Dog fight-5
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ジンは急いで散弾銃を拾い、右手で構えレイヴンを狙う。
しかしレイヴンの抵抗は激しく、今にもアームズを振り解いてしまいそうだ。
「くっ……狙いが……!!」
ジンはブレる対象にスラッグ弾を撃ち込むことを躊躇い、銃を構えたまま硬直した。
――このまま射撃したとして、果たしてレイヴンに上手く当てられるだろうか?
仮に外したとしたら、後ろのアームズに当たってしまったとしたら。
いや、迷っている暇は無い……アームズは既に武器を全て手放しており、もうこれ以上の戦闘続行は不可能。かといって他にレイヴンに対抗できる手段は無く、その高い飛行能力の前にはジンの攻撃手段では対抗できないだろう。
(くそっ! うまく当たってくれ……!!)
気流の轟音をも掻き消す重い射撃音。
ジンの迷いは大きかったが、頭の回転の早さもあって決断までの時間はほんの一瞬に過ぎなかった。
しかし覚悟を決めて放った弾丸はレイヴンに届くことは無かった。
レイヴンは翼を丸めて盾に使い、銃撃を防いだのだ。
「く……その程度ではっ!」
レイザー以上に硬質化しているのか、弾丸は貫通していない。
しかし見た目からも分かるほどに翼にダメージを与えており、血を滲ませ着弾部分の羽根が剥がれ落ちている。
――ジンは、それを見逃さなかった。
銃撃を防いだレイヴンは即座に翼を広げ、反撃を狙う。
「先に君から死んでもらうよ!」
レイヴンがアームズの拘束を振り解くよりも先に優先したのは、厄介な攻撃手段を持つジンを狙った羽根の連射攻撃。飛行していれば何の問題も無く対処出来るが、この狭い機内では距離の近さも相まってそれなりの脅威になり得る。そして足を負傷したジンは、レイヴンの攻撃は躱せない。
「ジン君、早く逃げて!!」
サラが気流に抗いながら叫ぶ。
しかしジンは回避の素振りを見せず、スピンコッキングで次弾を装填する。
(大丈夫……狙いはついた)
レイヴンが羽根を発射する前に、再び重い銃声が響いた。
「――!!」
鮮血が飛び散る。
しかし銃弾が着弾したのはレイヴンの体ではなく翼。
一度射撃を防ぎ傷ついた部分に重なった攻撃は、翼を更に深く抉りとる。
「まだだ……っ! アームズさん、そいつを離して!!」
「……!」
ジンはもう一度スピンコッキングで装填を行い、アームズに向かって叫びながら銃で狙いをつける。
アームズがレイヴンを手放した瞬間、間髪入れずに銃弾を翼に放つ。
――着弾。翼は3発の集中攻撃に耐え切れず、遂に風穴を開けた。
「グッ……やるな、これは仕方ないか……」
レイヴンは自ら落下するように空輸機から離脱し、雲に紛れて姿を消した。
「逃げた……? 何とかなったか……」
ジンはレイヴンの撤退に安堵し、ガクリと膝をついた。
左腕と右膝に刺さった羽根を強引に引き抜き、外へ投げ捨てる。
(随分とアッサリ撤退していったな……一体何の目的で……)
目的の読めない唐突な襲撃。
こちらは手傷こそ負ったものの大した被害を受けてはおらず、迅速に撤退した様子からもレイヴンはまだまだ継戦可能だったように感じた。故にジンの疑念は深まるばかり。
(いくら考えても、判断材料が少なすぎて分からないな。『スティール』……敵の組織の名前だけは、頭に刻んでおこう)
ここでジンは一旦思考を止め、アームズに礼を言った。
「――アームズさん、おかげで助かりました……流石はランク3ですね」
実際、アームズがいなければ勝負にもならなかっただろう。
全ての残弾を使い切ってもなお、致命的な隙を作ったその不屈には感心する他ない。
「……アームズさん?」
ジンは再度アームズに呼びかける。
――が、返事が無い。
姿をよく見ると、鎧の各部分に灯っていた赤い光が消えていた。
(――まさか、エネルギーが!?)
アームズは気流に揺られ、そのまま何の抵抗もせずに落下してしまった。
ジンはアームズを救うべく、散弾銃を投げ出し考えるより先に走り出していた。
装備の機能停止。
長時間の戦闘継続とレイヴンを押さえつけた時のフルパワー。それらが重なり、アームズの鎧は一時的なシステムダウンを起こしてしまったのだった。




