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「そっか……ネクサスを探してるんだ」
「はい。中々見つけられなくて」
ジンは小型通信機・ネクサスのことについて尋ねてみた。第4層の主要な店を一通り回っても現物自体を見つけられなかったこと、そして今後どう手に入れればいいのかが分からず困っていたのだ。
「ふーむ……ジン君、そもそもネクサスってどういった代物か分かってる?」
「そうですね……とりあえず電波塔で中継されている範囲内であれば遠距離の通信、範囲外でも短距離であれば通信機同士で相互に通信が出来ると聞いていますが」
エリア5の前線基地を調査した時、サラ・刀也・拳二が連絡を取り合いながら行動していたのを思い出す。あの時は基地の電波塔が働いていないだけだったが。
「そうね、大体その認識でいいと思う。でもネクサスで重要なのは電波塔の回線を通さない通信機同士の相互通信機能にある。なにせ通信圏外というのは正規軍の占領圏よりも更に範囲が限られていて、基本的にこちらの機能が重宝されているの。あとは通信機器の種類を幅広く対応できるのも大きいわね。大災厄以前の無線機だろうが、軍用の固定端末だろうがお構い無しよ」
通信圏の話はジンも知っている。現在電波塔の建設は進んではいるものの、やはり難航している。遠距離の通信が可能な通信圏内というのはエリア1とエリア3の全域、そしてエリア5のごく一部しかない。
バーテクス正規軍にしろハウンドにしろ仕事の場は、当然喰らう者の跋扈する正規軍の占領圏外になるので、当然ながら通信圏外にも該当する。短距離だろうと様々な端末にアクセスできるのは非常に大きなメリットを持つ。正規軍に支給されるのも頷けるというものだ。
「うーん、ますます必須な気がしてきました。とはいえ根気良く流れてくるのを待つしか――」
「だったらジン君、これをあげるわ」
そう言って差し出されたのは、探し求めていたネクサスそのものだった。
「な……ミシェルさん、これ……」
「実はね、さっき軍の上層部の人と会社の上司が一緒に来てね。
――あはは、クビになっちゃったの」
「そんな……!! それは……でも、歩けるようになるんですよね!? だったらどうして……」
ジンは予想外の話に困惑し、怒りすら覚えていた。片足を失ったとはいえ数年後には義足で歩けるようになると言っていた。ましてやミシェルは兵士では無く技術者だ。停職はありえても解雇される理由など無いように思えたのだ。
「うん……まぁ実はさ、数年すれば歩けるようになるって言ったけど、あくまでそれはリハビリが順調に行ったらの話なの。膝関節を含む神経接続型の義足って、誰でも扱えるわけじゃないらしくて。それが合わなかったらもう手段は無いから諦めるしかないんだけど……やっぱり会社としてはそんな不確定要素の多い、ただの一般社員は置いておけないってことみたい」
「そんな……そんなことって……」
命は確かに救えた。ミシェル自身も感謝していると言ってくれた。しかしミシェルの立たされた困難な状況をいざ目の当たりにすると、後悔の念は簡単に蘇ってくる。あの時自分にもっと力があればと思わずにはいられない。
「……ジン君、何度も言うけどあなたが気に病むことは無いよ。私自身会社の判断は妥当だと思うし……治療費も負担してもらうことになってる。
だからこそ、ネクサスが必要なら私のを持っていって。あなたが持っている方がきっと役に立つ」
「……でも……」
「心配しなくても大丈夫。こう見えても頭の良さには自信があるし、私は生きて行けるよ」
ジンは少し迷ったが、すぐに覚悟を決めてミシェルからネクサスを受け取った。
後悔があるのなら戦い続けなければならない。これまでにあったこと、これから起こること、その全てを背負い続けて、この命が尽きるまで。姉さんを失ったあの日から、とっくに決めていた筈だ。なら迷う余地などありはしない。
「……分かりました。あなたの分まで、俺が頑張ります」
「――何故俺たちを助けた、レイヴン」
アリゲイターは自分の少し先を歩くレイヴンの背中に声をかけた。知り合いに医者がいるというので、会合をした建物を後にし、砂塵舞う中をレイザーと共にレイヴンの案内の下並び歩いていた。
