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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-8 I need more……
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Spirited away 『神隠し』-4

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 ジンと刀也は番人に快く受け入れられ、テーブルに着きながら一通りの話を聞いてもらった。単刀直入に、まずはランク6・サイモンの姿を見ていないかどうか。刀也が外見的な特徴を幾つか提示する。


 「探しているのは俺たちの同僚の男だ。名はサイモン・バークレーといい、50代後半の男だ。銃器類を携行しており、小柄な老人と2人組で行動していたのだが……」


 「ふむ……50代のよそ者……それに2人組か」


 番人は手にマグカップを2つ持って来ながら、難しい顔で呟く。カップの中にはコーヒーだろうか? 湯気を上げる黒い液体が入っている。


 「とりあえず、ホレ。これを飲んでおけ、道中寒かっただろう?」


 ジンと刀也はそれぞれカップを渡される。


 「すみません、ありがたく」


 「心遣い痛み入る。それで、何か知っていることは無いか?」


 番人はジンと刀也の座る向かいの席に着きながら、白髭を弄って唸る。


 「う~~ん、生憎だがそのような輩は見ていないな。ここ最近目にしたのは村の猟師や野草採り……あとは元気が有り余った糞餓鬼共……いずれにせよ村の見慣れた面々だけだ。よそ者、ましてや2人組なんざ見てないぞ」


 「ふむ……そうか」


 

 ――いや、それはおかしい。

 ジンは真っ先にそう思った。


 (村にはあれだけの目撃者がいたんだ。森に向かった証言だってあった。いくら何でもそれは……)


 そんな疑念を見透かしたのか、刀也がアイコンタクトを取ってきた。恐らく……と言うより、間違い無く同じ事を考えている。


 ――番人は、嘘をついている?


 「――ただ、おかしなことはあった……いや見つけたと言った方が正解か?」


 ジンと刀也の疑念をよそに、番人はおもむろにポケットを探り始めた。番人への疑念がある以上、警戒せずにはいられないが……ポケットから出てきたものは、決して武器の類ではなかった。


 「実は昨日、森の中でこんなもんを見つけてなぁ。もしかするとあんたらの探し人の持ち物かもしれん」


 番人が取り出し刀也に手渡したのは、見覚えのあるドッグタグだった。泥()()の汚れが付着していて刻印は読み取り辛いが、幸い名の一部や数字は確認することが出来た。

 ――刻印されている数字は『6』。そして『Barkley(バークレー)』のラストネーム。タグは間違い無くサイモンのものだった。


 思わぬタイミングでの物的証拠。思わずジンと刀也は顔を見合わせる。


 「刀也……これって!」


 「ああ、間違い無いだろう。番人殿、これをどこで?」


 「そいつはここから更に奥へ進んだ先に落ちてた物だ。珍しかったし、場所も場所だったからなぁ。つい拾って来ちまったが……やっぱりそうだったか」


 「その場所とは? 出来れば教えて頂きたいのだが……」


 「勿論それは構わんが……その前に、1つだけいいか?


 ――あんたら、俺を疑ってただろう」



 背筋が凍った。

 番人の纏っていた空気が変わり、陽気で優しそうだった顔つきが全く違って見えた。老人とは思えぬ鋭い眼光は、まるで歴戦の戦士のようだ。


 ジンは元々感情があまり顔に出ない方だ。シンシアにもよく不愛想と言われていたが、今回ばかりはポーカーフェイスを保てない。動揺を隠そうと表情こそ固めることが出来たが、肩を一瞬だけピクリと震わせてしまった。


 (この人は一体……!?)


 思わず狼狽えそうになるジンだったが、刀也の言葉が割って入る。微塵の揺らぎも感じさせない、いつも通り威風堂々とした刀也らしい声だった。


 「――そうだ。正直に言って『よそ者を目撃していない』、と言っていた事に関しては疑っていた。俺たちも村で証言を取ってから来ているからな。彼らがこの森に踏み入った事は、このタグの存在もあって確定に等しい。


 しかしこちらに失礼があり、番人殿の気分を害してしまったのも事実。素性を明かしもせずに質問攻めにしてしまったことを詫びよう。

 俺の名は神薙刀也。隣はジンという。2人共エリア1に本拠地を置く対喰らう者(イーター)組織、ハウンドの所属だ。今回はこの森の中で失踪したと思われる仲間を追って来たんだ。


 ――改めて、済まなかった。どうか情報を提供して欲しい」


 刀也は席を立ち、深々と頭を下げた。それを目にしたジンも慌てて席を立ち、習うように頭を下げる。


 「お、俺もすいませんでした!」


 少しの時間、場には沈黙だけがあった。

 そしてやがて沈黙は破れ、番人の声が聞こえる。緊張した空気を溶かす、気の良い老人の声色に戻っていた。


 「ハハハ、そんなにかしこまって謝る必要は無ぇよ! 刀也にジンか、2人共どうか頭を上げてくれ」


 ジンと刀也はほぼ同時に顔を上げる。するとそこには番人の穏やかな笑顔があった。


 「……見ての通り、俺も歳だ。四六時中森を監視出来る訳じゃ無いし、広大なこの森全てを見通せる訳でもない。だから見落としたりだってあるんだ。番人と呼ばれている以上、恥ずかしい話ではあるがな。


 だから正直に言うぜ。あんたらの探し人は見てないが、()()()()はある。付いて来な、そいつを拾った場所まで案内してやる」


 「……! 恩に着る、番人殿」


 「構わねえよ。だがそうだな……番人殿って呼ばれるのもなんだかくすぐってぇからよ。

 『ジョン・ライノ』。そう呼んでくれ」


 番人改めジョンと共に、ジンと刀也はタグを拾ったという場所に向かう。結局話はすぐに済み、出された飲み物を口にする暇も無く小屋を後にすることとなったが……。


 ジンは何気なく出された飲み物を口にした。ジョンと刀也に続いて小屋から出る時、せっかく温かいものを用意してくれたのだから、飲み切ってしまおう。そう思ったのだ。


 「――!? これ……」


 マグカップ1杯分、飲み切ることが出来なかった。内容物は間違い無くコーヒーだったが……あまりにも濃い。

 以前スラムで暮らしていた時、ガンツや親方が泥のように濃いコーヒーを好むので、一緒になって飲んでいた。故にある程度濃いものには慣れていたつもりだったが、ジョンが出したこのコーヒーはそれを簡単に凌駕する濃厚さだった。


 (……いや、まさか)


 「おいジン、何をしている。行くぞ」


 「あ、ああ。ゴメン、すぐに行く」

 

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