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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-7 Fierce battle
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Messiah-6

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 ――なるほど、散弾から単発弾に切り替えたのか。


 アリゲイターは自らの大きく抉られた右肩を見ながら、そう結論付けた。お陰で右腕が思うように動かない。回復には少しばかり時間を要するだろう。噴出する血はボタボタと流れ落ち、白い床に血溜まりを作る。

 柔軟でありながら極めて強靭な鱗に覆われた自慢の表皮、こうも簡単に吹き飛ばすとは。


 (ふむ、この高威力は厄介だが……)

 

 しかし単発弾である以上散弾のように広範囲を捉えることは出来ない。狙いのつけられない高速で動けるレイザーならば、寧ろ相性が良いはずだ。


 「レイザー、提案が――」


 「――分かってる、今度はボクが前に出るよ。あの弾だったら多分躱しきれる。隙を作るから、フィニッシュは任せる」


 「……そうか。なら頼む。見ての通りかなりの威力だ、当たるなよ」


 レイザーはアリゲイターの言葉に頷き、変則的な高速移動で攻撃を仕掛ける。赤目の人間は銃撃を挟みつつ応戦しているが、回避するのに手一杯といったところか。


 レイザーの成長にアリゲイターは少なからず驚いていた。考え無し、無鉄砲、それでいて好戦的だったのが、ここまでの成長を見せるとは思っていなかったのだ。今までのレイザーなら執着心から1対1に拘って闇雲に突っ込むだけだっただろう。それが今は俺に『フィニッシュは任せる』などと抜かしている。

 今のレイザーの目的、それはあの赤目の人間への復讐だ。しかし殺せれば何でもいい、自分の手で直接殺さなくても構わないとさえ思っているはずだ。


 (フフ、レイヴンの仕事を忘れてしまっているのかもしれんが……まぁ結果的には同じ事か。あいつは優秀な戦士へとなりつつある。目的達成のためには手段に拘らない、合理的な思考を持つ戦士に。

 ……あいつがここまで登ってくることを分かっていたのかもしれないな、ロゼは)


 アリゲイターは心の内にそんな思いを抱きつつ、左手の動きを確かめるように動かした。

 今の俺に出来る最大の攻撃、それは左手で奴を捉え、そのまま喰いちぎること。戦況を見極め、来たるべき隙に備えるのみ。











 ――銃撃。その威力は凄まじく、床面を大きく抉り破片と煙を撒き散らす。


 (くそっ、こいつ相手じゃ単発(スラッグ)弾は当たらないか!)


 揺らめく赤黒い焔を凶刃が断ち切る。レイザーの連続攻撃を掠めながらも躱し続け、ジンは投擲した模造刀を拾い上げることに成功する。


 ……が、拾い上げた一瞬の隙を突かれた。


 「そこっ!」


 「くぅ……っ!!」


 左腕を深く斬られた。

 回避がギリギリのところで間に合い、切断は免れたものの散弾銃を強く握れない。腱を斬られたのだろうか。


 「ジン君っ!!」


 サラの声がハッキリと聞こえる。自分のためだけでなく、背中にある守るべき人たちのためにも負けられない。


 「くそっ!!」


 「そんな苦し紛れに当たるかよッ!」


 しかしそんな想いの乗った斬撃は無情にも空を切る。カウンターとばかりにレイザーはローキックを繰り出し、回避難度の高い絶妙な位置を斬り裂く。必死に飛び退いて躱そうとしたが、やはり躱しきれない。

 今度は左の太腿を深く斬られ、移動力を奪われた。左足が動かず着地をしくじり、ジンは尻餅をついてしまう。


 「貰ったァ!!」


 無防備な体勢を晒したジンに、レイザーはここが勝機と突進する。


 「まだだ……!!」


 ジンは無理矢理左手を上げて銃撃を行う。傷ついた左手では反動に耐えることが出来ず、射撃と同時に散弾銃は手から離れていった。おかげでレイザーの体の中心を狙ったはずだったが、照準は大きく上に逸れた。


 「――なにっ!?」


 しかしここで驚きの声を上げたのはレイザーだった。

 弾丸は頭部を掠め派手に火花を散らす。金属質に変異した表面に大きく傷を付けたのだ。堪らずレイザーは飛び退き、片手を刃から掌に形状変異させて傷を押さえる。


 (くそ、迂闊だった。こいつ……まだ……!!)


