Samurai edge-3
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早朝、ジンたちは改めてネイスミス工房を訪ねた。工房内に入ると、そこには目の下にクマを作ったスカーレットがいた。
「――やっと来たか! 待ってたよ」
なんだか不自然にテンションが高い。カウンター越しで自慢げに言い放った。
「その様子だと、仕上がったか」
刀也は笑みを浮かべながらカウンターに寄る。
「ああ。まずは刀也、コレを受け取りな」
そう言ってスカーレットが渡したのは、鞘に収まったままの神薙だった。
「ま、こっちはいつも通りに少し研ぎ直しただけだ。参考にはしたけどな」
「……確かに受け取った」
刀也はスカーレットから神薙を受け取り、そのまま抜き放つ。
いつ見ても美しい武器だ。気のせいかもしれないが、刀身の輝きを一層増したように感じる。
「そんでジン。お前の武器も仕上がったんだが……」
「! それが……」
続けてスカーレットが取り出したのは、漆黒の鞘に収まった一振りの刀だった。形状や刃渡りはは見たところ、刀也の神薙とほぼ同等。しかし柄の飾り布や鍔に装飾が施されている神薙とは意匠が違い、無駄の無い機械的なデザインをしている。
(どことなく拳二さんのバルバロスに近い感じがするな……この意匠がスカーレットさんの作風ってことか)
外見から推測するに、恐らくバルバロスもスカーレットの創った新しいVウェポンなのだろう。
「さぁ、受け取りな。
――名は『陽炎』だ」
ジンは陽炎を受け取り、刀也と同じように鞘から刀身を抜き放つ。その瞬間、全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。見た目以上の重量、圧倒的な存在感。そして片刃でありながら鏡のような神薙の刀身とは真逆の、光を吸い込んでしまいそうな漆黒の刀身に『Naismith』の銘が赤く刻まれている。
「陽炎……凄い、一目見ただけで業物って分かります。それにこれは……まるで神薙を真逆にしたようなデザインですね」
「フフ、そうだろう? 昨日の稽古を見てピンと来てね。まず刀の形状がいいと思って、神薙とほぼ同じ形状に仕上げた。より攻撃的なデザインにはなってるが、模造刀と同じ感覚で振るえるはずだ。色が黒いのはお前の焔をイメージしたんだが……どうだ?」
スカーレットは声を弾ませながら説明をしてくれた。本人としても満足のいく仕上がりなのだろう、声からそれは伝わってくる。
「ええ……本当にありがとうございます。これで簡単に強くなるわけじゃないけど……使いこなせるように頑張ります」
ジンはスカーレットに謝礼し、陽炎を鞘に戻す。
「よし……予想通り準備は整ったな。早速出発を――」
「――ちょっと待て」
刀也の言葉をスカーレットが遮る。目線はジンに向いていた。
「まだだ。いつもの神薙はいいとして、陽炎は試して貰わないと困る。
――実はその武器には、ある秘密があるんだ」
スカーレットに連れられ、ジンたちはある場所を訪れた。マイルズも含めてスカーレットに焔を披露した、鉄塊の佇む広場だった。
「さぁ、もう一度やってみな。きっと驚くぞ」
「驚く……?」
ジンはスカーレットに促されるまま陽炎を抜き放つ。そのまま焔を解放し、いつものように得物に纏わせようとすると――
「!? これは……」
刀に焔を纏うことが出来ない。いつも通りにやっている感覚なのだが、陽炎に変化は無い。代わりに黒い刀身には、赤い血管のような模様が浮かび上がっていた。
「よし、うまく作動しているな。とにかく試してみろ、習うより慣れろってね」
「わ、分かりました」
真紅の瞳で鉄塊を見据え、陽炎を構える。
「――ハァッッ!!」
斬撃の対象は動かぬ鉄塊。
反撃を気にすることなく、ジンは全力で陽炎を振り下ろした。すると衝突の瞬間に赤い閃光が走り、派手な音を立てながら鉄塊を一刀両断した。
否、切断面を見る限り、もはや両断とは言えない。刀で斬り裂いたとは思えない荒々しい断面、そしてそこら中に飛散した破片が、陽炎にはなにやら特別な力がある、という証明に他ならない。
そのカラクリはさっぱり分からず、ジンは堪らずスカーレットに尋ねた。
「スカーレットさん、これは一体……?」
「実のところ、そいつはべノムの力を宿してない。アタシが作ったから緋色合金の純度は高いが、古い喰らう者の体組織を大量に組み込んだんだ。
古い体組織を使っても金属素材としての強度は変わらないが、べノムに宿っているはずの力は衰えている。結果それで武器を作って、馴染むように長く使ったところで異能力が発揮出来ないから、Vウェポンの素材には使えないんだ。……が、外から力を補給できるなら話は違う」
「そうか……それで焔が纏わせられなかったのか。俺の力は、陽炎に吸い上げられてたってことですね?」
「その通り。陽炎の刀身がお前の焔を集約し、斬撃の威力を高めてくれる。本来起こるはずの爆炎をロス無く一点集中させるんだ、破壊力は見ての通りだ。いやぁ、構想通りに仕上がってて良かった」
スカーレットは陽炎の仕上がりに満足したのか、嬉しそうに言った。
(凄い、これなら……これがあれば……!)
ジンは陽炎の刀身を思わずジッと見つめる。
『まともな武器』はこれで揃った。
すると刀也がジンに歩み寄りながら言った。
「これで準備は整った。そろそろ向かうとしよう。
――『神隠し』……ランク6と現地の代理人の、失踪の謎を確かめにな」
「――どうしてもやるのか、レイザー」
「うん……ゴメンねレイヴン、もうボクは引き返せない」
真っ白な雪で覆われた山道の一角。そこにはレイザーとレイヴン、そしてバスターがいた。
「ロゼに続いてアリゲイターもやられた。もう我慢は出来ないよ」
「……勝てるのかい? それに赤目の彼が直接殺った訳じゃないだろう」
ここは分岐点。レイヴンとバスターが立っているの片方は、エリア3の鉱山方面で、そのまま南下し続けエリア5まで戻るルートだ。
そしてレイザーが行こうとしているもう片方が、猟犬共を追うことになるエリア2と3の中間に向かうルートだ。
「殺してみせるさ。どんな手を使っても……!」
そう言い残してレイザーは山道に消えて行った。
(直接殺った訳じゃない、って所には触れなかったな。きっとレイザーも分かっているんだろう)
殺された仲間の復讐。そのどちらも殺した者が分からないのだ。故に行き場の無い憎悪は、そのどちらの戦場でも戦ったジン1人に集約されていた。
すると不意にバスターが声をかけてきた。
「……いいのか? 仮にあいつが捕縛でもされてみろ、今度はお前が死ぬぞ。まさかジェネラルに言ったことを忘れている訳ではあるまい」
「……それは……」
「なら、行って来い」
「――え?」
バスターはそう言うと、レイヴンの持っていた死体袋を奪い取った。もう片手には毛布にくるまれた『アダム』の姿がある。
「アダムとこの亡骸は俺が運んでおく。せいぜい見届けてやれ」
「……なんだバスター、君って結構いい奴なんだな」
「ただの気まぐれだ。それにあいつはともかく、お前の損失は痛いからな、レイヴン」
「フフ、嬉しい事を言ってくれるね。……済まない、それは頼んだ」
レイヴンはそう言うと少しだけ頭を下げ、レイザーの後を追っていった。




