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Old library-3

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 ――エリア5、バーテクス正規軍占領圏外のとある場所にて行われている組織スティールの会合。その場にレイザーとアリゲイターは出席していた。長机に複数名が着いており、レイザーとアリゲイターの報告を聞く。


 「そうか……ロゼが死んだか」


 そう呟いたのは葉巻を咥え、肌が黒くサングラスをかけた大男。見た目だけで言えばアリゲイターよりも大きく、筋骨隆々な男は机に足を投げ出しながら座している。

 

 大男の名は『ジェネラル』。

 長机の最奥に座しているのと将軍(ジェネラル)の名前、そして威厳ある風格から彼の組織内での立ち位置を理解するのは難しくない。


 「ああ……あの猟犬共は手強い。人間の腑抜けた軍隊など比べ物にならんほどに」


 「仇は必ず討つ。ボクはあいつらを許さない」


 2人は報告を一通り終えた。ふと席についた面々を見渡すと、1つだけ空席があった。そこはきっとロゼの席だったんだろう。彼女は定期的に行われるこの会合に参加する者の1人だったから。


 2人が行き場の無い悔しさを滲ませる中、心無い言葉が突き刺さる。


 「ふうん……ロゼの奴、やっとくたばったのね。よかったじゃない」


 「……なに?」


 その言葉を発したのは手前に座っていた女性。鮮やかな青色のドレスを纏った彼女は、赤色のドレスを好んで着ていたロゼとは正反対の、氷のような印象を持っていた。レイザーは彼女の心無い言葉に憤る。


 「よかった……? はは、ボクの聞き間違えかな、アリゲイター」


 「……いや……」


 「そっか…………


 ――なら殺してやるッ!!」


 レイザーは瞬時に腕を変異させ、女性に斬りかかった。持ち前の瞬発力を最大限に発揮した踏み込みは、隣にいたアリゲイターの反応速度を簡単に超える。


 「おい……レイザー!?」


 アリゲイターが制止しようにもその場にレイザーはいない。既に刃を振りかざし、女性の眼前まで迫っていた。


 

 ――鮮血が噴き出る前に宙を舞う物体が1つ。しかし何かがおかしい。アリゲイターの視界には女性の微笑みが映っているし、何の傷も負ってはいない。

 宙に舞う物体……それは女性の首では無く、刃へと変異させたレイザーの腕だった。レイザーは何が起きたのかすぐに理解できず、キョトンとした顔で自らの切断された腕を見る。


 「あ……れ、なんで……ボクの腕が……?」


 席に座ったままの女性を守るように立ちふさがったのは金髪の青年。その表情は女性のような微笑みも無ければレイザーのような敵意も無い。ただ淡々とつまらない作業をこなすように、その手に持った剣でレイザーの腕を切断したのだ。


 「やれやれ、ロゼの目も曇ったものだわ。こんなのを守って死を選ぶなんて……賢いだけが取り柄だったのに。アンタたちが死んだ方が良かったんじゃない?」


 「ぐっ、うううう……」


 レイザーはその場にうずくまり、痛みに苦悶することしか出来ない。女性のロゼを貶める発言を否定することも出来ず、自らの腕を斬り飛ばした青年に食って掛かることも出来ず、ただ顔を歪めて2人を見上げた。

 行動を今まで共にしてきた兄弟のような存在。それがアリゲイターとレイザー関係だ。うずくまるレイザーを未だ座りながら煽る女性の姿を目にし、黙っていられるわけがない。


 「貴様……いい加減に――」


 「――たかが腕の一本で憤るな。それ以上動けば命を絶つ」


 アリゲイターが女性に向かって動こうとしたその瞬間、一歩目を踏み出すことが出来なかった。いつの間にか金髪の青年が目の前に立ち塞がっており、喉元を剣先で数㎜ほど既に刺されていたのだ。


 「馬鹿な……速過ぎる……」


 ゆっくりと剣の上に微量の血が伝い、アリゲイターは戦慄する。レイザーをも超える圧倒的な速さ、変異体になる隙など無かった。


 「はぁ……『ファントム』、あまり虐めてやるな。『バスター』も、剣を引け」


 溜息をつきながらジェネラルが言った。女性の名前はファントム、青年の名前はバスターと言うらしい。バスターの方は言われるがままに剣を下したが、ファントムの方はそうはいかなかった。


 「あらジェネラル、私間違ったことは言ってないと思うのだけれど……そうでしょう? だってまるで割に合わないじゃない」


 ファントムは微笑みを崩さずに言い返した。すると女性の向かいに座っている別の男が口を開いた。


 「……ジェネラル、俺はファントムと同意見だぜ。今みたいに変に動かれても困るし、ロゼには悪いが……

 ――コイツら殺しといた方が良くないか?」


 見るからに好戦的な男が提案したのは、レイザーとアリゲイターの処分だった。その瞬間、場にいる全員の視線が2人に突き刺さり、アリゲイターは背筋が凍り付いていくのを感じた。

