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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-4 Deadly Rose
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Deadly rose-6

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 ミシェルを守るように立ち塞がったのは、赤黒い焔を纏った1人の青年。

 ついさっきまで重傷を負い戦闘不能になっていた、ジンという数字持ち(ランカー)だった。


 「やらせない……っ!!」


 無数に生えている鋭利な棘に臆すること無く、ジンは右の拳を叩き付ける。

 焔を伴った強力な拳打はロゼの分身体を吹き飛ばし、兵舎の外壁に激突させた。


 ――しかし、分身体は何事も無かったように立ち上がる。

 反対にガクリと膝を付いたのはジンの方だった。


 その瞬間身に纏った焔は消え失せ、左瞳の赤色が引いていく。

 腹部の出血はまるで治まっておらず、足元には血溜まりが広がっていた。


 情報室内でサラと共に戦況を監視しつつ、ミシェルの動向も見守っていたジンは、ロゼの分身体が映像に映った瞬間に走り出していた。

 本来であれば動くことなど出来ない体。

 ジンには驚異的な治癒力が備わっているが、負傷してからものの数分間しか経過していない上に負傷自体もかなりのものだった。

 棘による腹部の傷だけでなく、肋骨の骨折もしていたのだ。


 早い話がジンは、動かぬ体を引きずって無理矢理ミシェルに追い付いただけだった。


 (くそ……焔どころかべノムによる身体能力の強化すら維持できない……!)


 ジンは体の痛みに耐えながらも必死に戦う術を模索していた。

 どうにも力が入らずガクガクと足を震わせながら、ゆっくりと立ち上がる。

 右瞳はまるで点滅するかのように赤色を失っていく。


 不意にジンはミシェルの方に視線を向けた。

 彼女だけでも逃がすことは出来ないか?そう考えたからだった。


 (――――な……!?)


 ジンは瞬時に彼女をこの場から逃がすことは出来ないと理解した。

 少し遅過ぎたのだと、心の底から自らの力不足を呪った。


 何故なら……既に彼女は、左足を失っていたからだ。


 それでも彼女は、必死になって体を引きずり何かに向かっていた。

 彼女が手に持っている何かのケーブル、そしてその先にある何かのユニット。

 技術者でもあるジンには、すぐにそれが送電線と電波制御のユニットであると理解することが出来た。


 大粒の涙を流し左足を失いながらも、必死に進むミシェルの姿。

 まだ彼女は諦めていない。自分に出来ることを遂行しようと足掻いている。


 なら今の自分に出来ることは……?

 まともに動くことも、焔を出すことも出来ない自分に出来ることは。


 (そんなの、決まってる)


 ジンは左手に持っている散弾銃にゆっくりと、しかし正確に弾を込めていく。

 ミシェルと分身体のちょうど中間……その位置から一歩も動くこと無く。


 分身体はゆっくりとジンに近付き、その手のツタを刺突するように突き出した。

 しかしジンは回避行動を一切取らなかった。

 腹部の傷を狙った正確な攻撃は、ジンの腹部を簡単に貫く。

 

 「――っがぁああ!!!」


 胸の次は腹も貫かれたか、などと少し考えながら、散弾銃の装填作業を進める。

 この場を決して譲らず、彼女の作業が終わるまでこの身自らを盾とすること……それこそが、今のジンに出来る最善の一手だった。






 (あの人……が……守ってくれている……間に……)


 ミシェルは出血多量で意識を朦朧とさせながらも、必死にユニットに向かっていた。

 左足は痛みを通り越して感覚が薄れてきており、大粒の涙と情けない嗚咽は止めることが出来ない。


 ――それでも、まだ私は生きている。

 生きていて、少しでも体が動くのなら諦めたりしない。


 あんな重傷を負ってもなお、命を張って盾になってくれている人がいる。

 今も巨大な敵を前にして、諦めずに戦い続けている人たちがいる。

 通信の復旧を信じて、待ってくれている人がいる。


 「諦めない……! 私だけ諦めることなんて……絶対に出来ないから……!!」


 右膝を立てて何とか体を起こし、倒れ込むように送電線を前へ突き出す。

 奇跡的にも送電線はしっかりとユニットに接続された。






 「――! 通信が戻った!!」


 サラは情報室の端末を素早く操作しハウンドにSOS通信を送ろうと試みる。

 しかしサラが通信を送るよりも早く、端末は逆に緊急通信を受信した。


 『繋がった……!? こちらハウンド・エリア5支部! 応答出来る者はいないか!?』


 聞こえてきたのは聞き覚えの無い、年若い女性の声だった。

 サラはすぐさま応答し、焦燥に駆られながら救難の要請をする。


 「こちらハウンド所属、代理人(エージェント)のサラ・アールミラーです! 現在はランク5、11、23の3名と生存者1名が基地内で交戦中! 重傷者もいます! 一刻も早く救援を!!」


 サラは必要最低限の情報を伝え、救援を要請する。

 詳しい状況説明を本来ならしなくてはならないが、ハウンド・エリア5支部と相手が名乗った以上、この基地の奪還作戦は把握しているだろうと判断した。

 それに加えてこちらには重傷者がいる。

 左足を引き千切られてしまったミシェルは、すぐに処置しないと出血性ショックを起こして確実に死に至る。

 監視映像を同時に送りつけながら必死になって助けを求める。

 

 『――戦況は分かった。敵のことも。本来君たちが合流した段階で連絡が入る手筈になっていたから、既に増援を向かわせていてね。運が良かった、既に増援は集落跡の合流地点に到着しているから、すぐにそちらに向かわせよう。


 ――安心してくれ、()の到着まで時間はそうかからない』






 「――食らえっ……!!」


 至近距離での分身体への散弾銃の発射。

 しかし装填されていたのは散弾ではなく、より大きな威力を持った単発(スラッグ)弾。

 当然ながらこの弾丸も緋色合金で作られており、喰らう者(イーター)に対して有効なものだった。


 しかし、その威力はジンの予測を遥かに上回る凄まじいものだった。

 重い射撃音と共に発射された弾丸は、分身体の大部分を欠損させるほどの大穴を穿ち、一撃の下に破壊する。

 分身体はピクリとも動くこと無く、地面へ沈んだ。

 そしてその射撃反動も凄まじく、ジンは苦悶の声を上げた。

 

 「ぐっ……あ……!?」


 左肩に激痛が走り、腕が上がらなくなった。


 (肩が反動で脱臼してる……そうか、今はべノムの力を使ってなかったから)


 ジンは左肩を押さえながら、ミシェルの下へ何とか歩き、向かっていく。

 ユニットに送電線を接続することに成功して安堵したのか、ミシェルはその場に倒れ気を失っていた。

 しかし呼吸は荒く、顔色が優れない。出血多量によるショック症状が出始めていた。


 (とにかく、止血を……)


 ジンはすぐさま辺りを見渡し、止血に使用できる縄のようなものを探す。


 しかしその時、ジンの耳が特徴的な音を捉えた。


 「……なんだこの音は……? 航空機か……?」


 聞こえたのは航空機が飛行するようなジェット音。徐々にその音は大きくなっていく。

 ジンはその音を発生させている小さなものに気付いた。


 「あれは……!?」


 夜空においてもハッキリ視認できるほどの推進装置の噴射光(アフターバーナー)

 直線的で鋭く、攻撃的な意匠の黒き鎧。

 亜音速で飛来したそれは小さく、黒色が夜空に溶け込んで細かい所までは視認が困難であったが……。


 人の形を、しているように見えた。


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