの、ありがとうございました……ところで、あなた達は」

「あなた達、日本人!?」

「おい! どうやってこの異世界に来たんだ!?」


 三つ編みの女の子の言葉を遮って、赤毛の女の子と金髪の男の子が話しかけて――と言うか、問い詰めてくる。三つ編みの子はともかく、二人は何だか偉そうだと思っているとスッとお婆ちゃんがわたしの前に出た。


「……ウチの孫を、怖がらせないでね? 私と孫は、仰る通り日本人よ。あなた達が色々する度に、この国の人達から相談が来ていてね。でもその回数が増えてきたから、私も老体に堪えてね。少し控えてほしくて、ミケに連れて貰ってきたの」


 顔は見えないけど、声は優しいけど――お婆ちゃんは、怒っているみたいだった。さっきまでは違ったから、今の偉そうな態度に怒ったんだと思う。


「ミケって……その猫がいれば、日本に戻れるのか!?」

「ちょ、ユウ!?」

「っ!?」


 だけど、お婆ちゃんの言葉に、金髪の男の子――ユウがお婆ちゃんの後ろにいたわたし、と言うか抱いていたミケに手を伸ばしてくる。

 奪われないように、咄嗟にミケを抱いたままわたしがしゃがみ込むと。


「……いい加減に、しなよ!?」

「うわっ!」


 叫び声と共にユウが声を上げたのに、わたしは顔を上げて目を丸くした。

 ……その視線の先では、ユウの首から下が氷漬けになっていて。 驚いて視線を巡らせると、三つ編みの子が杖を掲げて口を開いた。



「確かに、前世の……日本のことは懐かしいし、便利になるのは良いけど! 色々押し付けて、この世界を変えるのは……あと、迷惑かけるのは違うでしょう!?」

「マリ……そう、そうだよね……何気ない言葉で、プレッシャーかけたりして……ごめん、ごめんね、マリ……」

「リサ……ううん、私こそ……」


 今までの不満を爆発させて、ボロボロ泣きながら三つ編みの女のマリが訴えると、その言葉に反省したらしい赤毛の女のリサが目を潤ませながら謝った。多分だけど、以前の紫外線騒ぎはリサさんが起こしたんじゃないかな?


「わ……悪かった……だから! 助けてくれよーっ!」


 そして、マリに氷漬けにされたユウは、自力で脱出出来ないらしく二人に泣きついていた。



「それじゃあ、生活向上はほどほどにね? あと私達は、元々が日本人だからミケと一緒に戻れるけど……この世界では、役職の長にならないと日本に来られないらしいの。だから、来る時はちゃんと正規の手続きを取って来てね」

「「「はい!」」」


 その後、お婆ちゃんとわたしに謝ってきた三人に、お婆ちゃんはそう言った。今度は隣にいたので、にこにこ笑って見えたけど――さっき怒られたので、三人とも緊張した様子で良い返事をしていた。

 そんな彼らに、持ってきたお餅を渡してお婆ちゃんが言葉を続ける。


「あなた達が来る頃には、奈央ちゃんが賢者を継いでいるかもしれないわね……その時は、この子をよろしくね」

「えっ?」

「おっ、どっちが先か競争だな」

「ユウってば、偉そうに……マリに負けたくせに」

「ち、ちょっと油断しただけだっ」

「ユウ君、それなら後でちゃんと勝負つけようね……あと私も、あなたと会えるように頑張るね」


「あたしも、二人に……特に、ユウには負けないからね!」


 そして、いきなりのお婆ちゃんの言葉に驚いていると、三人が目標が出来たとばかりに盛り上がった。ユウ……君?はまずまずのイケメンだけど、こうして見てると二人のいじられキャラになっていて面白い。

 驚いたけど、確かにここまで関わったら私が賢者に適任だ。あと、お婆ちゃんに色々教えて貰えるのは楽しいと思う。

 だから、この三人の誰かと会える未来を楽しみにしながら、わたしは笑って答えた。


「わたしも……賢者ナオ目指して、頑張りますっ」


―終―

ここまでのお付き合い、ありがとうございました。

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