Doubt-3
更新しました!よろしければ覗いていって下さい!
※今回は一部屠殺の表現を用いています。かなりグロテスクな表現と捉える方もいらっしゃると思いますので、ご注意ください。また、苦手な方はご遠慮下さい。
「ウウウウゥ……!」
(野良犬、いや狼か……? いずれにせよ、武器を使うほどの相手じゃないな)
ジンは陽炎を鞘に戻し、右手を空ける。それと同時にべノムの力を半開放、片瞳を紅く染める。
「――ガアアッ!!」
狼は俊敏な動きで飛びかかって来たが、今のジンにとっては遅すぎる。喰らう者に比べれば、ただの野生動物などなんの障害にもならない。
愚直とも言える直線的な突進に、右手の殴打をカウンターのように叩き込む。狼は複数体で連携しながらジンへ多方向から襲い掛かるが、身体能力の強化された殴打は一撃で狼の頭蓋を粉砕する。
――そして狼の猛攻が止んだ頃、ジンの周囲は血と狼だったモノの海になっていた。
「……」
いつから、こんなに強くなったのだろうか。
もちろん喰らう者と戦っていく上ではまだまだ力不足だし、自分以上の実力者は無数にいる。それでもジンはそう思わずにはいられなかった。
(こんなに大きくて凶暴な狼の群れ……スラムで暮らしていた頃だったら、間違い無く手も足も出なかった。それなのに、今は少しも恐怖を感じなかった)
血に塗れた右手の拳を開く。
「……大丈夫。まだ俺は人間だ。人間のはずだ」
血の海を越え、狼たちがやってきた先へと歩みを進める。
狼の口元に付着していた血。ジンはそれに嫌な予感を覚えていた。
「――これは……」
雪の上に残った狼の足跡を辿り、ジンが発見したもの……それは無残に喰い散らかされた人の死体だった。
その死体は欠損が激しく、かろうじで人型を保った肉の塊と言える。頭部や四肢の一部は欠損し、それと思われるものが周辺に散らばっていた。
(酷いなこれは……さっきの狼が喰い散らかしたのか。これじゃ身元の特定が……あれ?)
ふと、ある事に気付いた。死体に残っている腕が1本、近くに落ちている腕らしきものが3本。数が合わないのだ。足はかなりかじられてはいるが、一応2本とも残っている。
(近くに他の死体は無い……これはまさか、『スパイダー』のものか?)
腕部の増加……刀也から聞いたスパイダーの特徴と一致する。しかしそれだけでは決定的とは言えない。もしかしたら散らばっている腕らしきものは、別人のものかもしれないからだ。
「所持品や服装もほとんど残ってないか……とにかく、刀也に連絡だけでも入れておこう。
――それと……ダメだ、やっぱり気になる。思い過ごしだといいけど……サラさんにも連絡をしておこう」
『そうか……そいつは恐らくスパイダーで間違い無いな。こちらの方は戦闘の痕跡を発見した。派手に折られた木々や銃弾痕……恐らくはサイモンとの戦闘痕だろうが、スパイダーの死体がそこにあるのは不可解だな』
ネクサス越しに刀也の声が届く。
「そうだね……とりあえず俺はこの辺りをもう一度回ってみるよ」
『気を付けろよ。どうも歪な状況な気がしてならない』
「分かってる。じゃ、また。
――さてと」
通話を切り、ジンは来た道をそのまま戻る。方面的には真っ直ぐにジョンの小屋へと、出来るだけ早足で歩く。
――四六時中森を見張っている訳ではない。
それは分かるし、実際その通りだとも思う。
位置情報のバックアップも無しにこの森を歩き回る土地勘。
番人の名を冠するほどの人物だ。しかも自称ではなく、現地の人にそう呼ばれ親しまれている。それも分かる。
(頭では分かっているんだ。ジョンさんが言っていることは正しくて、協力まで申し出てくれて……でも、それでも俺は捨てきれない。
……こんな裏切りみたいな真似、刀也は怒るだろうけど……)
ジンはサラのもたらした位置情報を頼りに、ジョンの小屋まで戻ってきた。
(まだジョンさんは戻ってない……空き巣みたいで気が引けるけど、確かめないと)
扉を開こうとしたが、施錠されている。ドアロック自体はシンプルな構造で、扉が木製ということもあって突破は容易だが……。
(流石に扉ごと壊す訳にはいかないか。なら鍵だけ……!)
陽炎を抜き放ち、ドアノブ側の隙間へ一閃。音も無くロックを切断した。
明かりの灯っていない室内に入る。エリア2の住居らしく、暖炉を中心に据えた暖かそうなインテリアだ。
(壁には猟銃や斧、大振りの剣鉈。ロープやスコップ、貯水タンク……怪しいものは無いみたいだけど……)
盗人が盗む物を物色するように、くまなく小屋の中を探る。結局怪しいものは何一つ出てこなかったが、入口の他に施錠された扉をもう一枚見つけた。
(トイレやシャワー……? でも施錠されているのはおかしいな。なんにせよ、ここまでやったんだ、調べない訳にはいかない)
ジンは入口の時と同様、陽炎でロックを切断する。
――その扉の先にあったモノ。
それを目にしたジンは、強烈な吐き気を催した。
「――――ッッ!! な……なんだ……これ」
人間が、全身の皮膚を剥がされた人間が、足を縛られ逆さに吊るされている。
頭部は切断され、腹は縦に裂かれて臓器類が全て掻き出されている。下に置いてある大きなバケツの中に、掻き出されたと思われる臓器がこれでもかというほど詰められている。
そんな状態になってしまえば、もはやただの肉塊。喰い散らかされたスパイダーの死体よりも、遥かに純粋な肉塊だ。そのシルエットだけが人間であったという証明だった。
そんな肉塊が2つ。大柄なモノと、小柄なモノの2つが吊下げられている。
ここで行われているのは、紛う事無き屠殺。血抜きや皮剥ぎ、洗浄、臓器出し……狩人が獲物を食すまでに行う一連の流れのそれだった。
そして考えるまでもない。この肉塊たちは、失踪したランク6、サイモン・バークレーと同行していた代理人だ。
「うっ……うう。はぁっ……はぁ……っ」
あまりに異常な光景。狂気しか感じることの出来ない光景に、ジンは思わず立ち眩む。
『喰らう者』の意味、どれだけこの生物が人間とは相容れぬ存在なのかを思い知る。
(早く……早く刀也に――)
「――ああ……よく気付いたな。上手く人間を演じたつもりだったんだが」
ジンの背後に、絶望が立っていた。




