Bye now
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ジンは強い痛みを感じながら目を覚ました。
見知らぬ天井。前線基地で気を失ってから、どうやら別の場所に移動しているようだ。
拳二と戦った時と同じで、戦いの最中に気を失ってしまった己の無力を、体の痛みで文字通り痛感する。
「痛って……ここは……」
上体を起こし、辺りを見渡す。
ジンのいる部屋の内装は、とても軍施設とは思えないものだった。
かつてカガリと住んでいたエリア3の家と、遜色の無い崩れかけの壁面、無論床面も同じく。恐らくは大災厄以前の廃墟を使った住居。
錆色の独特な砂が床には見受けられることから、まだエリア5にいるらしい。
外から雑音が聞こえるので、どこかの街中にいるのだろうか。
「良かった、目を覚ましたんですね……」
不意に聞こえた女性の声。
すぐ隣から聞こえたその声に、ジンは内心少しだけ驚きつつも、微かに聞き覚えがあると思った。
「あなたは……」
声の主、それは基地で無事保護した生存者の女性のものだった。
――いや、無事に保護をすることは出来なかった。
ベッドに横たわったままの彼女は、太腿の中間から下を失った左足を釣り上げられ、傷には適切な応急処置がなされていた。巻かれている包帯には僅かに血が滲んでいる。
「そういえば……あなたには名乗っていなかったよね。私の名前はミシェル・マローン。あの時は助けに来てくれてありがとうございます」
「俺の名前はジンといいます。……その、足の件はすいませんでした。俺にもっと力があれば……」
「……どうか謝らないで。あなたが満身創痍でも立ち塞がってくれたから、左足だけで済んだんです。あなたのせいだなんてこれっぽっちも思っていませんよ」
「ですが……」
ジンは罪悪感からミシェルの許しを素直に受け取ることが出来ない。
自分があと数秒早く駆け付けていれば、彼女は左足を失わずに済んだかもしれない。
「――ジン、それは違う。お前は最善を尽くしたんだ。感謝こそされど、恨まれる理由は無い筈だ。そうだろう?」
「刀也……」
ミシェルとの会話が耳に入ったのか、そう言いながら部屋に刀也が入って来る。
「……ええ、恨みなんてある筈が無いです。本当に感謝しています、ジン君」
ミシェルも刀也の言葉に続いて念を押すように言った。
「でも……」
ミシェルはバーテクス正規軍の軍人であり、喰らう者と戦う覚悟はジンたち同様の強さで持っていることだろう。基地潜入前にも同じことをサラに思い、一方的に守るだの助けるだのといった感情は、覚悟を持つ者に対して無礼であると分かった。
形は違えど、彼女もまた肩を並べて共に命を賭ける仲間なのだと。それはミシェルにも言える事だった。
――それでも、ジンの罪悪感は消えない。
頭では理解している。しかし事実として、足を失った彼女はこの先、辛い生き方を強いられることになるだろう。
それを思うと……とてもやりきれない。同情をしない方が難しい。他でもない自分があと少し早ければ助けられていたかもしれないのに――
ジンは後悔と罪の念を言葉に表すことが出来ず、拳を強く握り下を向く。
その様子を見ていた刀也は、ジンの肩に手を置いて穏やかに言った。
「……お前だけのせいじゃない。俺も拳二も敵を倒すことは出来なかった故に、その責の一端を担っているだろう。しかしそれでも自分自身を許せないと思うのなら……
――強くなれ。
今度こそは助けて見せると、意気がり続けろ」
その後サラと拳二も部屋に来て、改めて5人は今後のことを話し合うことにした。
「そうだな……俺はあの時逃げた連中を追うために、エリア5に残るぜ。少し気になることを言ってたからな」
真っ先に行動を決めたのは拳二だった。
刀也も拳二に続き、同意するように言った。
「俺も拳二に同行しよう。確かレイザーとアリゲイターだったか……その2体を逃がしながらロゼは言っていた。『組織まで戻れ』とな。敵対勢力と繋がっているのは決定的だろう。上手くいけば尻尾を掴めるかもしれん」
「敵対勢力? 刀也、それは一体……?」
ジンはその言葉に聞き覚えが無かったので、すぐに刀也に聞いた。
「詳しいことは何も分かっていないのだが……少し前から喰らう者共の動きが知的になってきていてな。今までは喰うか殺されるかの本能的な連中だったのが、戦力差を察知して戦術的撤退をしたり、集団で行動したり、それこそ今回のように仲間を逃がすために立ち塞がったりな。奴らは何らかの組織で動いているとハウンドは仮定していた訳だ」
「なるほど、それで今回のロゼの発言……『明確な敵』の存在が裏付けられたってことか」
「その通りだ。アリゲイターの方はともかく、レイザーはかなりの手傷を負っている。追跡には絶好の機会だろう」
ここでサラが口を開いた。
「なら、私も2人に同行します。きっと追跡ならお役に……」
「――いや、悪りぃが嬢ちゃんはジンとミシェルちゃんを連れて、一度エリア1に戻ってくれ」
拳二がサラの言葉を遮り、提案……というより命令をする。
「え……で、でも私は特に怪我をしている訳でもないですよ?」
「なに、簡単な話さ。怪我してるジンとミシェルちゃんだけじゃ、エリア1まで心細いだろ? それに記録映像やら報告書やらをマクスさんに届けるのは、客観的に戦況を把握してた嬢ちゃんが適任だぜ」
「むう……確かに。了解しました。それにしても拳二さんって、ホントに考えていないようで実はよく考えてますね」
サラがうっかり口を滑らせてしまう。
拳二が笑顔のまま指をバキバキ鳴らす。
「……俺の嫌いなクソ生意気後輩が1人増えた、って認識でいいんだな?」
「あわわわ……じょ、冗談ですよ! 冗談!」
まるで漫才のようなやり取りに、ミシェルが笑みをこぼす。
「でも拳二さん、俺は2~3日あれば動けるようになりますから、ここに残って後からでも2人追い付きたいんですけど……」
ジンは自分の治癒能力を理解していたので、拳二に希望を伝える。
エリア5の最前線と呼ばれる由縁……それはこれから2人が追跡の過程で踏み出すであろう、軍の手が及んでいない占領圏外へ。
その最前線で戦うことこそ、ジンが生きている理由であったのだ。
しかし拳二はあっさりとそれを拒否する。
「ダメだ、お前もエリア1に一度戻れ。理由は簡単……銃は良いとして、剣の方もまともな武器を用意しろ」
「あ……」
ジンはふと自らの負傷の理由を思い出す。
敵の攻撃では無く、自らの焔によってブレードは壊れた。
確かに武装の強化は必須だ。ジンの戦闘スタイルにとって、右手のブレードは防御の要でもある。
「よし……各自方針は定まったな。早速――」
ここで拳二が固まった。
刀也もサラもミシェルも、そしてジンも。
何故なら唐突に部屋の扉が開き、ロゼを踏み潰したあの者。
黒い鎧を纏った者が入ってきたからだ。




