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Awake

更新しました。よろしければ覗いていってください!


 ――見渡す限りの破壊の跡。焼き尽くされた建造物と、おびただしい量の死体。


 ここはエリア3のとある貧民街。突如現れた喰らう者(イーター)によって、たった1日でこの有様になったという。

 

 「……ここまでとは……」


 1人の青年が、重苦しい様子で呟く。長髪を雨に濡らしながら、ゆっくりとした足取りで船を降りる。

 まるで刃物のように鋭い視線で、周囲を見渡す。


 (……静かだ。それに奴らの気配は感じられん。既に去ったか、或いは……)


 青年が警戒しつつ思考を巡らせていると、船内からぞろぞろと銃器を携帯した兵士達が降りてくる。

 その中の1人――その場には似合わぬ、黒く新しいスーツを着た若い女性が青年に声を掛けた。


 「ひどい状況ですね……。SOSが発信されたのは、ここ港湾区画からかなり進んだ自動車工場のようですが……。まずはそこを調査しましょうか?」


 髪を短く切り揃えその女性は、酷く顔色が悪い。この状況を目の当たりにしたからだろうか?

 いいや、彼女は新人ながら優秀なスタッフだと()()から聞いている。考えられる理由は恐らく――


 「……船酔いか? なら少し休んでから行こう。奴らの気配も皆無。急ぐ事もあるまい」


 そう予想しつつ声を掛けると女性はたちまち背を向けてうずくまる。


 「す、すみません……。少しだけ待っていて下さい……すぐに抑えますので……うぅ……」


 やれやれ。あの新人、あの調子で『代理人(エージェント)』が務まるのだろうか……。そう遠目に彼女を見守っていると兵士が1人、近付いて来た。


 「我々軍は総員、下船を完了しました。数名を船舶の保護の為に残し、調査を開始しますが……。

数字持ち(ランカー)』殿は如何なさいますか?」


 「俺達はSOS信号のあった自動車工場を中心に調査を行う。あなた方はあなた方で動くが良い。有事の際には救援の連絡を。迅速に駆けつけよう。……もっともあなた方バーテクス正規軍の精鋭には無用の心配かもしれんがな」


 兵士は青年よりも遥かに年上だったが、青年は対等、或いはそれ以上の立場かの如く振る舞う。また兵士も兵士で下手に出ているように見える。


 「ははは……それは心強い。では、我々は行きます。そちらも何かあれば連絡を」


 そう言い残して兵士は部隊に戻っていき、間も無く調査を開始、港湾区画から工業区画へ向かっていく。


 すると気分がようやく落ち着いたのか、女性が青年の横に並び立つように戻ってきた。

 ……まだ少し顔色が悪いが。


 「はあ~~、凄いですね刀也(とうや)さんは。私より年下なのに、堂々としていて」


 女性は青年……刀也(とうや)の堂々とした立ち振る舞いに感心し、称賛する。


 「まあ俺も数字持ち(ランカー)になって3年ほど経っているからな。それに彼らとはそもそも()()()()()のだから、あなたも過分に(へりくだ)る必要は無かろう?」


 刀也はその称賛を素直に受け取り、ついでに女性にも助言をする。


 とても年下とは思えない、堂々とした発言。

 あとちょっと言い回しが老人くさい。


 「それにあなたは軍学校を優秀な成績で卒業した、という噂を聞いている。正規軍の入隊を蹴って同志になったとも。ならばそれに見合う結果を見せて貰いたいものだ」


 刀也は女性を焚き付けるような言葉を残し、スタスタと工業区画へ歩いていった。


 「……あの子、ホントに18歳なのかしら……。ううん、弱気になっては駄目よ、サラ。組織では後輩とはいえ20歳で私は年上。しっかりデキるお姉さんって所、分からせてやらないと!」


 彼女の名前はサラ。――軍学校を卒業しながらも、正規軍には入隊せず()()()()()に勧誘され、その道へ進んだ才女であった。


 サラは船酔いが残る頭を何とか醒ましながら、小走りで刀也の後に続いた。
















 この無残にも焼き払われ、徹底的に破壊された街。

 自分が育ってきたこの街を一望できる少し外れの丘に、ジンは立っていた。


 その丘の上にはジンが勤めていた武器工場の――『ガンツ工房』の文字が僅かに焼け残っている、その看板。そして3つの焼け焦げた木材が突き立っている。


 ガンツ、シンシア――そして自宅で焼死体になっていた、親方の墓標だった。


 そしてそこから少しだけ離れた所にもう1つ。


 「……こんな粗末なお墓でごめん、みんな。それに姉さん」


 カガリの墓標には、彼女が身に着けていたネックレスが下げられている。

 そのネックレスは、記憶も曖昧な子供の頃にジンが何処からか盗んだものであり、無邪気にもカガリにプレゼントしたものであった。


 「こんな昔にあげたもの……身に着けてたのか……」


 ジンは無表情にその場に立っている。雨に濡れたその顔は、涙を流していても判らないだろう。


 自分の胸元に触れる。


 (――あの時確かに貫かれた。確実な致命傷。だけど、それでも必死に手を動かした。あの喰らう者(イーター)だけは、必ず殺すと決めて。そして奴に何とか止めを刺した時、あの焔が流れて来たのを感じた。それに声も……。)



 『――オモシロイ。ナラバワタシハ、オマエヲ――』



 あの時の声。口元は動いていなかったが、間違いなくあの怪物が発したものだろう。

 姉さんを見つけた時も奴は何かを言っていた。


 そして奴は執拗に姉さんを狙っていた。

 背中を大きく斬りつけた時も、歩みを止めなかった。致命傷にはならなくとも、あの時の出血量からしてかなりのダメージだったはず。


 明らかにおかしい。ジンが考えれば考えるほど、疑問は果てしなく沸いてきた。


 あの喰らう者(イーター)は何処から現れたのか。

 奴の発した言葉の真意は。何故姉さんは執拗に狙われたのか。

 何故俺は生きているのか。あの時焔が流れ込んできて、胸の大穴を塞いだのは何故なのか。


 そして何より、


 「――あの時、俺に何を伝えようとしていたんだよ、姉さん……」


 怪物から逃げている途中。

 カガリがジンに伝えなければならないと足を止め、引き留めた時の言葉。

 無数にある疑問の中、その言葉だけはきっと、もう2度と分からないのだと、ジンは理解していた。

 

 (だけど、いつまでも立ち止まってはいられない。)


 ジンは、ブレードに加え小型のナイフとのアサルトライフルを所持していた。

 この廃墟を雨の中探し回って見つけた貴重な武器であった。ブレード以外は緋色合金の使われていない、旧式のものであったが、それでも無いよりはマシだろう。そう考え集めたのであった。



 腰に取り付けたナイフを抜き、――それを頭に近づけた。

 

 

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