Credible progress-2
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「サラさん、それは……」
「壊された端末からデータを何とか引き出しました。かなり手間でしたが……ジン君が粘ってくれたおかげです」
レイザー・アリゲイターと戦っている時、サラの行動には意識を割く余裕は無く、まさかそんな作業をしているとは思わなかった。マイルズもこれは予想外だったのか、驚嘆の声を上げる。
「そりゃあの研究所でやってた研究資料か!?」
「はい。……と言っても、端末の破損が影響してデータにも所々破損がありますが、概要くらいは閲覧出来るはずです」
――正直に言って、ジンはサラのあまりの有能さに言葉が出なかった。壊された端末からデータをサルベージする高いハッキング技術、そしてすぐ近くで戦闘中だというのにその作業を行う度胸には感心する他無い。軍学校の主席というのはここまで電子機器に精通するものなのだろうか?
またいくらアレックスが付いていたからといっても相手はカテゴリーAの個体、心理的には一瞬の目も離せないものだが……。
(凄いな……あの状況で、代理人としてしっかり成果を挙げているんだ。それに比べて俺は……なんて情けない――)
そう思っていた矢先、不意に額を叩かれる。
「痛っ?」
隣に座るサラからのデコピン。穏やかな笑みを浮かべてジンに語りかける。
「あはは、なんだか暗い顔してたから。どうかしましたか?」
「いえその……そうですね、正直に言うと驚きました。あんな状況だったのに、そこまでの事をしていたなんて、ホントに凄いです。
それに比べて俺は……負けてばっかりで、全然成長できなくて、情けなく――って痛っ!?」
言葉の途中に飛来するもう一撃。サラのデコピンが再びジンを襲った。
「なーんだ、そんな事で落ち込んでたんですか? 言いましたよね、ジン君のおかげでこのデータを得ることが出来たって。それに、今回は『負けて』はないでしょう?」
「え……」
俺が、今回は負けていない?
サラの言っている意味が分からず唖然とするジンだったが、その答えは焚火の向こう側に座るマイルズが教えてくれた。
「ジン……謙虚さも行き過ぎれば逆に無礼だぞ。今回の収穫はサラの回収したデータとアリゲイターとかいう喰らう者の討滅。2つ共お前の功績だろうが」
「俺の功績……? でも俺は何も……」
「何も出来なかったってか? そいつは大間違いだなァ。サラも散々言ってるが、お前の大立ち回りがあってこその結果だろう? 俺の狙撃だってそれは同じだった。自慢しろとまでは言わないが……ま、内心誇ってもいいんじゃないか。少なくともランク4の俺は認めるぜ」
「そう……ですかね……でも……」
それでも――。ジンはそれでも納得がいかなかった。
自分が着実に強くなっているのは分かった。今回の功績も自らの活躍によるものが大きい、ということにしよう。
だけどそれでも……心は敗北を感じている。
もしあの状況にマイルズがいなかったら? それだけで状況は反転し、こちらは全滅していただろう。そう仮定して考えると、それだけで自分の力不足を痛感せずにはいられない。
どんな状況でも、どんな数でも、どんな相手でも。
1人で打破できるだけの力が欲しい。
(――でも、確かに謙遜しすぎるのも良くないか。賛辞は素直に受け取って、悔しさは心の内にしまっておこう)
「――話を脱線させてしまってすいません。サラさんの得た情報を見てみましょうか」
ジンはサラとマイルズに礼を言った後、話を本題に戻す。
プロジェクト・リバーシ……あのアダムとイヴに関連する実験であるのは間違い無いはずだが、その名称だけでは何も分からない。
サラはデータを保存したネクサスを操作しながら閲覧可能な部分を表示する。
「そうですね……やはり具体的で詳細な内容は復元が必要ですが、研究目的など基礎情報の概要だけなら見れますね。
――これです」
『――No.91 project reversi
この研究は極秘扱いとし、情報共有はエボルヴ職員権限:SS以上の者かつ、責任者に許可された者のみに限定する。
実験対象は2体。男性個体をアダム、女性個体をイヴと呼称する。
当実験の責任者は職員権限:SSS グレッグ・ジャクソン
(喰らう者研究部門・代表者)
当実験の目的:
推定7~8歳の子供を使用した『人間の喰らう者化』を目的とした人体実験』
血の気が引く、というのはこの事だろう。パンドラの箱を覗いてしまったような……そんな錯覚に陥った。




