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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-7 Fierce battle
77/135

Messiah-2

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 「――これは……何があった……?」


 マイルズは研究所内に広がっている惨状を目にし、顔をしかめながら呟いた。

 無機的な印象の通路にぶちまけられた肉片。恐らくは、()()()()()()()()()()なのだろう。白い内装に血の赤が良く映える。


 「捕食痕……エリア2でか? 襲撃にあったとでも?」


 「俺が知るか、とにかく先に――」


 「――おいお前ら、少し黙れ」


 狼狽するウォーウルフ2と3の会話を強い言葉で遮るマイルズ。普段の飄々とした立ち振る舞いは既に消え、そこにあるのは隊長としての威厳ある姿だった。マイルズは床に広がった血溜まりに手を触れ、指先に付着した血を見ながら言った。


 「これを見ろ、まだ血が乾ききっていない。ひょっとするとまだ元凶は施設内に潜んでるかもしれん……警戒を怠るなよ」


 「了解!」


 2人はマイルズの言葉に気を引き締め直し、銃を構えながらゆっくりと進む。マイルズは後方を警戒しながら最後尾につく。


 (エリア2で襲撃はあまり考えられない。外気温は極めて低く、喰らう者(イーター)はこの辺りで活動できないはず。

 考えられるとすれば理性あるカテゴリーB以上の個体による計画的な襲撃か、或いは()()()()の攻撃か……いずれにせよ、ただの研究施設ではなさそうだ)















 「――サラさん、アレックスも。止まって下さい」


 ジンは散弾銃を取り出しながら突然に言った。少し前を行っていたサラとアレックスは、ジンの緊張感のある声に従い前進を止める。サラはその理由を察し、ジンに近寄り小声で尋ねる。


 「ジン君、もしかして気配を?」


 「ええ、かなり微弱ではありますが……間違いありません、べノムの気配です」


 奥の扉の先から感じる確かな気配。ジンは両手に武器を構えながらゆっくりと進み、気配のする部屋の扉の前に辿り着いた。


 (弱っていたあの喰らう者(イーター)たちよりも気配が小さい……一体これは……?)


 ジンはアレックスとアイコンタクトを取りながら扉の左右にポジショニングし、武器を構えながら電子ロックの解錠を待つ。扉のすぐ横に備え付けられている端末にサラはネクサスを接続し、ロックの解錠を試みる。


 (ここの扉だけがロックされている……重要な部屋なのは間違いないんだろうけど、何故そこにべノムの気配が?)


 疑念はあったが確認してみないことには始まらない。今はただ敵への警戒を密にするのみだ。


 「ロックの解除完了! 開きます……!」


 扉はスライド式の自動ドアであり、サラの声と同時に勢いよく開かれた。ジンたちは銃口を向けながら部屋の中に突入した……が、部屋の中には通路同様に惨状が広がっており、敵の姿は無かった。


 しかしそこに何も無い訳ではなかった。大きな円柱形の水槽に、あるものが沈められていたのだ。


 「――こ……れは」


 ジンは思わず警戒を解き、それを凝視する。サラとアレックスも同様に目を奪われ、目の前にある理解不能なものを見上げながら立ち尽くすことしか出来なかった。



 部屋の奥にあったのは2つの円柱形の水槽。片方は大きく破損しており、内容物のほとんどが漏れ出しており、何らかの薬液が床一面に広がっていた。



 そしてもう片方には水槽一杯の薬液に、子供が入っていたのだ。



 サラはすぐに部屋の中にある端末を起動し、これが何であるかを探る。


 「人体実験……? 一体これは、一体……!?」


 パニックに落ちかけている心を必死に抑えているのが分かる。手を動かすことでサラは何とか平常心を保てたようだ。


 (どういうことだ……? 気配は間違いなくこの子供からのものだ……)


 ジンもすぐに我を取り戻し周囲を見渡したが、どうやらアレックスは未だ放心状態にあるようだ。


 「おい、大丈夫か!? 気をしっかり持て」


 「……! は、はい……すいません、でもこれは……」


 「分からない……とにかく、調べてみるしか―― !?」


 話している途中に感じ取った強いべノムの気配。まるでこの部屋を覗き込むような感覚だった。ジンは素早く気配のした方の銃を向ける。


 そこにあったのは破損した方の水槽の近くに空いた巨大な穴。壁を貫き別の部屋に繋がっているようだ。ジンは穴の先にある気配を追うために走り出し、穴をくぐる直前に振り返って言った。


 「気配を感じました、俺はそれを追ってみます! サラさんはここの調査を引き続きお願いします。アレックスもここに残ってサラさんの護衛を。それとすぐにマイルズさんに連絡を取って合流するように言ってくれ。やはりこの施設、何かがおかしい」


 「わ、分かりました!任せて下さい!」


 「それは勿論だけど……ジン君、無茶はしないでね!」


 「分かってます!」


 こうしてジンは2人を残し、1人気配を追うこととなった。

 穴をくぐり出た先は研究所内の通路。特に変わることも無い無機的な白色の通路だったが、状況が明らかに変わった。

 今までとは比較にならないほど大量の肉片が床いっぱいに散乱しており、床面に関してはもはや白い箇所の方が少ない状態だったのだ。


 (人の腕、足、何なのかも分からない臓器類……恐らくは、()()()()()()()痕跡だろう。気配はこの先だ、急ごう)


 嫌な予感と共に気配を辿りジンは通路を進む。向こうに気取られないように足音を殺し、力も最小限に抑えて。


 (――! 見つけた!!)


 部屋の隅で横たわる死体に貪りついている小柄な者の存在。無残に喰い散らかされ、こぼれ落ちた臓器が租借音と共に揺れている。どうやら食事中、のようだ。


 既に散弾銃にはトリプルオー・バックショットの散弾が装填されており、喰らう者(イーター)いえど人間体のままかつ背後からの奇襲であれば、一撃で仕留められる確率は高い。

 念のためジンはもう数歩接近し、散弾の全弾命中(フルヒット)を狙う。


 ――が、その用心深さは裏目に出てしまった。足元の肉片に気が付かず射撃直前で踏み潰してしまったのだ。たっぷりと血を含んだ肉の潰れる音が生々しく響く。


 (しまった……!!)


 ジンは即座に行動を切り替え、散弾銃を向ける。接近は十分、全弾命中まで行かなくとも、威力は発揮できる距離だ。しかし引き金に指をかけ引こうとしたその時、()()が振り向いた。


 「……なに……」


 ジンは引き金を引くことを躊躇った。

 振り向いたのはまだ10歳にも満たないであろう少女。口元にこれでもかというほどの血を付着させているのに、なんの敵意も無い純粋な顔でジンを見上げていた。


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