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 「じゅ、16歳!?」


 「もぐもぐ……うん、だから私に敬語は使わなくていい」


 残りのハンバーガーを頬張るアームズから告げられた衝撃の事実。確かに容姿から彼女は自分と同年代かそれ以下だと推測していたが、いざハッキリ告げられると驚かざるを得ない。


 (いや……でも変な話じゃないのか。刀也は俺と同い年だし、数字持ち(ランカー)になったのはもっと前だと聞いている。彼女にも理由があって戦っているんだろう、あまり詳しく聞くものじゃないのかもしれないな)


 16歳という年齢でハウンドに身を投じた理由、ランク3の数字が証明する規格外の戦闘能力。他にも聞きたいことはたくさんあったが、ジンは敢えて話題を逸らした。

 理由はどうあれアームズは味方で、共に喰らう者(イーター)と戦う心強い仲間だ。今はそれだけでいい。もっと関係を深めることが出来れば、知る機会もそのうち来るだろう。


 「そっか……それにしても凄い量を食べるな。美味しかったか?」


 気が付けばアームズが食べていたハンバーガーの山は姿を消しており、大量の包み紙が代わりに山を作っていた。ちょうど最後の1つを食べ終わったところのようだ。


 「……分からない。初めてこんなに量を食べたから、少し苦しい」


 そう答えるアームズの口元には赤いソースが付いており、自身は気付いていないようだ。ジンはテーブルに備えられていた紙ナプキンを手に取り、そのままアームズの口元を拭いながら言った。


 「動かないで、ソースが付いてる。……こんなにたくさん食べれたのは、きっと美味しかったからだと思うよ」


 「……これが、美味しい……」


 まるで美味しいという言葉を知らなかったかのようにアームズは呟いた。あの加工食品はお世辞にも美味しいとは言えない代物なので、アームズにとってこのハンバーガーの味はジンが受けた以上の衝撃だったのだろう。山のような量を一心不乱に完食したのも頷ける。


 「他にも美味しい食べ物はたくさんある。良かったら、また一緒に食事に行こう」


 「あ……


 ――うん。ありがとう、ジン」


 再びアームズはジンに微笑んでくれた。最初は氷のような、或いは機械のような無表情で、考えていることもイマイチ分からず困り果てたジンだったが、彼女の笑顔を目にした時そんなことは忘れてしまった。


 ランク3・アームズ。彼女はただ人とのコミュニケーションが苦手で、表情も豊かでない不器用なだけの……1人の女の子だ。










 「さて、昼食も済んだし色々と回ろうと思うけど……本当にいいの?」


 店を出たジンはエリア1を改めて回ろうと思い歩みを進めていたが、そこにはアームズの姿もあった。共に並んで歩いていて、心なしかさっきよりも距離が少し縮んでいるように思えた。


 「私も一緒に行く。街の案内も出来るし……ジンとまだ一緒に居たい」


 「――! わ、分かった。助かるよ、案内よろしく」


 アームズは無表情のまま言ったので、きっと深い意味は無いのだろう。それが分かっていてもジンは思わず赤面してしまう。


 (しかしこんな綺麗な女の子にこんなことを言われる日が来るなんて……もちろんそういう意味じゃないって分かってるけど。……シンシアさん、これもあなたの言う通り髪を切ったおかげかもしれませんね)


 頭痛と共に蘇るのはスラムにいた時の暖かな記憶。シンシアに髪を切れと言われたのは、まるで随分前の事に感じる。

 きっとこれから先、何度も何度も思い出すのだろう。お前にそんな幸せは許されない。楽しい時間すごしたり、幸せな思いをするのは許されない。そうやって浮ついた心に自戒的に釘を打つ。


 「よし……まずは通信機と弾の調達だ。置いてありそうな店の場所、分かるかな?」


 「心当たりはある。ついて来て」


 










 アームズに連れられ辿り着いたのは、第4層の中でも軍港の近くに位置する職人街。立ち並ぶ店には剣や銃器類、電気関係のジャンクパーツに自動車なんてものを置いてある店も。恐らくは工業製品を取り扱っている店が集中しているのだろう。まるで自分の故郷のような鉄臭い街並みは先進的なエリア1とは思えないものだった。


 「うわ……何だかすごい所だな。でも確かにここなら弾丸は確保できるだろうな」


 「私がいつも使ってるお店がある。まずはそこに行こう」


 そう言ってアームズは早足で歩いていく。ジンはそれに続いたが、少しだけ気になることがあった。いつの間にかアームズは、まるで自分の顔を隠すかのように上着のフードを深くかぶっていた。長い前髪と相まってかなり不審な外観だ。


 「なあアームズ、どうしてフードをかぶってるんだ? 別に雨は降っていないし、寒くもないし」


 「……理由は分からないけど、私がそのまま歩くと注目を集める。知らない人に声をかけられるのは怖い」


 「なるほど……ごめん、変なこと聞いた」


 人とのコミュニケーションが苦手な彼女らしい理由だった。もっともアームズが人の注目を集める理由はジンにはすぐに分かったが。


 (まあ……確かに声をかけたくなるのは分かるけど……)


