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異世界での紫外線対策

 わたし、田神奈央。小学三年生。

 今までは、一泊二日くらいでしか来たことがなかったけど。お母さんの妊娠&里帰りにより、夏休みをお父さんのお婆ちゃんの家で過ごすことになり。ひょんなことから、お婆ちゃん家の勝手口が異世界に繋がることを知った。

(でも、お婆ちゃんは確か『お客さん』は年に一、二回くらいしか来ないって言ってたけど)

 だから夏休み中に、しかも前とは別の人がやって来るとは思わなかった。


「賢者ミネ様、どうか我々にその知恵をお貸し下さい」


 前回は金髪のイケオジだったが、今回は声だけ聞くと三十代くらいの女性だと思う。

 ……思う、というのは元々、修道女シスターの格好をしていて、白いベールで肌や髪が隠れているんだけど。

 本来なら見えるだろう、口元――と言うか顔の三分の二、緑の目がやっと見えるくらいまでも、白い布で隠されているからだった。


「まあまあ、残暑に暑いでしょう? 熱中症が怖いから、口元の布は外したら?」


 そう、夏休みなので今は夏だ。この前、来たおじさんが夏だって言っていたから、今回の相談者さん(女性なので、お姉さんで)の国も夏なんだと思う。

 だから、とお婆ちゃんが言うと、音がするくらいの勢いで首を横に振られた。


「いえ……確かに、室内ですが! 肌を出したら『シガイセン』の魔の手が!」

「あらあら」

「シガイセン……紫外線?」


 そしてすごく真面目に訴えられた内容に、お婆ちゃんはあいづちを打ち――わたしは、というとこの短期間で、お婆ちゃんの知恵を借りに来た理由に思い至った。

(多分って言うか絶対、前回異世界に現代病を持ち込んだ人達の仕業だよね)



 わたしの予想は的中した。

 何でも、国の為に尽力している魔法使いの口から「紫外線を無防備に浴びるなんて、危険すぎる」と注意喚起があったらしい。

 そのこと自体は、確かに間違っていないと思うけど――問題は、お姉さんを初めとする教会の修道女さん達は、建物の中で祈るだけではなく薬草を育てたり、その薬草から作られた薬を街に届けたりで外に出るらしい。

(不安だけ煽って、アフターケアないってどうなんだろう?)

 小学生でも解るのに、異世界転生もしくは転移した人達には解らないんだろうか? 何となく大人だと思ってたけど、もしかしたら学生さんなのかもしれない。


「遮ればいいらしいので、出来るだけ日に当らないようにしているのですが……まだまだ暑いですし、目の辺りだけ出しているので変に焼けてしまったり。もう、どうして良いのかと思いまして」

「……あなた達の中に、卵のアレルギー……食べたりして、具合が悪くなったりする人はいるかしら?」

「えっ? いえ、特には」

「それなら、ちょっと来てくれる?」


 その答えに頷くと、お婆ちゃんはお姉さんを洗面台へと連れていった。そして、冷蔵庫から卵を一個持ってきて、卵白と卵黄に分けてそれぞれお椀に入れる。


「まずは、卵白からね……紫外線で乾燥した肌の、再生を促すから。この卵白を顔に塗って、手のひらでくるくるとマッサージしてちょうだい」

「……はい」


 お婆ちゃんの言葉に、少しだけ躊躇したけれど――お姉さんは、決心したように頷いて口元の布を外した。そうすると声から連想した三十代後半くらいの、けれど女優さんみたいに綺麗な顔が露になった。

 そして言われた通りに手のひらや指先で、目元や頬をマッサージし。洗面台のぬるま湯で洗い流したところで、肌が目に見えてしっとりした。


「まあ……」

「次は、洗顔後の卵黄パックね。卵黄一個分に小麦粉大さじ2、水大さじ1を入れて練るの。あまり緩いと垂れてしまうから、手の甲に塗ってみて垂れ落ちないくらいにね」

「はい」

「顔全体に塗って、十分くらい置いてね。突っ張る感じがしてきたら、洗い流してちょうだい」


 卵一個を無駄にせず、それぞれ洗顔剤とパックにしたことにわたしは驚いた。だけど、お婆ちゃんは更に上手うわてだった。


「最後は、卵の殻の内側にある薄皮よ。美容成分がたっぷり含まれているから、目尻などの皺の部分パックに活用しましょうね。パリッと乾くまでおいて、ぬるま湯で洗い流してちょうだい」


 お婆ちゃんに言われた通りにしたお姉さんの肌は、見て解るくらい瑞々しく甦っていた。


「ありがとうございます! 予防もしますが、今までの『シガイセン』による肌の疲労は、賢者様から教わった方法で癒しますっ」


 そう言うとお姉さんは深々と頭を下げ、再び口元を布で覆うと修道服の裾を揺らして勝手口から出ていった。

 その後ろ姿を見送った後、わたしはミケの背中を撫でているお婆ちゃんを見て思った。


(何か、相談者さん増えそうだから……夏休み中は勿論だけど、秋の連休とか冬も来ようかな)

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