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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-4 Deadly Rose
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Deadly rose-4

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 司令部の外壁を突き破り、ようやく止まったジンの体。

 奇しくも吹き飛ばされた先はサラたちのいる情報室の近くだった。


 「ジン君!!」


 情報室から飛び出したサラが血相を変えてジンに駆け寄った。


 棘に貫かれた腹部から大量の血を流し、それでも立ち上がろうとしているジンの姿。

 サラに続いて情報室から出てきたミシェルは、ジンの姿を見て思わず立ち眩む。


 「く……そ……」


 ロゼの強力な一撃を受けてなお、ジンは強い戦意を滾らせ、折れたブレードと散弾銃は手放していなかった。

 しかし意識自体は混濁し、立ち上がることが出来ない。

 身に纏っていた焔は消え失せ、両瞳も元の色に戻っていた。






 (そんな……この人が負けてしまったら……)


 ミシェルは監視映像でサラと共に戦いを見守っていたので、戦況を把握していた。

 敵はとても巨大かつ極めて高い防御力を有し、ランク5の拳二や11の刀也の攻撃を以ってしても苦戦を強いられる正に怪物。

 敵に有効な攻撃手段を持っているのは、ランク23ながら特殊な焔を扱えるこの人だけ。


 ――そしてこの人が倒れた今、敵を打倒する手段が無いということ。


 (このままじゃ全滅……基地のみんなと同じように……嫌、嫌!! まだ死にたくない……)


 ミシェルの思考はパニックを起こす。

 ハウンドといえば人類の誇る最精鋭と言っても過言でない、正規軍とは比較にならないほどの優秀な組織。

 その組織に属する人間が助けに来てくれた時点で、ミシェルは安堵していたのだ。

 しかも数字持ち(ランカー)が3人。サラの話によると内1人はランク5とトップクラスの実力者で、ランク11と23の人たちもかなりの腕利きだと。

 実際途中までは圧倒的に有利な戦況が続いていた。もう勝利を確信していたほどに。

 しかし状況は一転、早い話がハウンドは敗北寸前に追い込まれていた。


 (もうだめっ……!! 私たちはここで死んでしまう……!)


 全てを諦め、心が死への恐怖に覆い尽くされそうになったその時。



 不意にミシェルの視界にサラの姿が映る。

 倒れてるジンに必死で声をかけ続け、その目には微塵も諦めの色が見えない。

 次に外壁の大穴から外で戦い続ける2人に視線を移す。

 2人は多数の分身体に囲まれ、逆転の一手だったジンを失っても戦う事を放棄していない。


 (誰もまだ諦めていない……生き残る為に必死で戦い続けてる……)


 視線を戻すとそこにはサラの肩を借りながら、ガクガクと震える足で立ち上がるジンの姿があった。

 当然ながら腹部の傷は深く、それ以外にも頭など至る所に傷がありボタボタと血を流していた。


 「すいませんサラさん……でもまだ戦えます……下まで連れて行ってくれませんか……?」


 「な、なにを言ってるんですか! 1人では立ち上がることも出来なかったのに!!」


 「……それでも……このままじゃ全滅です……」


 「それは……でも、こんな状態では……!」


 深手を負ってなお戦う意思を見せるジンに、サラがそれを強く制止する。

 無理もない、ミシェルの目から見てもサラの言う通りジンは明らかに戦闘不能だった。


 (あの人でさえ、まだ諦めてはいない……私は……私に出来ることは……)


 しかしジンの不屈はミシェルの心を動かした。

 恐怖心に支配されていた思考が、雪解けのように徐々に戻っていく。


 (私に出来ること……この状況を生き残る為に私が……私だけが、出来ること……)


 周りをもう一度見渡す。


 フラフラと今にも倒れてしまいそうなジンに、肩を貸してそれを支えるサラ。

 外壁の穴から見えるのは、破壊され荒れ果てた基地の惨状。

 外で今も戦い続ける2人。

 しかしミシェルの目は確かに捉えた。破壊されていないものもある。


 ミシェルは唐突に駆け出し、情報室に戻って監視映像を切り替えながらとある設備の映像を確認する。


 「……やっぱり!! 基地の電気は生きている。なら、もしかしたら……!!」


 ミシェルは再び駆け出してジンとサラの前に立つ。

 あまり大声を上げるのは得意ではなかったが、戦闘音でかき消されないように精一杯声を張り上げる。


 「あのっ! 2人共情報室で待っててくれませんか!? 私に案があります――」





 ――ミシェルの案、それは基地の通信機能の回復と、それによって増援を呼ぶことだった。

 サラに任されたのは情報室にて待機し、通信機能が回復し次第近辺にいる正規軍でもハウンドでもとにかく増援を呼ぶことだった。

 動くことの出来ないジンは待機。

 というか待機するより他に無く、持ち前の治癒力で回復に努めるしかなかった。


 そしてミシェルは基地内に設置されている電波塔に向かい、設備を復旧する。

 兵舎の裏手には中継の電波塔が建設されており、監視映像で見た限りでは塔自体に損害は無かったのだ。

 本来なら情報室の端末から遠距離の通信が可能なのだが、現在通信は何らかの障害で生きていない。


 賛否の議論する暇を与えず、簡潔な説明だけしてミシェルは駆け出していた。


 (でも電波塔に損害は無かった……技術的な障害なら、きっと復旧できる……!!)


 唯一生き残った自分が通信技師であったこと。

 それはあまりにも幸運で、まだ神様に見捨てられた訳じゃないとさえ思った。


 状況は一刻を争う。

 刀也と拳二がロゼを相手にどこまで持ちこたえられるかに懸かっていたからだ。


 仮に通信が上手く復旧出来たとしても、すぐに来てくれないかもしれない。

 或いは戦ってる2人が到着までにやられてしまうかもしれない。

 或いはそもそも通信の復旧が上手くいかないかもしれない。

 

 (――だとしても、諦めたりしない。私も、あの人たちと同じように……!)


 ミシェルの見出した僅かな希望。

 息を切らしながらも全速力で走り続けた。



 





 (あら……? 確か女は黒いスーツ1人だった気がしたけれど……)


 ジンの再起を警戒し、戦いながら周囲に気を配っていたロゼが捉えたのは、司令部から兵舎の方へ走っていく小柄な女性だった。



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