Old library-2
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エリア1の都市を象徴する、特異な4層構造の街。その階層の上下を結ぶのが、今2人が乗っている超大型エレベーターだ。このエレベーターはエリア1の広い街の中に複数機設置されており、人間だけでなく最下層の港から搬入した物資を各所へ運ぶ役割も担っており、現にジンとアームズの他に数名とバーテクス正規軍用の物資を積載したトラックが数台乗っている。
(はあ……何件か店を回ったけど、結局通信機は手に入らなかった。金額云々以前に現物が無いんじゃ仕方ないけど……)
サラや拳二、もちろん刀也も所持していた携行可能な小型通信機。今後のためにもこのタイミングで何とか入手したかったが、どうやら緋色合金製の弾丸以上に貴重なものらしい。アームズと共に第4層の店を片っ端からあたったが、どこも例外無く品切れだった。
その小型通信機は『ネクサス』と呼称されているらしく、これもバーミリオン社の製品だという。
当然ながらネクサスは対喰らう者の最大組織であるバーテクス正規軍に優先して卸されているらしく、現物はマーケットにほとんど出回らないとか。
(拳二さんも手に入れるのには苦労したって言ってたっけ……こういう所はハウンドの辛い所だなぁ)
ハウンドという組織はその有能さとは裏腹に、非常に曖昧な部分がある。報酬は数字持ち、代理人問わず完全に歩合制で、装備や移動手段などの確保は基本的に全て自分で確保する必要がある。初任務こそ正規軍からの依頼だったため、様々な支援を得られたが今後はそうはいかないだろう。
在り方としては復讐、金銭……人によって動機は違うだろうが、他人から見れば金額次第ではどんな戦場をも駆ける、傭兵そのものだった。
(とはいえその分行動には制限が無いし、ランクの上下も堅苦しい階級的な意味は無い。……俺の力も受け入れてくれたし、文句は言えないな)
そんな事を考えながらエレベーター内に設置されている長椅子に座っていると、ふと隣に座っているアームズが話しかけてきた。
「――ジン……この後は『オールドライブラリ』に行くんだよね」
「うん、まずはミシェルさんの見舞いに寄ってからになるけど……」
「……だったら一度、第3層で降りたい。返したい本が家にある」
「そうか、ならちょうどいい、俺も弾を置いてこようかな」
実際購入した弾丸はトリプルオー散弾とスラッグ弾の20発入り各1箱で、ジンの腕力的には大した重量ではなかった。しかしたった今アームズが言った『返したい本』という言葉から察するに、どうやらオールドライブラリでは本の貸し出しを行っているようだ。であれば借りるかどうかはさておき、極力手荷物は少ない方がいいだろう。
(でもそうか……アームズも普通に第3層の住宅街に住んでいるんだな……)
2人は第3層でエレベーターを降り、再びここで待ち合わせる約束を交わしてそれぞれ自宅へ戻った。しかしここで全く予想もしていなかった衝撃の事実が発覚する。
「隣の部屋だったとは……驚いたな……」
ジンは購入した弾丸を部屋に置き、自室の扉の前でアームズを待った。待ち合わせをした後もずっと同じ道を並んで歩いていたから、進んでいくうちにもしかして部屋が近いのか? と思ったが、まさかお隣さんとは思わなかった。
部屋の前の通路は建物に沿うように作られており、向かいや隣の建物の通路とは一本橋のような架け橋で連なっている。当然ながら建物間の隙間は吹き抜けになっており、下層、上層だけでなく空の様子も覗くことが出来る。
ジンは吹き抜け側の柵に寄りかかり、眩しいばかりの青空を仰ぎ見ていた。
(改めて眺めると、本当にすごい街並みだよな……空が狭くてまるで穴の中にいるみたいだ)
建物同士の通路を繋ぐ架け橋は層によって角度や本数が異なり、青空はその橋の隙間から覗いている。隙間から差し込む日光は、まるで木漏れ日のようだった。
「あれ……ジン君じゃないですかぁ……そっか、そこがジン君のお部屋なんですね~……」
そんな風景を見上げていたジンに突然かけられた声。その声の主はすぐに分かったが、なにやら声の印象が普段と比べて重く暗い。というか何故この時間に彼女が外に?
「ええ、まぁ……というかサラさん……どうしたんですか、家で休んでるはずじゃ」
ジンの前に姿を現したのは顔色の優れないサラだった。猫背になりながらフラフラと歩いてくるその様は、朝の段階より調子が悪そうに見える。
「いや~……ついさっきハウンド本部で目を覚まして……マクスさんに今日は1日休めって言われて……帰ってきたところだよ~……」
普段の丁寧な言葉遣いが崩壊している。睡眠3秒前とでもいうべき状態だ。
「……本当にお疲れさまでした、ゆっくり休んで下さい。それと明日の道案内は頼みますね」
「確かネイスミスさんだっけ……? 位置情報はマクスさんから貰ってるから任せといて~……」
そう言ってサラは通路を進んでいった。が、またしてもジンに衝撃が走る。サラがカードキーを通して入室したのはアームズの部屋の隣だったのだ。
「ってサラさんの部屋そこなんですか!?」
「え……うん、そうだよ~……あーそっか、これからはご近所さんでもあるんだね~……よろしくねぇ~……」
本当に偶然なのか疑いたくなるほどの事実。ジン、アームズ、サラ3人の部屋は横並び一直線だったのだ。するとサラは寝ぼけ眼のままジンに尋ねた。
「あれ~……でもジン君、ここで何してるの~?」
「いまからオールドライブラリに行こうと思って、買った物を一度置きに戻ったんです」
「そっか~……なら今度は私も……一緒に……」
サラはどうやら意識がほとんど無いらしく、寝ぼけて会話を続けながら自分の部屋に入っていった。ぼそぼそとした声を断ち切るように自動でドアが閉まり、その後のサラがどうなったかは……ジンには分からない。(あの様子では恐らくそのまま倒れ込むように眠りに落ちただろう)
(本当に感謝だな、あんなになるまで頑張ってくれて)
ジンは内心にサラへの感謝を抱いたが、それを伝えるのはまたの機会になりそうだ。するとサラと入れ替わるようにアームズの部屋のドアが開いた。彼女は数冊の本をその手に持っている。
「お待たせ……行こう、ジン」
「あ、ああ……行こうか」
「……どうかした?」
「……いや、意外にも世界は狭いなと思ってさ」
「??」
ジン「あ、そういえばアームズ、一体どんな本を借りていたんだ?」
アームズ「――! それは……秘密……」
アームズが慌てて隠した本のタイトル
・人との上手な会話の仕方(プライベート編)
・これで完璧!コミュニケーション上達術
・より良い友人関係の作り方




