Came back-2
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「そうか……『スティール』か……」
マクスが難しい顔をして呟いた。
ジンとサラは共に一旦第2層のハウンド本部へ戻り、マクスに今回の詳細な報告を行った。
……と言っても実際にはサラがほとんど全ての報告をしていて、ジンはそれを横で聞いているだけだったが。
エリア5の前線基地での出来事は、サラが監視映像の一部を携帯端末に保存しており、それを見せながらどういった顛末だったのかを話していく。
(そういえば、客観的に自分の戦いを見るのは初めてだな……)
ジンは監視映像をマクスと共に眺めながら、焔を纏った自らの姿を追う。
巨大な怪物となったロゼと対峙し、その猛攻を凌ぎながらも最後は吹き飛ばされてしまう。
あの一撃を食らって良く生きてたな、と思った。右手に構えるブレードの新調、自らの焔に耐えうる業物を用意することが出来なければ、この先戦っていくには厳しいと改めて痛感した。
「なるほど……最後は救援に来たアームズが止めを刺したわけか」
「はい……恐ろしく強力な喰らう者でした。あれでもカテゴリーはBに分類されるんですよね?」
一通りの映像に目を通し終え、サラはマクスに尋ねる。
「ああ……あそこまでの変異は珍しいが、前例が無い訳ではない。どうやら喰らう者にはカテゴリーAになれない個体もいるようだ」
「カテゴリーAになれない個体……ですか?」
マクスの言葉にジンが疑問を投げる。
サラも同じ疑問を抱いているのか、マクスの話を食い入るように聞いていた。
「長い年月を戦い、人を喰らい続けてきたとしても、人化が一定で止まってしまう個体が存在するんだ。前例にあたる個体の亡骸をランク2が回収することで判明したんだが……人間の年齢に換算しておよそ80歳を超えていたらしい」
「80歳!?」
「通常カテゴリーBからAになるまでの期間は1年もかからない。もちろん個体差はあるし、食事量なども関わっては来るが、そこまでの大差は無いんだ。だからこの現象に関しては、正直研究者たちも頭を抱えているのが現状だね」
ジンはますます分からなくなってしまった。喰らう者の生態には不明な部分が多い、と言ってしまうのは簡単だが、それでは困る。
カガリを執拗に狙い、ジンに焔を宿す原因となったあの個体のことを、ゆくゆくは解明しなければならない。そう思っていたからだ。
しかし実際喰らう者の進化の性質は、専門の研究者が頭を抱え込むような不可解さ。ジンに出来ることは何も無かった。
「――まあでも、この個体を討滅出来たのは立派な功績だ。おまけに敵対勢力『スティール』の存在が決定的になったのも大きい。初任務なのに、2人共良くやったよ」
マクスは不意に立ち上がって、ジンとサラの頭をワシャワシャと撫でる。
「ちょっ……マクスさん、子供じゃないんですから……!」
サラは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、マクスの腕を振り解く。
「ははは……それは申し訳ない、ついね。ジン君も嫌だったかい?」
マクスは笑いながら手を離し、ジンにそう尋ねた。しかしジンは無表情のまま固まっていた。
「……」
「ジン君?」
「え……ああ! いえその……別に嫌って訳じゃないですよ」
ジンは何か考え事をしていたかのようにマクスの言葉を聞き逃していた。
我に返り、慌てて返答する。
(……いけない、つい先輩の事を思い出してしまった)
ガンツの方が何倍も力は強かったが、その撫で方にはよく似たものを感じた。
しかしこんな時に思い出すのは暖かい記憶だけではなく、封じ込めてしまいたいものまでせり上がってきてしまう。
――分かってる、今は戦い続けるだけさ。
「――あった、ここだ」
エリア1・第3層の住宅街の中、ジンはメモに書かれた住所の部屋を見つけ立ち止まった。
マクスがジンの生活拠点になるであろう部屋を用意してくれていたのだ。
サラは報告書の作成に追われ、未だ本部に居残っているようだが……書類作成、それもハウンド内だけでなくバーテクス正規軍にも見せることのある書類となれば、当然ジンに手伝えることは無い。
少し申し訳なくも思ったが、こればかりは仕方が無い。数字持ちが命を賭けて戦うのと同じように、代理人にとってはそういった仕事こそが戦場なのだ。
(サラさん、すいません……先に休ませてもらいます)
ジンは内心でサラに謝罪しつつ、預かったカードキーを通して部屋の中に入った。
部屋の中は当然ながら真っ暗で、照明のスイッチを手探りで操作し明かりを灯す。
するとまだ誰の手も入っていない、新しく清潔な室内が照らされた。
(当たり前だけど……前に比べると綺麗な部屋だな、流石に。それに色々と揃ってる)
室内には素朴なテーブルやイス、ベッドにソファーなどの家具が一通り揃っており、飾り気は無いが暮らしていく上で不自由は無さそうに思える。
……というより真新しいキッチンや給湯器のあるシャワー室も備えられており、スラム出身のジンにとってはこの上ない贅沢な家だった。
(後でシャワーは浴びてみるとして……)
ひとまずジンは、ソファーに腰を下ろして一休みをする。
思えば全てを失った日から、初めて1人になって一休みした気がする。
――ジンは思いついたようにドッグタグを取り出し、刻印された文字を読み上げる。
「ハウンド所属……ランク23か……ランクは今回の任務で早速上がるかも、ってマクスさんは言ってたけど」
特に意味を持たない、気の抜けた独白。
思い返せば随分と濃い初任務だった……初めて他人と共に行動し、初めて人間が戦っている『敵』を見た気がする。
戦った敵は手強い個体ばかりで、特に巨大な変異体を持っていたロゼ、カテゴリーAのレイヴンと対峙した時は内心で強い恐怖を覚えた。
(ロゼにもレイヴンにも今の実力じゃ勝てなかった。特にロゼ相手には、俺の焔は相性が良かったのにも関わらず、結局刀也と拳二の足を引っ張って……)
ジンは散弾銃を手に取り、『ネイスミス』の刻印を見つめる。
「――明日にでもマクスさんに相談してみよう。俺の実力自体もまだまだ磨かなくちゃいけないけど……拳二さんの言う通り、『まともな武器』は絶対に必要だ」
ジンはシャワーを浴び終え、睡眠のためベッドに横たわったが、あることに気付く。
(そういえば夕飯がまだだけど……店に食べに行こうにも食材を買い込んで作るにしても、お金持ってないんだよな。報酬って明日貰えるのかな……)
仕方無く夕飯は諦め、そのまま眠ることを決めた。
(ご飯と言えばアームズさ……アームズ、また顔を合わせる機会もあるだろうし、その内誘ってみようかな? 素顔はどんな人なのか、気になるし)
そんな他愛のないことを考えていたのも束の間、疲れ果てていたジンは瞬く間に眠りに就いた。
サラ「うう……終わらない……終わらないよぉ……」
マクス「じゃあサラ君、僕はそろそろ帰るから、明日の朝までには書類まとめといてね☆」
サラ「うっ……了解です、総司令どの……」




