Destroy
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刀也と拳二は互いに背中を預けながら、熾烈な戦いを繰り広げ、突破口を模索していた。
ロゼの生み出す分身体は優れた耐久性と攻撃性を併せ持っており、生半可な相手では無い。
しかし、2人がそう思っていたのは短い間だけだった。
「なるほど、確かにお前の言う通り、こいつらは分身……所詮は紛い物か」
「だろ? どうにもこいつらには迫力が無いと思ったんだ」
刀也と拳二はそんなやり取りを交わしながら、次々に分身体を撃破していく。
最初とは見違えるほどに手際良く分身体を倒していくその様は、まるで作業のようにも見える。
「こいつらには思考力が無い。だからいくら俺たちと打ち合おうが、学習することが無ぇんだ。となりゃ当然、俺たちがこいつらの攻撃に慣れちまえば……」
拳二がそう言いながら更にもう1体を倒しきる。
バルバロスの強力な打撃を瞬時に数発繰り出し、同じ個所に集中させることで分身体を破壊したのだ。
打撃に対して敵の植物的な体は相性が良く、衝撃を吸収されて中々倒しきることが出来なかったが……打撃の使い手はランク5、相性の悪さは実力を以って跳ね除けるような規格外の実力者だ。
敵の体が打撃に対して強いと言っても、当然耐久限界は存在する。
ならば打撃を当てる場所を極端に偏らせ、耐久限界を超えるだけの衝撃を以って破壊するのみ。
拳二にとってそれは難しい事では無かった。敵の動きに目が慣れた今となっては。
「相手は常に同じ個体が故に、いずれ俺たちが圧倒するのは道理……か」
刀也もほぼ同時に1体を斬り捨てる。
拳二のように数発を瞬時に叩き込むのではなく、こちらは研ぎ澄まされた一閃による一刀両断。
敵の体を構成しているツタの斬り方を感覚で掴む……刀也は自らの技の冴えの向上を実感していた。
そうやって分身体を倒している内に、いつしかその場に立っているのは刀也と拳二、そしてロゼの巨大な本体だけとなっていた。
「どうした喰らう者、人形劇はもう終わりか? と言ってもその人形にはもう慣れた、もう何の役にも立たないだろうがな」
刀也がロゼに言い放った。
挑発に近いその言葉には、確かな狙いがあった。
ここで相手が激昂、或いは苛立ちを見せるようであれば、敵の底は知れている。追い込まれたという何よりの証だ。
しかし、そうでない場合は――
「ふふ……そう急かさないで頂戴。あなた達にも赤瞳の彼と同じように、接吻をあげるわ」
ロゼはそう言って本体の巨大なツタを展開し、躍動させる。
(まるで動じない、か。あのロゼとかいう女、ポーカーフェイスなら大したものだ)
喰らう者固有の異能力は、べノムの力を以って行使されるものだが、当然それは無限ではない。
べノムとは喰らう者の血液に含まれる特殊な物質の事で、それを消費するということは即ち体力や生命力を消耗することに等しい。
分身体の構築や巨大な本体の維持にも当然べノムは消費されている筈……しかしロゼの物言いはそんな消耗など微塵も感じさせない、余裕さえ垣間見えるものだった。
(果たしてその物言いが偽りか真実か……それが判断できない以上、こちらは慎重に攻めざるを得ない)
実際の所、ロゼの本体を叩くには刀也と拳二の戦闘スタイルは相性が悪い。
2人の戦闘スタイルはどちらも対人戦闘、それも近距離戦に特化されているからだ。
基本的にはカテゴリーB程度の個体相手なら、サイズ差があったところで大した脅威にはならないほどの実力を持っているが、ここまで巨大な相手だと話は変わってくる。
「まだまだ余裕たっぷりってか……クソ、そう時間はかけられねえぞ……!」
拳二はそれを感覚的に理解しており、それ故に苛立っていた。
長期戦を避けたい理由は、あれだけの距離を吹き飛ばされた上に、まだこの場に戻って来ていないジンの安否にあった。
「拳二、とにかく今はやるしかない。油断すれば死ぬのは俺たちだ」
「分かってる! 俺が突っ込むから、お前は――――」
拳二の声が止まった。
正確には爆音に掻き消され、刀也の耳に入らなかった。
数発か数十発か――2人が数えることの出来ないほど唐突に、多数のミサイルがロゼを襲った。
「――なっ!!?」
ロゼは突然の爆撃に驚愕することしか出来なかった。
ぶつけられたのは高弾速を誇るミサイル……恐らく10発以上連続で撃ち込まれた。
ミサイルまでいくともはや銃器や剣といったものの攻撃力とは次元が違い、巨大なツタはいとも簡単に、そして無残に抉り取られていく。
2人を攻撃するためにツタを展開した直後だったため、ミサイルの爆発を防御することが出来なかった。
(いや……どの道この火力相手では、結果は変わっていなかったかしら……)
焼け焦げたツタの中から、人間のシルエットをした何かが落下した。
落下したのは巨大なツタの塊に隠された、核とでも言うべき存在……ロゼの真の本体そのものだった。
両手足の末端は植物のツタに変化しており、そこから繋がることであの巨体を制御していたようだ。
「う……くぅ……」
地面に落下し、悶え苦しむロゼの姿。
燃え残っている巨大なツタの塊は崩壊を始め、所々に咲いていた薔薇の花弁が散っていく。
ああ、私にも赤い血が流れていたのか。仰向けに倒れているロゼは、頭上に舞い散る花弁を血と錯覚し、ぼんやりとそんなことを思った。
既に力を使い果たし、ツタの体を再構築することも自らの体を動かすことも出来ない。
それを理解したロゼは全てを諦め、脱力してただ空を見上げた。
日の出が近いのか、空は少しづつ明るくなっていく。
(そうね……増援のことは……まるで頭から抜けていたわ……。
ただまぁ……私にしては、頑張った方かしら。最後まで成体になれなかった私にしては)
頭上に漆黒の鎧を纏った、機械にも見える者が舞い降りてくる。
真紅の薔薇と共にゆっくりと降りてくるそれは、まるで死神のような、天使のような……。
(――私はここまで。レイザー、アリゲイター、頑張ってね)
鎧を纏った者は爆発的な加速を以って、そのままロゼの体を踏み潰す。
迸るロゼの鮮血は、薔薇の花弁と同じ色をしていた。




