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異世界での胃もたれ対策

 わたし、田神奈央。小学三年生。

 わたしは、ひょんなことから異世界の人達の相談役になっている、お父さん方のお婆ちゃん。ミネお婆ちゃんのことを知った。

 ミネお婆ちゃんの家は同じ都内の郊外で、お母さん方のお爺ちゃん達の家は隣の県だ。

 飛行機に乗るまでの距離ではないけど、お父さんのお仕事もあるのでしょっちゅうは帰れない。だから、お盆の時に一年おきに一方の家に行き、もう一方の家にはお正月の時に行くのが恒例になっていた。

 ……秋の連休にもミネお婆ちゃんの家に行きたかったけど、一人で行くのは難しかった。

 でも、今年のお正月は、家族でミネお婆ちゃんの家で過ごすことになっていた。

 だから、お父さん達や夏に生まれたわたしの弟も、一緒に来る筈だったのが――今、わたしだけが来ているのは、お父さんがインフルエンザにかかったせいだ。


「母さん、頼む、奈央を……っ」

「お義母さん、すみません……!」

「あんたは、早くインフルエンザを治しなさい。あと、春奈さんは気にしないでね? 逆に、うちの息子が申し訳なかったわ」


 終業式の日。電話で、そんなやりとりが交わされた。

 通院後、完治するまでお父さんは自宅待機になり。お母さんと弟の央人ひろとは、お母さんのお爺ちゃん宅に避難。そしてわたしは夏休み同様に冬休みの間、ミネお婆ちゃんの家で過ごすことになったのだけど。


「賢者ミネ様、どうか我々にその知恵をお貸し下さい」


 大晦日の夕方。大掃除が終わった頃にミケに連れられ、勝手口からやって来たのは白いコック服を着たおじさんだった。

 恰幅が良いんだけど、何だか顔色が悪い。それは、お婆ちゃんも同意見だったようで。


「まあまあ、大丈夫? お茶でもどう?」

「いえ……お気遣いなく」

「あらあら」


 何となくだけど、夏に冷房で胃弱と冷え性になったおじさんを思い出した。

 今日、来たおじさんは異世界の王宮でコック長を務めているらしい。日本だと忘年会シーズンで食べ過ぎるってあるけど、異世界でもそうなのかな?

 そう思っていたのが顔に出たのか、コック長のおじさんは俯いて悔しそうに呟いた。


「アゲモノが……美味しいんですが! しかも、一緒に食べると美味しいマヨネーズも、また胃にもたれて……っ」

「まあまあ」


 お婆ちゃんは、優しく相槌を打っているけど――横で聞いていたわたしとしては「またか」と思わず眉を顰めた。



 何でも、有能な魔法使い達が現れるまでの料理は基本、煮るか焼くかだったそうだ。

 とは言え、パンはあったので――そのパン粉を使って魔法使い達は『アゲモノ』と、あと卵と酢で作ることの出来る『マヨネーズ』を伝授したらしい。

 その新しい料理は、国民だけではなく料理人も魅了しコック長を始め、多くの店で振る舞われたそうだが。


(そりゃあ、揚げ物とマヨネーズの過剰摂取は、人によってはキツいよね)


 料理の向上も、小説や漫画ではあるあるだ。食べたい気持ちのままに広めたんだろうが、いきなり取り過ぎたらそりゃあ、胃もやられるだろう。


「そうねぇ……りんごには、胃酸を調整する働きがあるわ。胃腸にかかる負担が少ないよう、すりおろしたり蜂蜜を入れて優しく煮たものを食べるのも良いわね」

「おぉ……っ」

「あと……あなたの国には、確か梅があったわよね」


 そう呟くと、お婆ちゃんは不意に立ち上がって奥の部屋へと歩いていった。そして戻ってきたその手には、たくさんの梅が液体に漬かっている瓶がある。


「これは、梅と酢、果糖で漬け込んだ梅酢よ。下痢気味の時に、薬のつもりで盃で一回飲むと楽になるわ。ただ、作るのに二ヶ月かかるし、梅の時期は初夏だから……まずは、これをお持ちなさい。無くなったら、多めに作っているからまた来ると良いわ」

「おおっ……素晴らしい知恵だけでなく、貴重な薬まで! ありがとうございます、賢者どのっ」


 梅酢の入った瓶をしっかり抱え、コック長のおじさんは深々と頭を下げると勝手口から出ていった。


「さあ、奈央ちゃん。紅白の前にお風呂に入ったり、ご飯を食べたりしましょうね。お蕎麦も作るわよ……ああ、ミケのご飯もね」


 そんなおじさんを見送ると、お婆ちゃんはミケを撫でながらいつもの優しい声でそう言った。

 仕方ないとは言え、家ではどうしても弟優先になっていたから――お婆ちゃんにそう言われ、わたしは嬉しくて頬を緩めた。


「うん!」

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