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Dog fight-7

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 「ぐっ……おお……!」


 アームズの黒い鎧に赤い血が伝っていく。

 ジンが半身を乗り出しながら必死に伸ばしたのは、レイヴンの羽根に貫かれた左腕だった。

 痛みはあれど、感覚が少しでも残っている方が確実に掴むことが出来ると思っての選択だったが、間違ってはいなかったようだ。

 血で滑らないように、握り潰す勢いで掴んでアームズの腕を離さない。力を込めれば込めるほどに血が噴き出る。

 

 「うおおおおお!!」


 左腕の出血と痛みをものともしない、圧倒的な膂力。

 ジンはありったけの力を込めてアームズを引き上げることに成功し、全身を機内に引きずり込んだ所で叫んだ。


 「ハッチ閉めろ!!」


 『了解!』


 パイロットの応答と共にハッチがゆっくりと閉じていき、機内に吹き込んでいた気流が落ち着いていく。

 ハッチが完全に閉じきった時、機内は静寂を取り戻した。ジンの荒い呼吸だけがその場に残る。


 「ハァ……ハァ……何とか……なったか……」


 ジンはその場に座り込んで乱れた呼吸を整える。

 緊張の場面を何とか切り抜けたせいか、力を使い果たしたように疲弊していることを自覚し、焔は消え失せ瞳の色も戻っている。


 「ジン君……!!」


 気流が落ち着き動けるようになったサラが、心配そうな声を上げて駆け寄ってくる。


 「他に手が無かったのは分かります……けど、無茶をし過ぎですよ……! あのまま一緒に落ちてしまうかもしれなかったんですよ!?」


 サラの言っていることはもっともだし、心配をしてくれるのはとても嬉しい。

 しかし、ジンは後悔はしていなかった。例えあのまま道連れのように落ちてしまったとしても。


 「アームズさんは限界ギリギリまで戦ってくれたんです……見捨てることなんて、俺には……」


 とはいえサラの言葉に反論したい訳でもなかったので、ジンの言葉は自信無さげな小声になっていた。

 しかしその時、2人の会話に割り込むように機械音声が響いた。


 「『アームドアーマー』、制限モードで再起動」


 鎧の名前はアームドアーマーというらしい。

 アームズ自身の声よりも更に無機的な音声……どうやら自動のシステム音声のようだ。

 

 赤い光を再び灯し、アームズはゆっくりと上体を起こした。


 「……あなたの、名前は?」

 

 「……え……?」


 アームズは真っ直ぐジンに頭部を向けながら言った。

 全く予想してなかった一言に、ジンの頭の中は一瞬真っ白になってしまった。

 これにはサラやミシェルも同様に驚愕し、図らずも場は完全に沈黙していた。


 ジンはすぐに我に返り、慌てて答えた。


 「あ、ああ……俺の名前はジンっていいます。その、どうしていきなり……」


 「ジン……」

 

 相変わらずの機械音声だったが、今までとは違う人間らしい言葉。

 ジンの名前をアームズは確かめるように呟いた後、再びシステム音声が響く。


 「――システム、スタンバイモードに移行」


 それを最後に赤い光は消灯し、アームズは動かなくなった。呼びかけても返答が無い。

 

 「なんだったんだ……?」


 「ジン君の名前を聞いた……やっぱり機械じゃないのかな?」


 ジンとサラは予想外過ぎて困惑するのみだったが、なにはともあれ危機は去った。

 とりあえずアームズの事は動かなくなってしまった以上、置いておくしかない。ミシェルのベッドの近くに腰を下ろし息をつく。


 『皆さんのおかげで落とされずに済みました。エリア1に到着するまで気は抜けませんが、レーダーもあります。何かあればすぐに知らせますから、少し休んでください』


 パイロットから感謝と労いの言葉が贈られる。

 

 (まあ……あの傷では流石に追いかけては来ないだろう。それよりも……)


 「――あのレイヴンという喰らう者(イーター)、組織の事を『スティール』と言っていましたね」


 ジンの思考を読み取ったかのようにサラが言った。

 

 「……ええ、しかもレイヴンはどうも俺の事を知っているような口ぶりでした」


 「恐らくスティールなる組織を通じてレイザーとアリゲイターに繋がっているのでしょう。ですがジン君、それより傷の治療を……」


 「ああ……大丈夫です。ほら、もう血は止まっているでしょう?」


 ジンは左腕と右足の傷口をサラに見せた。

 確かにジンの言う通り傷の出血は抑えられており、塞がってきているのが分かる。


 「相変わらず凄い治癒力ですね……これも喰らう者(イーター)の……いえ、べノムの力ですか」


 「はい。なので心配はいらな――」


 ここでサラがジンの言葉を遮った。

 しかしその表情は優しく、気遣いに溢れるものだった。


 「でも、明らかに疲れているのは私にも分かります。今は少しだけ休んで欲しい。何かあったらすぐに起こしますから」


 サラの言う通り、確かにジンは自らの消耗を自覚していた。

 アームズを引き上げた瞬間、焔を使い果たしたような感覚がある。


 (……ここで敵の組織について考えた所で、多分答えは出ない。気遣いを無下にするのも悪いか)