 レイザーは憤怒の表情を浮かべる。自らの顔に傷を付けたジンに対しての怒り、そしてあんな状態の敵を仕留められなかった自分への怒りが入り交じっていた。


 いくらレイザーの変異体が金属に見えても、あくまでそれは表皮が変異しただけのものに過ぎない。思ったより深いのか、傷口からはかなりの血が流れ出ていた。


 「――アリゲイター! ここしかないっ!!」


 「分かっているッ!」


 レイザーが叫ぶよりも少し早く、アリゲイターは走り出していた。左手左足の動きを封じられたジンに止めを刺すために。待っていたチャンスを逃さないために。


 「くそ、見殺しには出来ない!」


 見ているだけだったアレックスが飛び出し、突進するアリゲイターの側面からカービン銃を連射した。対喰らう者(イーター)用の汎用アサルトライフル。最も広く出回っているバーミリオン社製の名銃であり、高威力、精度、カービンモデルにする事での取り回しの良さなどケチの付かない代物だったが、カテゴリーAの個体相手にはいささか役不足というもの。


 「ぬうううううう!!」


 アリゲイターは浴びせられる弾丸の雨をものともせずに突進する。弾丸は確かに着弾しており、現に強靭な鱗にも傷を付け血を流させている。それでも突進は止まらない。


 遂にアリゲイターはジンの眼前に到達し、模造刀を持った右腕を踏みつけながら動く左手で首を絞めるように掴んだ。


 「あ……がっ……」


 首の骨ごと握り潰されてしまうほどの力。あまりの握力に意識が急激に遠くなっていく。右腕もこのまま踏み潰されてしまいそうだ。残った左手で抵抗を試みるが、やはり力が入らない。左足は全く動かず、右足だけではその場でジタバタとするのが精一杯だ。


 「慈悲など無い。これで終わりだ……!!」


 アリゲイターの特徴的な大顎が大きく開き、鋭い牙が迫ってくる。このまま頭を喰いちぎるつもりらしい。


 「――ジン君っ!!」


 朦朧とする意識に届く、覚えのある声と銃声。サラが名を呼びながら、拳銃でアリゲイターの頭を正確に撃っていた。


 「グッ……!?」


 サラの持っている拳銃は大型口径のモデルとはいえ所詮は拳銃。アリゲイターを貫くことは出来ず、出来たのはアレックス同様傷を付ける程度。

 しかしアリゲイターが痛みに怯んだその一瞬。不意の一撃だったのに加えて神経の集中していた頭部を撃ったからこその僅かな隙。首を絞めている手が緩んだのを見逃すようなジンではなかった。


 「ラアァッ!!」


 「ガッ!?」


 咄嗟の全力頭突き。強靭な鱗のせいでジンは額を切ったが、アリゲイターは大きくよろめいた。


 「まだ……ま……だァ……!!」


 踏まれていた右腕を必死に引き抜き、腰にマウントしているナイフを抜く。髪を切って以来まるで使うことの無かった、緋色合金も使われていないただのナイフだが、常備していたのは正解だった。


 ジンは今出せる全力で、アリゲイターの眼球にナイフを突き刺した。


 「グアアアアアア!!」


 アリゲイターは絶叫し、更に大きく怯む。どうやら眼球は脆いようで、緋色合金の武器でなくとも貫けるらしい。

 ジンはすぐに模造刀を拾って片足でフラフラと立ち上がり、右腕を振り上げた。またとない好機、全力の焔を以ってこの刀を叩き付け、一撃で爆砕する……!


 しかし刀が砕いたのは床面だった。アリゲイターは大きくその場から飛び退き、レイザーの下まで後退した。















 ――簡単に勝てると、思っていた。

 最初の戦闘では後れを取ったが、原因は分かっている。頭に血が上って本来の戦い方を見失ってしまっていたからだ。ロゼに教わった壁や天井を足場と捉えて動き回る縦横無尽の高速戦闘。それさえいつも通りにやれば、次こそは……って。


 今回の戦いに油断は無かったし、本来の戦い方も徹底できたと思う。無事成体に……カテゴリーAになってる訳だから、前回に比べて強くなったはずだし、何よりアリゲイターと組んで2対1の状況なんだ。負けるはずがない、苦戦するはずがない、そう思っていたのに……。













 「――何なんだよ、アイツ……一体何なんだよ!!?」


 レイザーは取り乱すように叫んだ。赤黒い爆炎が徐々に晴れていき、ズタズタになってなお、殺気の籠った目をしているジンの姿が現れる。どう見ても相手は死に体、優勢なのはこちら側だ。


 (なのにどうして……こんなにもアイツが恐い!?)