「言ったろ、僕は君たちがもう少しで使い物になるって。ちょうどにも部下が欲しかったし、利害の一致ってやつさ」
「それだけとは思えない。それに諜報ならむしろ個人の方が動きやすいと思うが」
「……」
一時の沈黙。レイヴンの組織内での役割、それは高い飛行能力を活かした各地への連絡係、そして人間たちの情報収集をする諜報員のようなものだった。
レイヴンはアリゲイターの的を射た言葉に少しだけ笑ってから答えた。
「部下が欲しかったのは本当さ。諜報ってのは隠密行動だけじゃないからね。……まぁでも、欲を言えばもう少し冷静な奴が良かったけどな」
「……うるさいな、ボクだって反省してるよ」
露骨なレイザーへの言葉。腕の痛みもあるのだろう、不機嫌そうにレイザーは応えた。
「そうだな……僕はロゼには借りがあってね。一生かかっても返しきれるか分からないほどの大きな借りが。だからロゼの形見ともいえる君たちが放っておけなくてね」
「借り……?」
レイヴンはこちらを向かずに話し続けるので、その表情は分からない。しかしアリゲイターはそのどこか懐かしむような優しい声色にロゼとの関係性を垣間見る。
「そう……そしてそれはファントムも同じで……おっと、これ以上言うのはマズいか。あの子怖いからなぁ、今のは忘れてくれ」
「気になるところだが……分かった、深くは聞かないでおこう」
正直あのファントムの物言いからはそんなことは微塵も想像できなかったが……ともかく、ロゼが慕われていたのは確かなようだ。最初にロゼがやられたことを報告した時、ジェネラルもどこか残念そうな表情だった気がする。
(……見ていてくれ、必ずレイザーは強くして見せる。勿論この俺も一緒に)
アリゲイターは空を見上げた。もうじき日が落ちて夜が来るだろう。
「……しかしまさかロゼがくたばるとはなぁ。確かにカテゴリーAには登って来ちゃいねぇが……『猟犬』だったか? 大したもんじゃねぇか」
拳王が感心するように言い放つ。レイヴンが2人を連れ帰った後の会合の席、その3人を除いて会合はまだ続行されていた。すると拳王に続いて白衣を纏った老人が口を開く。
「私としては報告にあった『赤目の人間』……彼が非常にそそるねえ」
「相変わらず研究熱心ね『プロフェッサー』。『母』を復活させる『鍵』は判明したのかしら?」
「ククク……順調に進んでいる、とだけ言っておこう。君たちこそ気になる相手がいたんじゃないか、拳王」
「まぁな……ランク5か。こいつとはいい殴り合いが出来そうだぜ」
話が拳王・ファントム・プロフェッサーの3人で盛り上がっている所にジェネラルが釘を刺す。
「――やかましいぞ。とにかく今日の会合で伝えたかったのはそれだ。ロゼの訃報と猟犬の脅威。連中の頭の恐ろしさは皆知っていると思うが、改めて猟犬共に油断は禁物だ。プロフェッサー、引き続き『鍵』の研究は頼むぞ」
「クク……完成までに人間は滅ぶかもしれないけどね……ま、研究の方は当然続行しよう。全ては大いなる『母』のために、だ」
「まあ心配すんなよジェネラル。俺たち『メサイア』は簡単にやられはしねぇさ。そうだろバスター」
「俺を話に巻き込むな。……とにかく人間を殺せば文句無いだろ? 研究とやらは任せるよ」
そう言ってバスターは席を立ち、会合の場を後にした。
「やれやれ、ほんと不愛想だなァ。ま、俺も行くぜ。なんかあったら言えよジェネラル」
「私も戻らせてもらうわ。今度会合を開くならもう少し面白い話を用意しておいてね」
「私もそろそろ帰るとしよう。これ以上研究所を開けては怪しまれそうだからねぇ」
バスターに続いて場を後にしたのは拳王・ファントム・プロフェッサー。残ったのはジェネラルを含め数名で、その全員がジェネラルの率いる部下だった。緊張が解けたのか、部下の1人が息をつきながら言った。
「……ふぅ、自由人しかいませんね、『メサイア』の方々は。流石に自由にさせ過ぎではありませんか?」
「これでいいんだ。組織的に動くのが俺たちだけだからこそ、最高戦力であるメサイアの4人を好きにさせておける。愚かな人間共は致命的な劇毒を飲み込んでいることに気付かないのさ」
ジェネラルは不敵な笑みを浮かべていた。
(全ては計画通りに運んでいる。人間たちの殲滅と、大いなる『母』の復活。必ず実現して見せる。
我ら喰らう者の、黄金の時代を――)




