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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-6 Ms.craftman
71/135

Craftmanship-4

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 「――対象はカテゴリーCの個体。数は2、フォーメーションを崩すな」


 真正面から姿を現した2体の怪物。ジンがスラムの港湾区画で遭遇した個体と同じ姿をしていた。距離は30mほどだろうか、十分に射程距離だが敵はこちらを威嚇するような呻き声を上げゆっくりと近づいてくる。


 「真正面からこの距離でこちらの様子を窺うとは……やはりカテゴリーCはただの獣だな。ウォーウルフ2~4、射撃開始!」


 マイルズの号令と共に3人の部下が一斉射撃を開始する。コードネームはウォーウルフ、1が隊長のマイルズとしてそれぞれに2・3・4の数字が割り当てられているのだろう。手前にいた1体はたちまち蜂の巣となり、純白を赤に染めながら地に伏した。もう1体はすぐに移動し、廃墟のビルに飛び込み身を潜めた。


 「1体を撃破!」


 「気を抜くな、もう1体が逃げ込んだ廃墟を警戒しろ」


 油断も隙も無い部下の行動。フォーメーションを維持したままビルを警戒する統率の取れたその動きは、マイルズの号令によって生み出されている。


 (さっき言ってたけど……

 『俺が育てた優秀な兵士』、か)


 ジンはそんな事を考えながらもすぐに意識を戦闘に切り替え、べノムの気配を探る。周囲に感じられる敵は1つ、当然ながらビルに逃げ込んだ喰らう者(イーター)のものだ。しかし違和感を同時に感じる。気配がどんどん()()()()()()()()のだ。


 「これは……!? 皆さん、敵は上から来る!!」


 ジンの警告とほぼ同時に喰らう者(イーター)が再び姿を現した。ビルの高い位置の外壁を突き破り、3人を飛び越えて直接マイルズやジンのいる地点を目がけ飛びかかって来たのだ。階段を上って高度差を生み出し、前衛を飛び越えて頭を先に潰すつもりなのだろう。


 「――なるほど、最低限の知恵はあるということか……だが」


 マイルズは動じずにそう呟き、カービン銃を投げ捨て腰のナイフを抜き逆手で構えた。


 「前言撤回、お前は獣以下だ。獣ならば彼我の実力差を本能で感じ取るもんだ」


 高所からの飛び込みによる襲撃、マイルズは紙一重でそれを躱し、カウンターで脚部を大きく斬りつける。最小限の動きでの回避と的確なカウンター。流石はトップランカー、老体ながらあの拳二に近い身のこなしだ。


 「グオオオオオオオ!!!」


 喰らう者(イーター)は着地に失敗し、派手に血を撒き散らしながら白い地に転がる。即座に体勢を整え反撃してくると思いジンは警戒態勢を取ったが、敵はその場で這いつくばったまま蠢くのみ。足の腱を断ち切ったのか、立ち上がることが出来ないようだ。


 「――っ、止めです!!」


 近くにいたサラがすぐに拳銃を放つ。緋色合金の弾丸は狙い通りに頭部に着弾し、一撃で命を断ち切った。倒れた死体を中心に赤色が広がっていく。


 「ふぅ……良かった当たってくれて……」


 「やるじゃねぇかサラ。流石は代理人(エージェント)、いい腕だぜ」


 「い、いやー……実はかなりビビッてまして……あはは……」


 戦闘は終了。マイルズはしきりにサラを褒めた後、部下の3人も労っていた。しかしジンは一行から少し離れ、最初に蜂の巣にされた喰らう者(イーター)の死体を観察していた。


 「……」


 するとマイルズがジンに気付き、後ろから声をかけ歩み寄ってきた。


 「どうした、何かあったか?」


 「いえ……ただその、前に遭遇した個体と比べて動きが悪かったような……そんな気がして」


 以前カテゴリーCの個体と遭遇した時、兵士の1人が目の前で真っ二つになったことを覚えている。当時は戦闘経験を全く積んでいなかったというのもあるが……目にも止まらぬ猛スピードで奴らは襲い掛かって来ていた。

 しかし今回のこいつらは違う。緩慢な動きで姿を晒し、片足を潰されただけで戦闘不能になった。正直以前に比べて何の脅威も感じなかった。表皮の強靭さはともかく、これではただの凶暴な動物と変わらない。


 「ほう、鋭いな。単純な視力だけでなく、観察眼にも優れてるときた。こりゃ23の数字じゃ勿体無いな」


 「ということは、やはり……?」


 「ああ。こいつらカテゴリーCの個体はとにかく知能が低い。自らの身体が寒さの影響で鈍っていることに気付かないんだ。だからこそ極寒のエリア2にはほとんど姿を見せない。単純に人里に辿り着く前に凍死しているからだ」


 「なるほど……」


 ジンはマイルズの話を頭に刻み付けるように聞き入る。オールドライブラリで多少の知識は得たが、やはり現地を知っている生の声とは比較にならない。現にカテゴリーCには寒さを意に介す程の知能も無い、ということは初めて知り得た情報だった。


 「戦いのための知能は持っているようだが……それはどちらかといえば本能だろう。人間を殺して喰らう、狩人のような本能だ。

 さて、とっとと先に進むとしよう。もう結構近いぞ」


 マイルズは考え込むジンの背中を叩き、再び歩を進めていった。他の兵士やサラもそれに続く。ジンは最後尾でサラと並んで歩き始めたが、その表情は重い。


 「ジン君、どうかしました?」


 「……うーん、自分でも分からないというか……まだ答えが出ないというか……」


 「??」


 「いや、何でもありません。行きましょう」


 知能の極めて低いカテゴリーCの喰らう者(イーター)。何故そんな生物が言葉を理解するほどに進化出来るのか、ジンは疑問に思っていた。前に戦ったレイザーを思い出す。変異体の禍々しい姿は確かに怪物そのものだったが、人間体には瞳が赤い以外は怪物と呼べる要素が無かった。


 (人化とはよく言ったものだけど……あそこまで知能の低い生物が、なぜあんなに急激な進化を遂げられる? 人を殺し喰らうしか能の無い生物……()()()()()ことに関係があるのか?)


 などと考え込んでしまうが、ジンはこれが自らの悪癖であることを知っている。この場でいくら考えても答えは出ない。この焔を纏っていた個体にしろ、大災厄のことにしろ、今の時点では。

 ジンは首を左右に振って気持ちを切り替える。


 (いけない、とにかく今は武器だ。殺して殺してとにかく殺して……真実を掴むのは、その後でいい)

 

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