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Dog fight-6

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!


 ――気流に抗うことなく、アームズは落ちていく。

 完全なエネルギー切れか、或いは何らかの故障によるものか。

 ジンにその判断は出来なかったが、突然の出来事に目を見開いた。

 アームズの足が空輸機から離れるその瞬間、世界が止まったように感じた。

 思考だけがジンの頭を駆け巡る。


 見た目からして分かる。あの黒い鎧がいかに重いものであるかが。

 べノムによって強化した身体能力でも、支えられるかは自信は無かった。

 ましてやアームズは人間ではなく、機械かもしれないのだ。今から手を尽くしても助けられるかは分からないし、負傷もしている。

 これは仕方の無い事だ。

 カテゴリーAの個体を撃退したんだ、俺は良くやったさ。


 『――私に構わず攻撃を』


 レイヴンを押さえつけ、ジンに言った自己犠牲的な言葉。

 人か機械か……そんなことで迷ってしまった己を恥じる。


 (何を迷ってるんだ……人かどうか分からないなんて……

 他人から見れば、俺だって同じじゃないか!!)


 噴出する赤黒い焔と共に、ジンは走りだした。

 右手には散弾銃。コレを即座に手放しながら走る。

 空輸機のハッチ出口までの到達時間は、まばたきほどの僅かな一瞬。


 大丈夫、右手を伸ばせば間に合う――

 

 しかし右腕にある違和感を感じた。

 レイヴンの羽根によって負傷しているのは左腕の筈なのに、強い痺れが右腕に残っている。


 (そうか、あの程度の強化じゃ足りなかったのか……くそっ!!)


 散弾銃に装填されていたのは、ロゼの分身体を倒した時に使った単発(スラッグ)弾。

 反動が非常に強く、あの時は力を使わずに撃ったため肩を脱臼した。

 どうやら単発弾を撃つときは、力を全開にして焔を纏う必要があるらしい……今のように。


 ならば取れる手段は1つ。

 ジンは迷わずに突き進み、手を伸ばした。





 「残エ……ギー5%以下に…少。過剰……体負荷はリミッ……により制限されて……す」


 ノイズが混じり、全文を聞き取ることの出来ないシステム音声が頭に響く。

 どうやらリミッターが発動し、強制的にシステムがダウンしたらしい。

 原因はべノムの消耗した状態で、敵を直接押さえつけたことによる機体への過負荷だろう。


 「制限…ードで3分…に再起……『アームドアーマー』、シス……ムダウ……」


 ――良くやった方ではないだろうか。

 私はそもそも失敗作。

 緋色合金なるもの、それを素材とした兵器が人類の戦う手段として確立した以上、私には存在価値など無かった。


 だが私はまだ存在していた。

 皮肉にも緋色合金製の兵器製造の大元であるバーミリオン社から提供される、様々な兵器を実戦でテストし、同時に戦果を挙げていく、使い捨ての猟犬(ようへい)となることで。


 己の存在理由、目的、ささやかな感情すらも見失い、ひたすらに戦い続ける毎日。

 いつの間にかランク3なんて地位に登っていたけど、私はそんな数字に生きる意味を見出すことは出来なかった。


 しかし、提供された兵器の中でも特別気に入ったものがあった。

 名を『アームドアーマー』。堅牢な装甲で体全てを覆い隠し、備えられた飛行能力と多種多様な兵器を以って喰らう者(イーター)を撃滅する特殊な兵器だ。

 人の域を超越した力と微塵も生物を感じさせない外見。私はそれに己を閉ざした。


 そんな私を人間扱いする者などおらず、ハウンドに入ってからもずっと孤独に戦ってきた。

 ランク3は実は機械……なんて噂も立てられてるみたい。


 そんな噂は気にしなかったし、その通りかもしれないとさえ思った。


 ――時代遅れの『失敗作』、それが私だ。

 生きる意味も目的も、感情すら持たない私は、もはや人間ではない。

 精神面でも、()()()でも。


 なら私の居場所は戦場にしか無い。

 ランク3という心底どうでもいい数字だけが、私の持っている唯一のものなのだから。


 ……と言ってもそれもここまで。

 この高度からの自由落下には打つ手が無い。

 エネルギーが残っていれば話は別だが、残量は5%を下回っている。再起動したところで3分間の落下の勢いは殺せない。


 

 ふとここで思い出したことがあった。

 ランク23の人のしてきた……好きな食べ物は? って質問。


 今までそんな質問してきた人はいなかったし、そもそも話しかけてくる人がほとんどいなかった。

 アームズの驚異的な速度のランク昇格に対する嫉妬から来る、敵意にすら近い感情を孕んだ嫌味や暴言を浴びせられることはよくある。しかしそれらの言葉たちとは違い、ただの純粋な会話をあの人は求めていた気がする。


 (……少し惜しかったかもしれない。もしかしたら、私も人間らしく話が出来たかもしれない機会だったのに)


 ここでアームズは疑問に思った。

 今の自分が考えていること、思っていることは後悔という感情そのもの。

 生きる目的も、自発的な意志も持たない私が、何故……?

 プライドを持たず、機械的に正確な判断が出来るアームズにとって、その答えは簡単だった。

 

 (ああ、そうか――私は……

 私はあの人と、話がしてみたかったんだ)


 カメラは既に機能をしておらず、アームズの視界は完全に閉ざされている。

 遥か下方へ落下を始める。もう体は機体から投げ出されているようだ。


 ――ガクンと落下が止まった。

 アーマー越しでは感覚は曖昧だったが、何となく分かった。

 誰かが腕を掴んで、私の落下を食い止めていた――


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