3鍛錬の日々
早速、翌日から鍛錬が開始された。
騎士の父が手が空くのは、騎士団に出仕する前の早朝のみ。
私の訓練は早朝4時から1時間。
早起きは辛かったが。嬉しかった。
そして、そう思えたのは、初日だけだった。
初日は、適当にあしらわれ、父なりにどのように訓練するか決めていたのだろう。
翌日からの訓練は苛烈を極めた。体力作りの基礎訓練30分ですでにフラフラする中、容赦なく木剣を打ち込まれる。
2日目にして、青アザだらけになり、柔らかかった手のひらに血豆が出来た。
そんな私を見て、母がさめざめと泣き、姉達は、メイドと一緒に湿布をしてくれた。
でも、弱音を吐いたら、2度とチャンスは無いのだという思いが、何とか私の毎日を支えた。
騎士を諦めても直ぐに元の生活に戻れるように、母とは令嬢としての習い事も並行して行う事を約束していた。
刺繍糸に血が滲んでも、母は、何も言わなかった。
1ヶ月ほどして、朝のたったの1時間に慣れた頃、父から、午後に訓練の為の師を雇うと言われた。
午後から3時間。元、騎士だったというレルゴ氏から、徹底的に剣の扱いの基礎、身体の動かし方を習った。
1年ほどそんな生活を繰り返し、私は風属性の魔力も持っていた為、魔力の増強方法、風を剣に纏わせて威力を増す為の訓練を受けた。
毎日、朝から手合わせをしてもらっても、父は私に向いているとか、向いていないとか言わない。
他の人と比較しようが無い為、自分の力量がわからない。
自信がない。
もう、ダメだと言われるのでは無いかと考えると怖い。
でも、父に尋ねて、本当は実力は無いのに、気がすむまでやらせてやっているなんて言われたら…。
嫌だ嫌だ嫌だ。
何で騎士になりたいのか、もう、すでにわからなくなってた。
でも、このままじゃダメだって、それだけはわかる。
日々を必死に生きる。
体力が無くて、夕食を食べられずに寝てしまう事も減った。
食べて、筋力をつけて。体力をつけて。
そして、15歳。
王立魔法科学学院入学。騎士専攻科への所属が認められた。
騎士専攻科、通称騎士科に女性は少ない。私の学年は、私と、ルルーだけだった。
騎士科の基礎訓練が始まった。ルルーは強かった。私より、圧倒的に。
聞けば、貴族では無い彼女の父も兄も、騎士団に所属しており、父は騎士団5団長。
物心つく頃には、剣を手にしていたと。
基礎訓練では、魔術を使わずに訓練を行う。
圧倒的な力量の差に、胃が痛む。
男性の騎士からしたら、子供と大人の差と言わんばかりに、叶わなかった。
悔しかった。虚しかった。
なぜ、合格したのだろう。
貴族枠なのだろうか。
実力の伴わない騎士など、要らないのではないか。
悩みながらも、毎日をこなす事しか出来なかった。
共通学科の座学は全く問題無かった。
家庭教師について、既に履修済みの内容ばかりだった。
きっと、母には、わかっていたのだ。
入学後に苦労すると。
3年次までの履修範囲表を取り出して眺めると、共通学科の内容は、ほぼ、全ての項目を履修していた。
でも、どんなに努力しても、頭脳系の同級生には敵わない。
共通学科の成績は学年10位以内に入れたが、首席や次席になる事は叶わなかった。
2年次になって、魔力複合の剣の許可が出てから、私の得意とする風魔法のお陰で、スピードが上がり、切れ味を上乗せする事で、やっと騎士科の平均まで登った。
逆に、平民出で、魔力を持たないルルーは、成績を落とした。
ルルーは、それでもあっけらかんとして笑う。
そんなの、分かりきってたし、成績落ちるのなんて当たり前じゃない、と。
彼女は強い。剣技だけでなく、心も。
見習いたい。強くなりたい。
ブレない人になりたい。