Deadly rose-3
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「この焔は……!!」
ロゼは思わぬ反撃を受け、動揺した。
ジンのブレードは赤黒い焔を纏い、斬撃と同時に爆炎を発生させる。
その爆炎がツタを焼き、たった一撃で破壊していく。
通常兵器はおろか、刀也と拳二の扱うVウェポンの攻撃すらある程度は耐えうる硬度を誇る植物。
しかしジンの焔を受けた途端、植物はいとも簡単に焼かれてしまう。
「この感覚、まるで私たち喰らう者と同じ……ただの人間って訳じゃないみたいね」
「ああ……確かに俺はただの人間じゃない。この焔で焼き尽くしてやる」
2人の窮地を救ったジンは、すぐに本体に斬りかかった。
(――接近されるとまずいわね。あの力は私の力と相性が悪過ぎる……なら!)
ロゼは再び地面からツタを突き出す。
しかしジンを直接狙わずに、盾になるような配置で無数に出現させていく。
「無駄だ、俺の焔は止められない……!」
「果たして本当にそうかしら?」
ロゼは内心とは裏腹に余裕の色を含んだ声色を崩さない。
姿形は異形になれど、敵に自らの心を悟られぬように徹底する……それは極めて重要な意味を持つことをロゼは理解していた。
「――!!?」
ジンは目の前のツタに異変を感じ、立ち止まる。
巨大なツタが蠢きながらみるみると縮んでいき、幾束も重なり合って人型を作っていく。
「なんだこりゃ……分裂か!?」
「いや、本体の姿は変わっていない……分裂というより分身だな」
刀也と拳二がジンに追い付きながら言った。
人型になった細いツタの集合体。刀也の表現を借りて言えば『分身体』と言うべきだろう。
それらは3人を囲むように、何体も作られていく。
「ここまで自在に異能力を操れるなんて……!」
分身体は腕部を鞭のように叩き付けてきており、ジンは驚きの声を漏らしながらブレードで防御する。
刀也・拳二にも同様に襲い掛かってきており、2人は振り払うようにそれぞれ攻撃を繰り出す。
しかし分身体は華麗とも言える身のこなしで攻撃を躱していく。
その動きに刀也は強烈な既視感を覚えた。
「2人共気を付けろ! こいつら、ただの雑魚とは違う! 劣化しているが、あの女の人間体の時の体術を再現している!!」
「チイッ、クソったれが!!」
刀也と拳二は何とか分身体の攻撃を凌ぎつつ、的確に反撃をしていく。
しかし分身体はツタで構成されている以上、1体倒すのにも数回攻撃する必要があり、簡単に倒すことが出来ない。
ここでも再び足止めを食ってしまう。
(また囲まれたか……しかし敵が人型であれば、幾らでも対処の仕方はある……ならば)
刀也は分身体の1体を斬り捨て、ジンに叫んだ。
「ジン!! 分身体の相手は俺たちに任せて、お前は本体を叩け!!」
「刀也……でも……」
迷いを見せているジンに、拳二がバルバロスを構えながら言った。
「馬鹿野郎、こんな連中俺らだけでも大丈夫だ。それよりお前の焔ならあいつを倒せるかもしれねぇ、なら……
道は作ってやる! 突っ走れ!!!」
渾身のボディブロー。
それをまともに受けた分身体は、凄まじい勢いで多数の分身体を巻き込み、一直線に飛んでいく。
この一撃によって本体までの道が開けた。
「――了解!!」
ジンは真っ直ぐにロゼの本体に突っ込む。
刀也と拳二を信じて真っ直ぐに、ひたすらに。
(やはり突破してきたわね……でも観察は十分)
ロゼはジンが分身の包囲を突破してくるのを読んでいた。
読んでいたというよりは、あの焔の前にはツタで作った分身など意味を為さないことを理解していた。
