Beginning-4
第4部分です。良ければ覗いていってください!
――あの焔の色を知っている。
不自然なまでに紅く、真っ黒な火の粉を散らす醜悪なあの焔の色を。
爆発音と爆風が1拍遅れで港湾区画に届く。
トラックやコンテナをも横転させるその衝撃は、ジンを含むその場の人々を紙切れ同然に吹き飛ばす。ジンは幸運にも海面に落下した。急いで陸に上がり周囲の状況を確認する。
しかし、既にそこは地獄であった。
「な……なんだよこれ……」
ジンは驚愕し、目を見開く。
瞳に映っているものを疑うかの様に。
――そこにあるのは人間の死体。
ジン同様爆風に吹き飛ばされた人々の、変わり果てた姿だった。
ある人は港にあった鉄骨資材に貫かれ。
ある人はコンテナ、或いは船舶に叩き付けられ。
ある人は横転したトラックに押し潰され。
常人なら発狂してもおかしくない、地獄絵図が広がっていた。無慈悲に惨死している人々を見て、泣き叫ぶ生存者の声が、これは現実だとジンに突き付けてくる。
しかしジンは、あの悪夢を脳裏にフラッシュバックさせながらも決して膝を折らなかった。
散乱した港を見渡し、持ち物を見つける。自分のバックからブレードを取り出し、横転したバイクを起こした。エンジンが始動できるか確認する。
知人の安否――それだけしか、ジンの頭の中には無かった。
(まさか、あの喰らう者がエリア3に……? 姉さん、先輩、シンシアさん……!)
焦燥に顔を歪め、フルスロットルで工業区画へ引き返した。
ついさっき通ったばかりの、職場から港湾区画までの道のりを辿る。しかしジンの目に映るのは、人間の死体とあの醜悪な色の焔のみ。
既にここら一帯の工業区画は火の海と化していた。
(……酷い状況だ。しかしこの焔の色は……)
あの悪夢で見た、死神の姿をした喰らう者が現れたのか……?
少なくともただの爆発事故じゃない。
この赤黒い焔は夢でしか見たことが無いし、被害範囲が広大過ぎる。
ここら一帯には個人経営の、小さな工場しか存在しない。火薬、ガソリン、ガスに工業用の薬品……。爆発しそうなものには事欠かないものの、ここまでの被害を出せるほどの量があるとは思えない。
冷静に思考を巡らせる。
やはり何らかの外的要因が無いと、この状況は説明がつかない。ジンはそう結論付け、ブレードに目をやる。
(最悪戦闘になるかもしれない……経験はないけど、みんなを守る為なら……)
そして遂に1人の生存者も発見できないまま、ガンツの工場に辿り着く。
入口の扉に手をかける。ここでジンは、自分の腕が震えている事に気付く。
腕だけではない。全身が恐怖で震え、火の海の中なのに、冷たい汗をかいているように感じた。
そしてジンは、ゆっくりと扉を開く。
(――――――――っっ!!)
そこにある現実を理解できない。
いや、理解したくない。
1歩も室内に立ち入れないほどに焔は燃え盛っている。
そして焔の隙間から僅かに、しかし確実に見えてしまった。
人の形を僅かに残した、2つの塊を。
ジンは工場を飛び出す。自分が乗って来たバイクの事をも忘れ、一目散に走りだす。
(姉さんの職場は遠くない……! 姉さん、姉さん、姉さん……!!)
焦燥のあまり狂いそうになりながらジンはブレードを握り締め、姉の姿を探す。
ジンは息を切らしながら、カガリの職場に辿り着く。カガリの職場はある大手企業の自動車部門、この内の末端工場である。
末端とは言っても、ここら一帯では最も大きな建物であった。既に工場は炎上しており、ジンは急いで中に入ろうとした。
その時、ジンは奇妙な死体を見つけた。
その死体は入口のすぐそばに横たわっており、欠損が激しい。
まるで何かに食い散らかされた、そんな風にジンは思った。
(――姉さん、どうか無事でいてくれ!!)
工場内は既に焔で包まれていたが、決死の覚悟で何とか侵入していく。
「姉さん! 返事をしてくれよ!!」
必死になって叫ぶ。何度も大声をあげて工場内を走り回って、何人もの死体を吐きそうになりながらも確認する。
まだ探してない部屋のドアを開く。すると動くものが目に入った。
「姉さん!?」
しかしそれは、壁に立てかけてある姿見に映った自分の姿だった。
(クソ……鏡か)
一瞬カガリを見つけたと思ったので、ジンは大きく落胆した。
――が、鏡は自分の背後に立つ、怪物の姿を映している事に気付いた。
強烈な一撃。怪物は腕を横に薙ぎ、ジンを背後から一撃で仕留めようと襲い掛かる。
「――ッ!!」
しかしジンはそれを鏡越しで目視しており、間一髪で床を転がるようにして躱す。素早く距離をとってブレードを構えた。
「こ、こいつが……喰らう者……」
余りの恐怖に震えあがる。
目の前に立っている怪物は2mはある巨体で、人に近い形をしていた。牙を剥き出している口元には大量に血が付着していた。
――何よりも、ジンが悪夢で見ていた死神姿とは大きく異なるが、同じ色の焔を纏っていた。
「くっ!?」
喰らう者がジンを襲う。
ジンは振り回される剛腕を何とか躱しつつ、反撃の機会を窺う。
そして壁際にジンは追い詰められ、退路が無くなったその時。怪物の剛腕が大きく上に振り上げられる。
「――っここだ!!」
ジンは震える足を大きく前に踏み込み、剛腕の振り下ろしよりも一瞬速く、すれ違う様に胴体を斬りつけて脇を抜ける。
鼓膜を破りそうなほど叫び。喰らう者は鮮血を撒き散らしながらジンを威嚇した。
(武器は……通用するな。何とか倒せるか……?)
ジンが希望的観測をしたその時、不意に部屋の入口から声が聞こえた。
「――ジン……?」
ジンは思わず喰らう者から目を離し、振り返る。
そこにはカガリが立っていた。
しかしジンが言葉を発するよりも早く、何者かの異様に低い声が聞こえる。
「――――ミツケタ。」
ジンがもう1度振り返る。今の言葉はあの怪物の方から聞こえた。
人間の発する声とはまるで違う、聞いたことの無い音だ。
そこにいる怪物は、血塗れの口元を歪ませていた。
ジンにはその歪み方が、笑顔のように見えた。
「オオオオオオオオオオオオオオ!!!」
さっきの威嚇とは比べ物にならない、建物を震わせるが如くの叫び。
同時に纏っていた赤黒い焔が勢いを増す。
「これは……まずい!! 姉さんこっちだ!」
ジンは即座にカガリの手を引いて走り出す。
――あれには勝てない。今すぐ逃げろ。
本能も思考も同じ決断をしている。
それにカガリを見つけた以上、この場で戦うのは得策ではない。
ジンとカガリは、一目散に工場の外に出た。