 ジンはそう考え、サラの言葉に甘えることにする。

 

 『スティール』という敵対勢力、カテゴリーAの新たなる敵。そしてアームズのことも。

 行きとは違い、色々なことが起こり過ぎた空の旅だった。そんな事を考えながら睡魔に襲われ、意識はどんどん遠くなっていく。

 べノムの力で肉体の傷は治せても、精神的な疲労は治せない。どうやら相当に疲労が溜まっていたようだ。


 こうしてジンは座ったまま眠りに就いた。

 うつむきながらも穏やかな寝息を立てている。


 「……相当疲れていたみたいね。ベッドを譲ってあげたいくらいだけど……」


 ベッドに横たわるミシェルが、横目にジンを見ながら言った。

 左足を失っている上にその傷はまだ応急処置の段階を出ない。ベッドを譲るのは難しい話であった。

 しかしサラはその言葉に反応することなく、立ち上がって機内の隅へ移動する。


 「サラ……どうかしたの?」


 足取りはフラフラとしており、ミシェルにはとても正常な状態とは思えなかった。


 「どうしたの!? サラ、様子が……」


 ミシェルは少しだけ声を張り、サラに呼びかける。

 するとサラは振り返り、真っ青な顔で口元を押さえていた。


 「ごめん……なさい……私、乗り物に弱くて……うう……」


 「……まさかジン君に眠るように勧めたのは……」


 ミシェルはいかにも心配して損した、という苦笑の表情を浮かべた。












 「――まさか成体のお前がしくじるとはな、レイヴン」


 暗い洞窟の中、ささやかな焚火の明かりに照らされ1人の大男が言った。


 「いやぁ……飛べる奴がいるとは予想外でね。君の言ってた彼も中々で、翼に穴を空けられちゃったよ」


 細身で長身、フォーマルな服装に黒いハットが特徴的な若い男が大男の問いに答える。

 彼は人間体の姿をしたレイヴンであった。


 「フ……そいつに拘ってるのは俺ではないがな……なぁ、レイザー」


 大男はそう言って後ろを向いて問いかけた。

 後ろにはグチャグチャと肉を潰すような音を立て、蠢く何者かがいた。


 (僕が空に出る前はボロボロだったのに……なるほど、確かに優秀な素質がありそうだ)


 大男の言葉を聴いた途端に音は止まり、代わりに声が返ってくる。随分と殺気立った声色だ。

 まだ傷痕が残る小柄な青年、それは人間体のレイザーだった。

 回復のためにどうやら()()をしていたらしい。


 「……案外カテゴリーAってのも大したことないんだな。得意な空の上で負けるなんて」


 「ふふ……確かにそれはそうだ。悪いね、期待に応えられなかった」


 レイヴンはその言葉とは裏腹に、まったく反省するような素振りは見せない。

 ニヤニヤと薄い笑いを浮かべて肩を竦める。


 「まあいいさ……あいつだけはこのボクが殺さないと……これはロゼの復讐でもある。もちろんついて来るよな、アリゲイター」


 「ああ……俺はお前についていく理由がある。約束だからな」


 大男はアリゲイターの人間体。

 2人は基地から逃げ出した後、人類の占領圏外で食事を繰り返し体の回復を行っていた。


 「特定の奴を恨むのはいいが……君たちもスティールの一員だ、身勝手な行動は慎めよ?」


 「分かってるさ、レイヴン。だがあいつが出て来た時は、必ずボクらを当ててもらうぞ」


 「進言はするさ。だがそれも『メサイア』の方々次第だ、君も分かっているだろう」


 「……フン」


 レイザーは再び食事を始め、会話を打ち切った。

 アリゲイターはそんなレイザーの振る舞いをレイヴンに謝罪する。


 「すまんなレイヴン、大目に見てやってくれ」


 「いやいや、若者は生意気なくらいがちょうどいい。それにあなたがスティールの()()()()()を理解し、監督してあげれば何の心配も要らないよ」


 「ああ……分かっているさ。全ては大いなる『母』のために。だろう?」


 「うん、上出来だ。全ては大いなる『母』のために――」


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