Destroy-2
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ジンは兵士の死体の衣服からベルトを抜き取り、ミシェルの左足の止血帯として使用した後、彼女を抱えて飛来してきた鎧を追った。
既に歩くことも難しい状態だったが、彼女を救いたい気持ちとあの飛来してきたものは一体何なのかという気持ちが合わさり、必死の思いで歩き出す。その際左足の切断面を下側に向けないよう気を配る。
刀也と拳二が交戦している広場に辿り着くと、そこには圧倒的な火力で難無くロゼを蹂躙していく鎧の姿が見えた。
「あの黒いのは……一体……」
わずか数秒であったが、ジンは目を奪われてしまった。
肩部分に外付けで装着されている小型のミサイルポッドから、恐らく装弾分全てのミサイルを吐き出し、巨大なロゼの体を爆炎で包む。
ロゼの体はいとも容易く焼け崩れていき、中から人型のものを落とす。
ジンの視力はそれが何であるかを正確に捉えた。あれはきっと、ロゼの本体だ。
変異体のレイザーもああやって一部分は人間体の名残が残っていた。
恐らくは奴らの核とも言える本体そのものは、どんな変異であれ必ず存在するのだろう。
真紅の薔薇が花弁を散らし、力無く横たわるロゼに降り積もっていく。
まるで真っ赤な雨が降っているようにも見える幻想的な光景の中、幻想を破壊するかの如き無骨な鎧がゆっくりと降下していく。
――が、その無骨な鎧は無慈悲にも爆発的に加速、その速度を維持したままロゼの体を着地と同時に踏み潰した。
敵を倒した。もう脅威は無い。
そう思った途端、強い立ち眩みがジンの頭を襲う。
ジンの体力は既に限界を超えており、徐々に意識が遠のいていく。
彼女をこのまま落とす訳にはいかない……ミシェルの体を優しく地面に降ろし、意識の途切れる前にもう一度鎧に目を向けた。
人間か、それとも機械なのか……それは分からなかったが、感じたことがあった。
花の舞う幻想的な光景にはあまりにも似合わないその姿。
それは容赦無く敵を踏み潰し、漆黒は赤の血に塗れている。
黒と赤、嫌いな焔に良く似ている色彩にも関わらず。
とても、美しい――と。
「――対象の沈黙を確認」
無機質な機械音声が場に響く。
潰されたロゼはもはや原型を留めておらず、着地時の衝撃の強さを物語っていた。
否、或いは刀也の読み通り限界を迎えていて、何の防御も出来なかったのか。
「……増援か。まぁ助かったぜ、機械野郎」
拳二がバルバロスの解放状態を解除しながら、どことなく不機嫌そうに言った。
しかし鎧はまるで意に介さず、淡々と応答する。
機械音声も相まって感情があるかさえ分からないほどだった。
「重傷者がいると報告を受けている。この場は後続のバーテクス正規軍に任せ、私たちは速やかに支部へ帰投する」
「重傷者って……ジンか?」
刀也はサラが何らかの方法で増援を呼んだのだろうと考え、端末を取り出した。
こいつが重傷者の存在を把握しているのであれば、増援要請の際に報告する他無い。
サラとジンは既に合流していると踏み、刀也が現在位置確認のために通信しようとしたその時。
兵舎の方角からサラの声が聞こえた。
「ジン君! ミシェルさんも、しっかり……!!」
そこにいたのは横たわるジンと、同じく横たわっている見知らぬ女性。そして慌てた様子で2人に声をかけているサラの姿だった。
見知らぬ女性は恐らくサラが保護したというこの基地の生存者だろう。
しかし、保護した筈の彼女が何故倒れている……?
不審に思った刀也は3人に駆け寄った。
「アールミラー、何故生存者が倒れて……」
――思わず刀也は息を呑んだ。
ジンは腹部から血を流し、気を失っていた。
生存者の彼女は……無残にも左足を引き千切られていた。
「これは流石にヤバいな……おい機械野郎、移動手段はあんだろうな!?」
拳二も刀也に続いて駆け寄り、2人の状態を目にし声を荒げる。
「私は指示で先行しただけ。正規軍も空輸艇で後から追いついて来る筈」
「ならば話は早い。すぐに空輸艇で運ぶぞ」
数分と経たない内に、バーテクス正規軍が到着する。
複数の空輸艇で来た正規軍は、ぞろぞろと基地内へ入っていく。
正規軍に基地のことは任せ、ハウンド一行と保護した生存者、そして鎧を纏った者も一緒に急ぎ空輸艇を1機出してもらって移動することになった。
行きと同じタイプの空輸艇で、エリア1に帰還することも可能だったが……重傷者がいる以上、長時間の移動は不可能だった。
一行の行先はここからそう遠くない、同じエリア5内にある場所。
『要塞都市』と言われる正規軍の拠点を中心とした、占領圏内唯一の街だった。
ミシェルは移動中、一瞬だけではあったが意識を取り戻した。
霞んだ視界に映ったのは、隣に横たわり穏やかな呼吸をして眠るジンの姿。
感じられるのは、揺れと聞き覚えのあるエンジン音。
どうやら空輸艇で移動している最中らしい。
首は回らず、声も出せず……。
再び遠のく意識の中、窓から差し込む暖かな朝の光を眺めることしか出来なかった。
(そうか、ちゃんとやれたんだ……私……)
自分とジンが生きて、空輸艇に運ばれているということ。
それはミシェルが通信を復旧することに成功し、ハウンドの人達を助けられたという何よりの証だった。
仲間を失い、自らも左足を失い……。
それでもミシェルは、今だけは確かな安心を覚え、再び意識は沈んでいった。
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