Explosion edge-2
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――正直なところ、スカーレットの言葉にジンは耳を疑ってしまった。ネイスミスの名に懸けて……そう言ったばかりではないか、と。
「そ、そんな……」
ジンは傍目に見ても分かるほど、残念そうに肩を落とす。基本的にはあまり表情を出さないジンだったが、刀也や拳二の得物、そして自らも使用する散弾銃の性能の高さを身を以って知っているが故、今回ばかりは落胆も大きいものだった。
そんなジンの心情を察したのか、スカーレットは言葉を間違えたと謝罪しながら言った。
「っと、すまない、言い方が悪かったな。今の私じゃ、って話さ。見損なうな、受けた仕事をアタシは投げ出したりしない。
ただお前の要望に応える武器を創り出すには時間がかかる。Vウェポンとはまた違った方向性で一から設計しなきゃならないからな」
どうやら望みが無い訳ではないらしいが……。スカーレットは折れた刀身を拾い上げながら続けた。
「お前の焔を使った斬撃だが……アタシから見ても破損の理由はお前の推測通り、ブレードの強度が爆炎に耐えられてないみたいだな。ほら、所々融解した跡がある」
ジンは手元のブレードと見比べながら破損の後を観察する。するとここでマイルズが声を上げる。
「刀身の衝突が引き金になって爆炎を起こしているみたいだなァ。ダイレクトに爆発の衝撃が伝わっているんだろう」
狙撃手ならではの観察眼だろうか、たった数回の攻撃でマイルズはジンの攻撃の仕組みを理解していた。斬撃の直後に爆炎を発生させることによって対象を破断する効率的な攻撃。たとえブレードによる斬撃が通らなかったとしても、爆炎による衝撃力でタダでは済まない強烈な攻撃だ。
「――とにかくすぐに設計を始めるけど、当然すぐにはできない。どうするジン? 待っていてもアタシは構わねえが……うまくいっても丸々数日はかかるぞ」
「数日ですか……それは……」
スカーレットの提案した数日という期間。正直その待っている時間はジンにとっては惜しいものだった。数字持ちである以上一分一秒でも早く戦場に戻り、スティールなる組織を追わねばならない。たとえそうでなくても、この身は力尽きるまで戦わなければならないのだ。特に負傷をしている訳でもないのなら、武器が無くても戦わなければ――
「――だったらちょうどいい。ジン、サラも。武器が完成するまでの隙間潰しに俺たちの受けた依頼を手伝ってみないか?」
「え……」
ジンの思考を中断させる唐突な提案。ジンとサラは同時にマイルズの方に向き直る。
「実を言うとライフルの受け取りはついででな。野暮用ってのはエリア2のある研究所の調査なのさ」
「エリア2の研究所って……」
「詳しい事はそれこそ調査してみないと分からないが、喰らう者の研究をしてる研究所の一つが音信不通になった。そこで俺たちはその原因究明に来たって訳だ。今回の依頼は色々と状況が不透明でな、出来れば人手が欲しかったんだ。勿論報酬は山分けにしてやるが、どうだ?」
ジンとサラは思わず顔を見合わせる。武器がすぐに手に入らない以上、この提案を断る理由は無かった。
「へぇ……ならちょうどいいな。帰りに寄ってくれよ、それまでには形にして見せるから」
スカーレットはジンの肩をポンと叩き、マイルズとの同行を促した。その調査がどれくらいの時間を要するかは不明だが、ここでただ待っているよりずっと有意義に思えた。元技術者としてスカーレットの腕前を見ておきたいところではあったが、今の自分は数字持ちなのだ。どちらを優先するかなど考えるまでも無い。
「そうですね……武装はこの通り不十分ですが、お力になれるのであれば是非」
「わ、私も微力ながらお手伝いさせてもらいます!」
2人はマイルズの提案を受け入れることにした。調査であればジンはともかくサラならば大きな戦力に数えることが出来るだろう。
「おおそうか! 何があるかは分からんが、目的はあくまで調査。状況次第だが決して無理はしないつもりだ。よろしく頼む」
2人はマイルズと笑顔を浮かべながら握手を交わす。部下のウォーウルフ2、3、4の3人も協力を快く受け入れてくれているようだ。
こうしてジンは『エリア2』……極寒の地へ図らずも足を踏み入れることになった。スカーレット・ネイスミスの仕事を目の当たりに出来なかったのは心残りだが、不思議と心は高揚していた。
初めてエリア2に入るのだ、エリア1やエリア5に続いて今度はどんな景色を見せてくれるのだろうか? ジンは自らの世界が広がっていくのを実感し、その喜びと少しの不安を抱きながら進んでいく。
(調査、か。それだけで済むに越したことはないけど……)
『ランク4』……マイルズがわざわざ派遣されているのに引っかかるものを感じる。ライフルの引き取りついでに近場の依頼を受けただけかもしれないが、その数字の高さは彼の就く依頼の内容は困難なものなのでは? と深読みせざるを得ない。
(いずれにせよ……油断は出来ないな)
空をふと見上げると雪は完全に止んでいた。しかしいつ再び降り始めてもおかしくない鉛色の空が広がっていた。分厚い雲に閉ざされ、太陽は少しも見えはしなかった。




