No name-3
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死体の損傷が激しく、本人の特定が難しい場合に所持していると役立つもの。それがバーテクス正規軍、ハウンドに所属する者が必ず支給される金属製のドッグタグである。
ハウンドの場合は数字持ち、代理人に関わらず支給されている、言わば身分証明書であり、それぞれ刻印されている内容に差がある。
数字持ちのドッグタグに刻印されているものは主に3つ。
ハウンドの所属であることを証明する文章。
所有者の名前。
そして保有しているランク。
彼女のタグには1つ空白があったが、それでも必要な情報はそこに存在している。刻印されているたった1つの数字が名無しの正体を語っていた。
アームドアーマーをその身に纏い自在に空を駆けるトップランカー、ランク3・アームズ。
ジンの考えていた人物像とは真逆の人物こそが、アームズの素顔だった。
「そうか……君が……」
想像とは違ったとはいえ、タグに刻印されているランクは3。間違いなく彼女はアームズだ。燻っていた彼女への疑問が解けていき、ジンはつい声を漏らしてしまった。
「……?」
ネームレスはそんなジンを不思議に思ったのか、一度食べるのをやめてジンを見つめた。
「あ……ごめん邪魔しちゃったね。でもそれ、そのタグで君のことが少し分かったよ」
「……!」
ジンは彼女が気付いてないであろう首から下がっているタグを指して言った。すると彼女は慌ててタグを隠したが、もう遅い。何故身分を隠していたのかが分からないので、改めて聞いてみることにした。
「……ランク3、アームズ。薄々そうかなとは思っていたけど、まさか女性だとは思わなかったよ。でもどうして『名無し』なんて……」
「……と思ったから」
「え?」
「私がランク3だって知られたら、嫌われてしまうと思ったから。あの時あなたは色々話しかけてくれたけど、私はそれに応えなかった……だから、嫌われてると思った。
でも空輸機から落ちそうになった時、生まれて初めて後悔した。本当は、私はあなたと話してみたかったんだって気付いた」
アームズはうつむいたまま声を震わせ、吐き出すように心情を語った。
「私にとっては初めてできた繋がりだったから、なんとか繋ぎ止めておきたかったけど……やり方が分からなくて……」
(そうか……だから別れ際に答えてくれたのか。俺のした無意味な質問が、彼女にとっては初めての人とのコミュニケーションだったんだ)
コミュニケーションの取り方が分からず、それに悩んでうつむいているアームズの姿は子供のように小さく見えた。機械的な応答しかしてこなかったアームズが、ここまで自分の気持ちを語るとは思わなかった。声は徐々に小さくなっていき、大変な勇気を振り絞って話してくれているのが伝わってくる。
だったら、その気持ちに応えない訳にはいかない。
「――ならちょうど良かった、俺も君と話がしたかったんだ」
「え……」
アームズはジンの言葉を予想していなかったのか、驚いたように顔を上げた。無表情は相変わらずだったが、白い肌は僅かに紅潮していた。
「まずは勇気を出して会いに来てくれてありがとう、アームズ。これからは同じハウンドの仲間……まぁ大分ランクの差は大きいけど、それでも俺を仲間と認めてくれるなら……どうか仲良くしてやってくれ」
ジンは真っ直ぐにアームズの目を見ながら握手をしようと手を差し出したが、握手は返ってこない。その手の意味が分からず困惑しているようだ。
ジンは微笑みながら、少しだけ強引にアームズの手を取った。あの時は握り潰してしまうほどに力を込めていたが、今度は違う。機械では無い体温のある彼女の手を優しく握って、少しの時間が流れ……
同じくらいの優しい握手と微笑みを、彼女は返してくれた。