 恐怖すら感じる強い殺気。恐らくほとんど全員がカテゴリーAの強者であり、その気になってしまえば自分たちを殺すことなど赤子の首を捻るより簡単かもしれない。


 「ふむ……一理あるな。確かにこの程度の連中の損失は何も惜しくない。『拳王』の意見に異のあるものは?」


 「……」


 拳王……それがあの男の名だった。拳王の提案に異を唱える者などいるはずもない。レイザーがファントムの安い挑発に乗って斬りかかってしまった時点でもう……。


 (……こんな簡単な終わり方なのか、俺たち2人は。しかしロゼ、お前はこんな連中と対等に渡り合っていたのか……流石だな……)


 アリゲイターは内心諦めてしまっていた。レイザーは既に重傷、仮に完全な状態だったとしても、バスター1人にすら敵わない。それだけの大きな力の差を直感している。


 しかしその時、救いの手は差し伸べられた。


 「――ジェネラル、少し待ってくれ。この2人は一旦僕に預けてくれないか」


 そう言ってくれたのは、アリゲイターの後ろに控えていたレイヴンだった。


 「ほうレイヴン、理由を聞こうか」


 「勿論だとも。とても単純な理由さ、実は彼らは成体間近まで人化を進めていてね。もう少し待てば必ず使い物程度にはなるだろう」


 「レイヴン……俺たちの懸念はそこではない。先程のような感情任せの突発的な行動こそが問題なんだ。『メサイア』ほどの力を持っているならまだ許容できるが、こいつらにその力は無い」


 「うん、だから僕に預けて欲しいんだ。責任を持って監督するからさ」


 レイザーとアリゲイターは思わず目を見開いてレイヴンを見つめていた。何の理由があって自分たちに救いの手を差し伸べているのか、まるで分らなかったからだ。


 「責任を持って……か。ならお前は何を差し出す? こいつらが先程のような事をし、組織に迷惑をかけた時、お前が賭けられるものは何だ?」


 「そんなものは決まってる。


 ――僕の命さ」













 エリア1・第2層に位置する病院。オールドライブラリと並んで第2層を象徴する施設の1つであり、その巨大さは息を呑んでしまうほどだった。

 ジンはアームズを連れ、ミシェルへの面会に来ていた。


 一通りの経過を聞きジンは胸を撫で下ろしていた。何でも運び込まれてすぐに手術を行い、義足を取り付ける為の準備をしたらしい。神経が慣れるまでは義足本体の接続はしないとの事で、今は傷口を金属の蓋で塞いでいるような見た目をしている。


 「へえ……じゃあまた歩けるようになるんですか?」


 「うん。私の運動神経じゃ数年はかかると思うけど……そういうことだから、一安心かな」


 「そうですか……その、俺に出来ることがあれば何でも言って下さいね」


 最初に比べてミシェルは随分とフランクに接してくれるようになった。時間経過と共に精神的にも落ち着いてきたのだろう、最初の情報室で出会った時の、小さな体を恐怖に震わせていたあの印象とは大きく異なる。


 (もっと気弱な人だと思っていたけど……いや、それは違うな)


 ジンが思い出したのは片足を失いながらも体を引きずり、通信設備の復旧をやり遂げていたミシェルの姿。強い人だからこその姿は、とっくにもう目にしていた。


 「……ところでジン君、ちょっと」


 「? なんです?」


 ジンを近くに来るように呼び、入り口付近に佇むアームズに聞こえないように耳打ちをする。


 「(……入口にいる何だかすごく怪しい人、あの人は……?)」


 どうやらミシェルはアームズの事を不審に思っているらしい。無理もない、アームズは外を歩いている時同様フードを深くかぶっているのだ。


 「(あぁ……その、ちょっと知り合いでして……大丈夫、変な人じゃありませんから)」


 ジンは少し考えたが、アームズの名前は言わないことにした。自らのことを進んで話さない彼女の情報は、他人が教えてしまうのは違う気がしたのだ。


 「……ふぅん、ならただの知り合いってことにしておいてあげる」


 「あはは……ありがとうございます」


 顔が隠れていても流石に性別は分かったのだろう。ミシェルは悪戯な笑みを浮かべ、それ以上は追及しなかった。……変な誤解をされてしまっている気もするが。

 これは早めに話題を逸らした方がいいと判断して考えを巡らせる。ふと空輸機内でミシェルとサラが話していたことを思い出す。


 「あ……そういえばミシェルさん。たしかバーミリオン社の通信技術者でしたよね、少し相談したいことがあるんですけど……」


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