Craftmanship-2
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「――ランク23……そうか、話は聞いてるぜ。べノムの力を宿した期待の新人ってな」
男は短くなった煙草を灰皿に押し付けながら言った。ジンとサラは自らのドッグタグを見せながら自己紹介を終え、男と対面の席に座っていた。周りの者から隊長と呼ばれていたこの男の一声で2人に向けられていた銃口は下げられ、同じテーブルに着くことができる。
銃を向けていた者たちもすっかり警戒を解き、賑やかな酒盛りを再開させていた。ジンは感謝を述べながら自分の軽率さを反省する。
「すいません驚かせてしまって……俺の方も不注意でした」
大雪の中を歩き続け、遂に辿り着いた集落。ジンとサラは明かりの点いていたこの店にひとまず入ることに決め、扉を開いたのだが……べノムの力を解除するのを忘れてしまったのだ。異能力である赤黒い焔を纏いながら両瞳は真紅、おまけにこの大雪の中タンクトップ1枚では確かに人間には見えない。
店主が温かいコーヒーと毛布を出してくれたので、サラは鼻をすすりながらもそれらで暖を取っていた。とりあえずは一安心、と柔らかい表情を浮かべながら話した。
「ズズッ……はぁ、でもドッグタグを咄嗟に出したのは正解でした。皆さんの装備から正規軍の方々だと思ったので、タグで分かってくれると思ったんです」
「流石の洞察力ですねサラさん……でも、この人は多分――」
すると男は新たな煙草に火を着け、首から下げたドッグタグを外した。
「――ジンと言ったか。あの状況で俺のタグの刻印を読み取るとは、良い目をしてる。ほれお譲さん、自己紹介だ」
男はタグをサラにそのまま手渡した。タグの刻印を見た途端、サラが目を見開いて驚愕の声を上げる。
「な……な……あなたは……!? というかなぜこんな所に!?」
「はっはっはっは! まぁちっと野暮用がな。
――改めて、俺はハウンド所属の数字持ち、
『マイルズ・カーター』だ。老兵だが、タグにある通りこれでも『ランク4』……よろしくな、ジン、サラ」
「ランク4……! よろしくお願いします」
「こ、こちらこそどうかお見知りおきを! マイルズさん!」
思わぬ所でのトップランカーとの邂逅。マイルズは自分の事を老兵と言ったが、纏っている空気は紛れもない強者のものだった。確かにランク5の拳二や、それに近い実力を持つ刀也の持つ攻撃的な闘気ではないが、老兵ならではの何があっても動じない大樹のような安定感を感じた。
「そうだ……ところでお前さんたち、もしかしてネイスミスの工房に用事があるのか?」
「ええ、その通りですが……もしかしてマイルズさんも?」
「ああ、俺の得物を整備してもらっていてな。雪が弱まったら一緒に行くか?」
土地勘の無い2人にとっては願ってもない提案。場所を教えてもらっているとはいえ、やはり知っている者に直接案内してもらえるのは有り難かった。
「本当ですか!? 是非お願いします! ジン君もいいよね?」
「それはもちろん。こちらからお願いしたいくらいですが……いいんですか?」
「はは、それこそもちろんだ。さて、飯でも食って雪が弱まるのを待つとしようぜ。おいマスター、適当になんか持ってきてくれや!」
それを聞いた店主は渋い顔をしながら猟銃をカウンターに置く。整備をしているようだが……。
「ったく、銃の整備も出来やしねぇ……こいつが済むまで少し待ってろマイルズ」
「おいおい、こっちは客だぞ。全くしょうもねぇオヤジだなァ」
喧嘩……には程遠い口が悪いだけのやり取り。マイルズがこの店の相当な常連客なのが伝わってくる。
不意にジンが席を立ち、カウンターに歩み寄りながら言った。
「店長さん、良ければ俺が整備しておきますよ。こう見えても技術者の端くれでして」
「あん? 何だ坊主、随分古い銃だがやれんのか?」
「ええ。それなりに自信はあるつもりです」
「はっ、分かったよ。もし壊しやがったら坊主の持ってるその銃を頂くから、そのつもりでな」
店主はジンの所持している散弾銃を指しながら、工具を工具箱に戻し汚れたグローブを外していく。
「分かりました、任せて下さい。でもその代わり、ご飯は大盛りでお願いしますね」
こうして店主は厨房があるであろう店の奥へと姿を消した。ジンはグローブを借りてそのまま作業に移る。かつて毎日遅くまでやっていたライフワーク、久しぶりに握る工具に無意識ながら心が躍る。
するとマイルズも席を立ち、物珍しいものを見るように作業の様子を覗き込んできた。
「ほー、こんな古い猟銃の整備ができるのか、若いのに大したもんだ。それにしてもジン、腹でも減ってたのか?」
「実は結構空腹でして……昨日は夕飯を食べ損ねてしまったので」
「それはいかんなァ。俺たち数字持ちは常に戦いに備えてなくちゃならんものだぞ?」
「そうですね……でも実はそれだけじゃなくて、銃の整備を少しやりたかったんです。俺は元々エリア3中央のスラム街出身ですから」
「……なるほどな。だったら――」
マイルズは不意に工具の一つを手に取り、猟銃の整備を手伝い始めた。突然だったのでジンは驚いたが、マイルズは穏やかな笑みを浮かべて言葉を続けた。
「俺も手伝おう。現場レベルの応急修理しか出来ないが、メンテナンス程度なら俺にも問題無く手伝えるだろう。その間にでも聞かせてくれないか、お前の話を」
器の大きさを感じさせる、優しい大人の表情。銃の整備をする以上煙草は厳禁だが、その口には咥えていない。マイルズは新たに火を着けたはずの長い煙草をさっきまで居た席の灰皿に捨ててきたようだ。代わりに席には他の男たちの絡み酒を食らい、困った様子のサラの姿。
「ったくあいつら……ま、あいつらは全員俺の部下でな。あんなんでも俺が育てた優秀な兵士、変なことはしないさ」
「そ、そうですか……分かりました。少し長くなりますが、それでも良ければ――」
こうしてジンは己の過去をマイルズに話した。かつて刀也やサラに話した時以上にマイルズとは初対面であり、そこには友情や信頼など何の関係もありはしない。が、食事前だというのに平気で手を汚しながら作業を手伝う姿、長い煙草を惜しまず捨てて話しに来てくれたスマートさ、それらの行為はジンに男としての格の高さを見せつけたのだ。
となれば自分の過去など勿体ぶる話ではない。この人になら話してもいい、この人は信頼できる……ジンはそう直感に従った。