 アームズの容姿は確かに美しい。今のような飾り気の無い服装でもスタイルの良さが滲み出ているし、顔立ちも抜群だ。無論ジンの知っている数少ない人の中でも、サラを筆頭に綺麗な女性は多い……が、アームズの容姿はそれらの人々とは一線を画す。服装と髪型を整えれば美しさには更に磨きがかかるだろう。


 「……ジン? お店着いたけど……」


 意識の外からアームズに声をかけられ、ジンはようやく我に返る。いつの間にか店に着いていたようだ。


 「……はっ!? ああごめん、少しボーっとしていた。ここは……銃器店か。早速入ってみよう」













 「――おお、お嬢ちゃんいらっしゃい……っておおおおお!?」


 ジンがアームズに続いて店に入った途端、店主であろう老人に驚かれた。理由は分からないが話が長引くのは避けたいので、ジンはすぐさま本題を告げる。


 「こ、こんにちは……早速ですが、散弾銃の弾を探しています。12ゲージの鹿撃ち(バックショット)単発(スラッグ)弾……緋色合金製のものを」


 「あ、ああ……分かった、ちょっと待っててな、お兄ちゃん」


 店主はそう言って店の奥に姿を消した。アームズに聞きたいことがある、と店主の顔に書いてあったが、先に本題を告げたのは正解だった。


 「ここの店主さんとは仲がいいの?」


 「……別に。弾の補充にいつも使ってるだけ」


 そんな会話をアームズと挟みつつ、ジンは店内を見渡した。古い建物のようだが意外にもセキュリティは考えられており、銃を飾ったショーケースにはキチンと施錠してある。流石はエリア1、エリア3の店とは大違いだ。


 (やっぱりネイスミス製の銃は無い、か。Vウェポンはまだしも、俺の散弾銃みたいな武器も流通してないのか?)


 店内を見る限りバーミリオン社製の銃しかない。現在武器の類を製造している企業は他に無いので、当たり前と言ってしまえばそれまでだが。またジンがかつて整備した対物(アンチマテリアル)ライフルのような大災厄前の骨董品も見当たらない。


 「ほい、お兄ちゃんお待たせ。いや~それにしてもまさかお嬢ちゃんがお友達を連れて来るなんて、変わった事もあるもんだ」


 店主が両手に一杯のパッケージを抱えて戻って来た。ジンは店主の言葉を苦笑しながらスルーし、弾丸の吟味を始める。


 「……友達……」


 アームズは小声でそう呟いたが、ジンや店主には聞こえていなかった。


 「へぇ……かなり揃っていますね。スラッグはともかく、ダブルオーやトリプルオーもあるとは」


 ジンは思ったより充実した弾のラインナップに感心した。ダブルオーやトリプルオーというのは通常の散弾と比較して散らばる弾の粒が大きい、鹿撃ち(バックショット)と言われる弾丸だ。スラッグ弾よりも威力は劣るが、攻撃範囲やバリエーションの観点から補充したいと思っていた。


 「対喰らう者(イーター)用の弾丸だからね、散弾がこれより小さくなると通用しない。むしろこのくらいのサイズが一番出回ってるよ」


 「なるほど……参考までに値段はどんなものでしょうか? とりあえずスラッグ弾の単価を出して下さい」


 「ああ……お嬢ちゃんの友達だからな、こんなとこかな」


 店主は電卓を打ち込み単価を提示してきた。常連らしいアームズと一緒に来たからか、定価より安く売ってくれるようだ。これは有り難いと思ったジンだったが、その数字を見た瞬間凍り付いた。











 「毎度ー! お嬢ちゃんも、またおいで」


 ジンはアームズと共に店主の声を背に向けて銃器店を後にした。店主の嬉しそうな声色とは対照に、ジンの表情は暗い。


 「ま、まさかあんなに値が張るとは……ちょっと予想外だったな……」


 緋色合金製の弾丸。それは超の付く高級品だったのだ。店主に話を聞くと、どうやら需要と供給のバランスがまるで成り立っていないから、との事。価格にして通常弾の10倍は軽く上回っていた。

 元技術者であるジンも、緋色合金製の弾丸の価格相場は理解していなかった。どちらかといえば銃器本体や刃物などの近接武器の整備が仕事の主流であり、また金銭面のやり取りもほとんどがシンシア、或いは工房の代表であるガンツ本人がやっていたのも大きい。


 (はあ……まだまだ1人前には程遠かったんだな……)


 想定外の出費に加え技術者としての未熟を思わぬ方向から痛感し、ジンは大いに気を落としていた。何故対喰らう者(イーター)用の武器に近接武器が多いのか、分かった気がする。


 「……緋色合金製じゃない弾を偽って売りつけてくる店も多い。あの店は店主はうるさいけど、信用はできるし値段も足元を見てくる訳じゃない。だから損は……してないと思う」


 その無表情から単に事実を述べているだけに見えるが、ジンはアームズが彼女なりに励ましてくれたのだと感じた。でなければこちらの損得など心配しない。


 「はは……ありがとう、アームズ。ま、この出費は痛いけど仕方が無いな」


 再び2人は並んで街を歩いた。

 次の目的は、携行可能な小型通信機だ。


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