New weapon-4
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時は今から15年以上前に遡る。
まだバーテクス正規軍は規模が小さく、エリアという概念が無かった頃の話だ。
レッドグレイブ・ネイスミスという男が北方寄りの廃墟で、小さな工房を営んでいた。男は銃器や刀剣類、更には車や精密機器など戦闘に必要なあらゆる物の製作に精通しており、辺境に在りながら当時の喰らう者狩りを生業とする者たちには『レッド』という愛称で有名だった。この上無く腕の立つ、信頼できる技術者だと。
そんなレッドがある日、当時最強と言われていた剣士と協力し、とあるモノを混ぜ込んだ金属で一振りの刀を創り出した。その刀は従来の物とは比べ物にならないほどの切れ味、強度を誇っており、最強だった剣士の名をより一層轟かせることになる。
その刀に使われた素材こそ、後に『緋色合金』と呼ばれるものだった。
「その一振りの刀っていうのが、刀也の得物でもあるその刀……『神薙』さ」
スカーレットは刀也の持つ神薙を指しながら言った。
(刀也の刀がそんな代物だったなんて……当時最強の剣士、それに『神薙』という名は……)
ジンも刀也の方に視線を向けた。どうやらあの刀には複雑な事情があるようだが……まだ話は始まったばかり。敢えてここは何も聞かず、聞き役に徹する。
刀也はおもむろに刀を抜き放ち、テーブルの上に置く。一点の曇りも無く、鏡のように光り輝く刀身に周りの様子が映り込む。とても15年も前から戦ってきた武器とは思えない美しさだ。
そんな刀を前に、刀也が口を開く。
「――その話、俺としても詳しく聞きたい。『師』から受け継ぎしこの名前と刀、緋色合金そのものを語る上で外せないようだからな」
「フフ、分かってるよ。当時はなんでこんな餓鬼を連れていたのか疑問に思っていたが、随分いい男になったモンだ」
「……どうやら俺を拾ってくれた前の師の話も聞けそうだな。せっかく乗り掛かった舟、ジンには悪いがその辺りも抜かり無く頼みたい」
「俺は構わないよ。むしろ聞かせて欲しいくらいさ」
「ははは、そうかい! じゃ、続きと行こう。その『神薙』は試験的に作られた緋色合金にとって原初の一刀。それの使い手こそが最強の剣士にして、5年前に現れた『カテゴリーS』と相討った英雄の中の英雄。
名を『神威』。剣聖、なんて呼ばれた男さ」
15年前、神威は更なる力を求めてレッドの下を訪れた。仲間に良い職人がいると教えてもらい、得物を新調するために。
当時の神威は得物を使い捨てるように使用しており、粗製の刀剣を何本も所持していた。研ぎ澄まされた究極の剣技、そして喰らう者との戦いに人生の全てを賭けてきた経験を以って戦ってきたが……所詮得物は通常の金属素材で作られた武器。消耗は激しいものだった。
そこで出会ったレッドに、神威は信じられないことを言われた。
『――道具を使い捨てている内はまだまだ二流。己の得物には魂を擦り込むように使い込み、芯を通さなければならん』
って言ったらしい。笑えるだろ? 戦えもしない親父がいきなり、当時最強の男にそんな事をほざいたんだから。ところが神威はその不躾な物言いに怒ることはしなかった。その理由は当人たちにしか分からないが……。
なにはともあれ2人はすぐに意気投合。レッドも神威を気に入ったのか、己の技術を最大限に活かした剣を与えるが……やはり敵の強靭な体組織には勝てず、短期間で何度も何度も剣を鍛え直した。
そこでレッドはあることを思いつく。
目には目を――。喰らう者の体組織を剣に組み込んで、新たな一振りを創り出した。それが『神薙』だ。神薙を手にした神威はどんな敵をも切り捨てる更なる高みに上り詰めた。今までただの刀剣のみで最強だった男だ、剣聖などと呼ばれるのも当然のことだった。
しばらくして神威は『神薙神威』と刀の銘を苗字として名乗り始める。何でも『自分の実力は己の技量とこの刀で成り立つもの。神威の名だけ広まるのは不本意』と語っていたらしい。親父は馬鹿みたいに義理堅い奴だ、とか言ってたけど、嬉しそうに言っていたのを覚えてるよ。
そして時は流れて10年前、遂に人類反抗の筆頭として後のエリア3とバーテクス正規軍のいるエリア1を繋ぐことに成功した。この時既に緋色合金製の武器は少しずつ広まっており、レッドの認めた優秀な実績を持つ喰らう者狩りにだけ、その武器は作られた。
別にケチってたとか、技術を独占したかったとか、そんな思惑は持っていなかった。緋色合金の製法は別に秘匿していた訳では無かったし、武器の製作に人を選んだのだって個人の小さな工房では大量生産は出来なかったからだ。
なぜ緋色合金はこの時点で広まらなかったのか? その理由は作成難易度にあった。まず必要な素材として、大量の喰らう者の死体が必要だった。しかも血が滴るほどに新鮮なものが必要であり、またその製法自体も非常に困難。こんなものを作れる技術者は、レッドの他に存在しなかったのだ。
この頃からレッドは年齢もあって我が子に工房の仕事を手伝わせ始めるが……後継者にする、という考えは持ち合わせていなかった……
と、思う。アタシはそう思ってた。だって大事な所はいつも自分一人でやってたし、技術を教えてくれるようなことも無かった。アタシにも糞兄貴にも、一度だって無かったんだ。
――とはいえ神威の他にも多数の実力者が名乗りを上げ始めた。ここから人類は総力を挙げて反抗の狼煙を上げていく……はずだった。
ここで人類は大きな窮地に立たされる。カテゴリーSの個体、『大角』が出現し、エリア1に襲撃を受ける。
大角の異能力は身体変化……変異体の身体能力強化に全てを費やしたようなパワーファイターで、その圧倒的な膂力で多くの人間が犠牲になった。当然神威を筆頭に多くの実力者や、正規軍が一丸となって立ち向かったが……
――大角はその上を行った。神威の大奮戦もあって都市部には入られていなかったが、目前まで迫られていた。多くの仲間を失いながらも戦い続ける神威、しかし限界が訪れた。
大角の圧倒的な力を前に、致命的な傷を負ってしまったのだ。これによって神威は戦線離脱、戦えない身体になってしまう。
ちなみに大角は当時正規軍に所属していたとある兵士が打倒、傷を負わせて撃退に成功した。
何とか窮地を乗り越えた正規軍は、犠牲を払いつつも徐々に行動範囲を広げていく。その結果、各地にまだまだ人類の生き残りがいる事が判明、後のエリア2、エリア5を根城とする一団の接触に成功。この時点でまだ正規軍への合流はしていなかったが、少しづつ交流のパイプを太くしていく。
一命を取り止めた神威は、その後も献身的に対喰らう者の活動をしていた。戦うことが出来なくなってもエリア1で兵士の指導などに力を注いでいたらしい。
そして時は更に流れて五年前。
再び人類に苦難の時が訪れた。
カテゴリーSの襲撃。10年前の大角とは別の、『ワーム・ビースト』と呼ばれた巨大な怪物が出現した。




