Dog fight
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「――なぁ拳二、そんなに気に食わんか、アームズが」
「あん? どうした突然」
刀也が唐突に拳二に尋ねた。
軍用車の後部座席に2人は並んで揺られており、運転は新たに合流した現地の代理人に任せている。
「まさかランクを簡単に抜かれたからという訳でもあるまい。何故そこまで毛嫌いしているのか、分からなくてな」
「……」
刀也は前々から拳二のランク3……アームズへの過剰な嫌い方を疑問に思っていたのだ。
拳二はその粗暴な口調とは裏腹に、人情の厚い男だと思っている。
同じハウンドの人間はもちろん、志を同じくするバーテクス正規軍の兵士らに対しても強い仲間意識を持って接する男だ。
前線基地に潜入する時、まともな戦闘を出来ないサラの安全を考慮し、撤退を唱えて口論になったことからも、その人情の厚さは窺い知ることができる。
しかし、そんな拳二が同じ数字持ちである筈のアームズに対してだけは、何故か高圧的なのだ。それが刀也には解せない。
「まぁそうだな……確かにランクを一瞬で抜かれたことには驚いたが、別に腹は立てちゃいねぇ。むしろ随分頼りになる奴が現れたと喜んだくらいだ。つーかお前もランクは抜かれてんだろ、お前こそどうなんだ」
「俺もお前と同じように思ったが……しかしそれでは尚更解せんな。そう思っていながら何故……?」
「単純に気に食わねぇだけだ、あいつが自分のことをまるで話さないことに。最新兵器のテストだか何だか知らねぇが、同じハウンドに所属し喰らう者と戦っていく以上、俺たちは仲間だ。時には背中合わせに戦い、命を預け合うことだってあるだろうさ。
――でも俺たちはあいつの顔も、名前も、本当の声も知らない。いくら戦果を挙げてランクが高かろうが、そんな奴に俺の背中は預けられねぇ……そんだけだ」
語られたのは、言わば拳二の仲間に対するポリシーのようなものだった。
共に戦う仲間であるということ……それは直接的な戦闘に限った実力の話ではない。
拳二が仲間に求めるものは、実力だけでなく感情も含まれていたのだ。
「仲間ってのは、お前と同じ目標に向かって走っていく奴らのことだ。その仲間に隠し事なんかしてるようじゃ、勝てる勝負も勝てない。……ま、このセリフは兄貴の受け売りだけどな。あいつに全部を曝け出せって思ってる訳じゃない。ただもう少しだけ、仲間には『感情』を見せて欲しいだけだ」
「……なるほどな」
刀也はふと最初にジンと話したことを思い出す。感情こそが人間だと。
確かに理想は重要だ。その点機械のようにただ黙々と任務をこなしていくアームズは、人類にとって理想的で、扱いやすく便利な戦士なのだろう。
しかし戦いというものは、対峙する両者の力量が拮抗している場合、必ず最後は感情の勝負になる。
復讐心でもなんでもいい。強い想いこそが肉体の限界を超え、人を奮い立たせる。
『生物としての力が喰らう者に及ばない以上、ただ戦うだけでは決して勝てない。
積み上げてきた技術と知恵、そして想いこそが人の未来を照らす』
幼少期の刀也に師が贈ってくれた言葉。今でも鮮明に覚えている。
刀也がかつてジンに放った言葉は、拳二同様他人の受け売りだった。
(……あまり拳二を咎められたものではないな。俺も尊敬する師の教えを信じてここまで戦ったきたんだ)
「……なんだよ、聞いておいてだんまりか?」
拳二の言葉に刀也はハッと我に返る。
気付かない内に随分考え込んでいたらしい。
「いや、その考えは正しい。しかし先人の言葉というものは、いつも俺たちを導いてくれるものだ」
「確かにまぁ、自慢の兄貴だったぜ。だからこそ、俺は兄貴の思いを胸に戦い続ける」
決して揺らぐことの無い、決意の言葉。
拳二の過去は刀也も詳しくは知らなかったが、喰らう者との戦いに対する信念、そして源泉を垣間見た気がした。
先人の言い残した信念の詰まった言葉。
喰らう者との長きに渡る戦いの中、数えきれないほどの戦死者は出ている。
刀也も拳二も、きっと他にもたくさんの人が様々な言葉を受け取って戦っている。
受け取った者はその言葉によって価値観に多大な影響を受ける。行動原理の一種にも。
それを戦いに飛び立つための翼と捉えるか。
或いは呪いに例えるべきか。
「そうだったんですか……そんな経緯でバーテクス正規軍に」
「通信技師は貴重らしくて……最前線に配属されたのも、入隊してすぐだったわ」
上空を進む空輸機の中ではサラとミシェルの会話が弾んでいた。
年の近い2人はすぐに仲良くなり、気付けばミシェルはサラに対しての言葉遣いを崩していた。
ミシェルは元々バーミリオン社の社員だったようで、通信機器の開発などを手掛けていたらしい。
しかしバーテクス正規軍は常に人材不足な上、特にエリア5の通信範囲の拡大は軍だけでなく人類全体の急務。
高水準な知識と技術力を持つバーミリオン社の社員は、どうやら頻繁に徴兵される動きがあるらしく、中でも通信関連の部署に勤めるミシェルは、若さもあってその動きに真っ先に巻き込まれてしまったようだ。
年齢は22歳……小柄だったがサラよりも年上であった。
そんな2人が仲良く話している一方、ジンは何とも言えない緊張に包まれていた。といってもその緊張はジンが勝手に感じているものだったが。
ジンの座っている対面には、ランク3・アームズが立っていた。
駆動中に光っていた頭部……恐らくはカメラやセンサーの類だろうそれは作動していないらしく、消灯している。外見は完全に人型を摸した機械、加えて全く微動だにしないので、とても人間には見えないし、思うことも出来なかった。
「……アームズさん……? でいいのかな? 今話すことは出来ますか?」
緊張を振り切ってジンはアームズに話しかけた。
まるで微動だにしないので、駆動していないのだろうか。或いはアームズが人間だった場合、睡眠状態にあるのか。
しかしアームズの返答は意外にも迅速だった。頭部の装甲の隙間に赤い光が灯る。
位置的には人間に置き換えると丁度目のあたりなので、カメラになるのだろうか。
一切の無駄が無い言葉。鳴り響くのはやはり機械音声。
「――待機状態から一部機能を解除。ランク23、用件は」




