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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-7 Fierce battle
89/135

New weapon-5

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 新たに現れたカテゴリーS、ワームビースト。人間体を持たない特殊な個体で、最上位の格を持ちながら一片の理性も持たない怪物そのものだった。

 最初は人間大程度のミミズのような形態で、形が特異なだけのカテゴリーCだろうと思われていた。しかしそいつは人間を捕食していくうちに、通常の喰らう者(イーター)とは異なる進化を遂げる。人間体を持たないまま異形化を進めたのだ。

 人化の影響は不完全な形で現れ、ミミズのような形態を留めながら人の腕や足が生えるとても醜悪な姿になっていった。一目見ただけで吐き気を催してしまうような、形容し難い生物だった。


 徐々に被害は増していき、ある日ワームビーストはエリア1に向かっていることが判明する。


 当時のバーテクス正規軍は領地拡大に力を入れており、戦力を各地に分散させていた時期だった。強い個体に単騎で対処できるような実力者は真っ先に各地に散っており、そんな時期をピンポイントに狙うように出現したこの天災、対処することは困難だった。


 10年前に出現した『大角(ザ・ビッグホーン)』を辛くも撃退し、死守した都市部への侵攻。必死の抵抗も虚しく、多数の兵を失いながら今回それを許してしまう。

 そこで行われたのは都市部に住まう無辜の人々を大虐殺。各地の戦力の引き戻しは到底間に合わず、このままエリア1の心臓は潰されると思われたその時だった。


 蹂躙を続けるワームビーストの前に立ち塞がった一人の剣士がいた。とうの昔に前線を退き、伝説となっていた『剣聖』――


 神薙神威その人だった。















 「――『師』は激闘の末、自らの命と引き換えにワームビーストを討つ。よく覚えているとも……当時13歳だった俺はその場に在り、師の最期を看取ったのだから」


 「そうかそれで刀也は……その(たましい)を受け継いだのか」


 「ああ。その後はかつての師と同様各地を回りながら喰らう者(イーター)を狩って回り、最終的にハウンドへと身を置くことになったが」


 運ばれて来た料理に手を付けながら、誰もその料理の感想を漏らすことが出来なかった。偉大なる剣聖の伝説、それを聞いて絶句するのも仕方の無い事であった。


 一時の沈黙を破り、サラがスカーレットに尋ねる。


 「そ、そういえば。5年前といえばレッドグレイブさんも亡くなったとの事でしたが……その……」


 言い出しておいてサラの言葉は尻窄(しりすぼ)みになる。人の父親の死に関わる話をそういえば、と聞くのは失礼だと思ったのだろう。

 しかしスカーレットは料理を頬張りながらケロッと答えた。

 

 「ん? ああ親父か。親父はな、そん時ちょうどエリア1に出向いていたんだ。ちょくちょく剣聖の見舞いに行ってたんだろうな、10年前のタイミングからよくエリア1に出かけるようになったんだ。


 ――簡単な話、ワームビーストの大虐殺に巻き込まれてくたばっちまっただけの事さ」


 














 親父も馬鹿だからな。逃げるより戦うことを選んだのさ。とはいえ直接の戦闘は出来ないから、戦場で色んな手伝いをして回ってたらしい。自前のトラックで怪我人を運んだり、武器を運んだり……そんで最期はワームビーストでもなんでもない、戦闘の拍子に崩れてきた瓦礫に潰されてグチャリだ。


 当時のアタシは20歳、兄貴は23歳。親父の仕事はほとんど見て盗んでいたから、緋色合金の作成込みで、2人で協力すれば当面は何とかなった。当然工房はアタシたち兄妹が継いで、このまま続けて行くと思ってたけど……今後の方針で意見が割れた。


 アタシはこのままこの工房で、親父の技術を進化させてより良いものを創っていく。親父の墓の前にそう誓った。……もっともエリア1でそのまま集団火葬したから、遺体は埋まってないけどね。


 けど兄貴は違った。緋色合金の品質を落として大量生産、ネイスミス製の物を多く流通させることで巨万の富を得たいと考えていた。


 アタシたちは結局互いに一歩も譲らず……決別することになった。兄貴はその身一つで工房を去り、エリア1のバーテクス正規軍の下へ向かいあることを提案する。


 兄貴の名は『バーミリオン・ネイスミス』。緋色合金を「剣聖の刀に使われていた素材、この世で僕だけがその製法を知っている」って正規軍に売り込んで、強い後ろ盾を獲得。後に世界の工業を牛耳ることになるバーミリオン社を設立したんだ。
















 「――けどアタシから言えば糞兄貴の作ってる物は似て非なる、言うならバーミリオン式の緋色合金。純度の低い粗悪品だ。緋色合金ってのは本来もっと高純度故に、高強度かつ()()()()を備え持つ物なんだ。あんなんじゃカテゴリーCの雑魚にしか通用しないんだよ」


 スカーレットは苛立ちを隠すことなく吐き捨てるように言った。場面は移りネイスミス工房。食事を終え、話しながら戻ってきていた。


 「その機能っていうのは……べノムが引き起こす異能力のことですか?」


 ジンはスカーレットの方を見ながら尋ねたが、スッと目を逸らした。

 

 スカーレットはそんなジンの姿に微笑みながら、上着を脱いでいつものタンクトップスタイルになる。赤熱した鉄を打つため暑いから脱ぐのだろうが……本来なら厚い作業着で行う、危険が伴う作業だ。つくづく破天荒な人だと思い知る。


 「その通り。ネイスミス式の緋色合金には多くのべノムが含まれている。銃器の類には当てはまらないが、使い込むうちに使用者の意思にべノムが呼応し、喰らう者(イーター)さながらの異能力を発現させることができるようになるって訳さ。

 それがネイスミス製自慢の『Vウェポン』。それが無ければ緋色合金なんてものは、ただの硬い金属に過ぎないんだよ」


 「べノムが意思に呼応して……何だか不思議な仕組みですね」


 「あー……実際の所異能力が発言するメカニズムは分かんなくて、偶然の産物なんだけどな。親父でさえもよく分からんって言ってたなぁ。

 ――ま、とりあえず話はここまでだ。まだ完成してなくて悪いが、あと2.3日待ってくれ。それと刀也、神薙を借りる。ジンの得物の参考にしたいからーなッと!」


 スカーレットはそう言って刀也から刀を奪い取り、作業場に籠った。


 「いいのか刀也? 急ぐんだったら整備は後にして、先に向かった方が……」


 「ああ、構わんさ。あの女は言い出したら聞かんからな。……それに今回、お前の同行は必要なんだ。どの道待っていたさ」


 「俺が……?」


 「今回の神隠しとやらで音信不通になった数字持ち(ランカー)のランクは6。俺一人では手に余るかもしれんのだ」


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