突破口を開いたのは格闘家で、その点は予想外だったが、彼もまた実力のある数字持ちだということだ。
集落跡で見た資料には彼らのランクが記されていた。
格闘家はランク5で、剣士がランク11。
そして最も厄介な異能力を持つ赤瞳の青年がランク23。
(確かに彼の身のこなしは格闘家や剣士には劣るけれど……あの焔は私にとって天敵に近い。レイザーが倒した数字持ちは確かランク9だったわね。やれやれ、アテにならない数字だわ)
こちらに突っ込んでくるジンに対し、ロゼは本体のツタを連続で振るう。
接近させないようにツタの届くギリギリの範囲から激しい攻撃を加えていく。
ジンはそれを焔を纏うブレードで斬り払い、次々に爆砕していく。
(あの焔は厄介だけれど、うまく長期戦に持ち込めれば……可能性はある)
ロゼはありったけのべノムを放出し、破壊されたツタを補充するように新しく生やしていく。
生えたそばから使い捨てるように連続攻撃の手を緩めない。
べノムの強引な放出による過剰な異能力使用……喰らう者にとってべノムは生命力の源のようなもの。
多量にべノムを放出してしまう分身を使用したのも相まって、ロゼは文字通り命を削って連続攻撃を繰り出していた。
何故そうまでしてジンに連続攻撃を仕掛けるのか……彼女には明確な狙いがあった。
(くっ……でも異能力を使用し続けているのは向こうも同じ。それに加えて気付いているかしら?
――あなたの武器、ヒビが入っているわよ)
ロゼは雨のような連続攻撃を浴びせ続けて機を待っていた。
回避不能のタイミングで強い一撃を叩き込み、防御を誘う。
狙い通りにいけば、必ず――
(くそっ……奴のツタの生成には限界が無いのか……!?)
ジンは巨大なツタによる猛烈な連続攻撃に晒され、防戦一方になっていた。
流石に全ての攻撃をブレードのみで受けることは出来ず、爆砕と回避を織り交ぜながら少しずつロゼとの距離を詰める。
「ハァ……ハァ……あと少しだ」
ジンは息を切らしながら呟いた。
ここまで長時間焔を纏っている状態でいるのは初めてで、本人の自覚以上に疲弊していた。
不意に、自らの意思とは無関係に膝が折れ、体勢を崩した。
「!? しまった――」
「――ここよ!!」
このタイミングをロゼは逃さず、ひと際巨大なツタを繰り出す。
回避するには跳躍するしかない……足を崩したジンには回避不能の轟音を伴う横払いの一撃だ。
後に続けて攻撃することを考慮していない、渾身の単発攻撃。
(大丈夫、ブレードに焔を最大まで集中させれば弾き返せる……!)
瞬時に対抗策を判断し、ジンは絞るように焔を滾らせる。
この選択は正しい。
もし成功していれば爆炎はロゼの渾身の一撃すら爆砕し、隙を突いて確実に接近戦に持ち込めただろう。
武器の強度が、足りてさえいれば。
「――!?」
焔を纏わせたその瞬間、ブレードが折れた。
視界がスローモーションになり、様々な思考がジンの頭の中を駆け巡る。
(なんで……拳二さんの時と違って、敵の一撃を防御すらしてないのに……連戦が響いたのか? いや、レイザーの攻撃やこのツタの攻撃には拳二さんの打撃ほど威力は無かった……)
ここで1つの仮説が頭に浮かんだ。
受けた攻撃の強さ……もし敵の攻撃の強さがブレードの破損には関係無かったとしたら。
「そうか……ブレードの刀身にダメージを与えていたのは――」
巨大なツタによる一撃が、ノーガードのジンに直撃する。
ツタの至る所に生える棘の1つをロゼはこの上なく正確に衝突点に当てており、棘はジンの体を貫いていた。
大量の血を撒き散らしながら吹き飛ぶジンの体。
それは遥か後方の司令部の建物まで吹き飛ばされた。