 何度も致命的なまでに追い込み、左の手足も潰した。だがアイツは止まらない。諦めない。一体何故……? 何故倒せない……!?


 「奴は一体……こちらは2人がかりだぞ……っく!」


 アリゲイターも同じ思いを抱いており、目に突き刺さったナイフを抜き取り投げ捨てながら言った。


 2人は完全に委縮していた。同じ色の瞳をしているはずなのに、ジンの真紅の瞳に怯え、立ち止まる。あと一度だけ攻撃を仕掛ければ確実に勝てる。そのことは分かっているはずなのに、少しも身体は言うことを聞いてはくれなかった。


 しかしそんな時、天井を破って黒い翼がこの場に舞い降りた。















 「あいつは……レイヴン……」


 ここにきて増援、しかもまたカテゴリーAの個体だ。あいつはランク3であるアームズとほぼ互角に渡り合っていた強敵であり、こんな状態では戦いにすらならない。


 「久しぶりだねぇ、赤目の異分子(イレギュラー)。と言ってもそんなに日は経ってないか。翼の傷が少し痛むよ、もう治ってるはずなんだけどね。しかしまあ随分とボロボロになっちゃって」


 レイヴンは人間体を維持したまま、こちらを挑発するような態度で言った。ジンはその言葉に応えない。応える体力は残っておらず、正直立っているだけでもキツい。


 「――さて2人共、戦いもいいが『アダム』と『イヴ』は見つかったのかな? できればそっちを優先して欲しいんだけど――」


 「――『アダム』はそこだ。イヴは死体を見つけた。やったのは恐らくそいつらだろう」


 レイヴンの言葉を遮ったのは、入口から新たに入ってきた金髪の青年だった。金髪と濃い青色の瞳が印象的だった。


 (あいつは初めて見るな……同じスティールの所属なんだろうが……。しかし『アダム』と『イヴ』って、もしかして……)


 ジンは時間稼ぎを狙うと同時に疑問をぶつけてみる。敵に聞くのは癪だが、それくらいしか現状で出来ることは無かった。


 「アダムとイヴ……もしかして、この水槽の子供のことか?」


 「ジン君、それは……」


 サラがアレックスと共に合流しジンに尋ねた。単なるカマかけだが、恐らくこの予想は間違い無い。こちらの背後には子供の入った水槽、これを見ながらあの金髪は『アダムはそこだ』と言ったのだから。


 ジンの問いにレイヴンが薄ら笑いを浮かべながら答える。


 「……その通り。僕たちの目的は――」


 「――レイヴン、話過ぎだ。目的が見つかったのならさっさとこいつらを殺して確保するぞ」


 再び金髪がレイヴンの言葉を遮る。相当に無駄の無い性格なのか、金髪はそう言った途端に殺気を放つ。


 (――! この感じは……!!)


 今まで感じたことの無いほど強いべノムの気配。満身創痍にも関わらず冷や汗をかいてしまうほどだった。瞳の色から少なくともカテゴリーA以上の個体であるようだが……その強さは他の3体とは段違いだと直感する。


 「やれやれ、相変わらず遊びの無い奴だよ。会話で思わぬ情報が手に入るかもしれないだろう?」


 「……一理あるが、生憎俺は戦うことしか出来ない。これ以上話を続けるようなら、お前から殺す」


 「分かった分かった。僕じゃ君には()()()()()()()し、ここは任せるよ、バスター」


 金髪の名前……どうやら『バスター』というらしい。

 バスターは一歩前に出て、右手をこちらに掲げる。


 その瞬間に察知したありえないほどの力と殺気。ジンは咄嗟に叫ぶことしか出来なかった。


 「――2人共! 俺から離れろッ!!」


 「――!」


 「――え」


 アレックスは反射的にジンから離れた。声色から危険を直感したのだろう、流石はマイルズに優秀と言われるだけはある。


 サラは何が何だか分からないような顔をしてこちらを見上げていた。よく見るとサラはふらつくジンの身体を支えようと、ちょうどこちらに近付いて来ていたところのようだった。

 だがそれはかえって良かったのかもしれない。近づいて来てたからこそ、ジンはサラを突き飛ばすことが出来た。



 「――――(いかづち)よ」



 バスターはそう呟いてジンの方を見据えていた。美しい青色の瞳は、真紅へと色を変えた。


 ――その瞬間、心臓が止まってしまいそうなほどの雷鳴が轟く。


 雷という名の無形の大槍がジンを貫き、その場に沈めた。


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