Deadly rose
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「な……レイザー!?」
アリゲイターは慌てて飛来するレイザーの体を受け止めた。
レイザーの体には上半身を中心に無数の弾痕と刀傷があり、出血もおびただしい。
そして何よりも意識が無く、異形の解除も中途半端な状態だった。
この状態が指し示すことはたった1つ。
レイザーは敗北したということだ。
(そんな馬鹿な……あの片目の赤い坊や1人にやられたというの?)
これには流石にロゼも動揺を隠せない。
思わず刀也と拳二の方から視線を逸らし、レイザーの状態を見ていた。
2人への警戒の薄れた明確な攻撃のチャンス……しかしその瞬間に攻撃は行われなかった。
何故なら刀也と拳二も驚愕していたからだ。
場の空気が凍り付き、誰もが動き出せない中もう1つの人影が飛来した。
独特な赤黒の色彩が入り乱れる焔を纏ったそれは、刀也と拳二の少し後ろに大きな衝撃を伴って着地した。
「何とか合流出来たな、刀也。それに拳二さんも」
「ジン……お前は……」
思わず刀也は驚嘆の声を上げてしまう。
ジンの体に纏いつく焔を目にしたのは今を含めて3回目だが、今回は見てきた中でも最も焔の勢いが強く、より強力な殺気を放っていた。
それでいて表情は無に近く、淡々としていたので何かが異質だと感じてしまった。
(俺とやった時よりも焔が濃い……なるほど、喰らう者相手だとここまでアガるって訳か)
拳二も声こそ上げなかったが、少なからず動揺していた。
それほどに今のジンの焔と殺気は凄まじく、そこに迷いはまるで感じられない。
「1体はもう戦闘不能……このまま一気に殲滅しよう」
そう言ってジンはブレードを構えた。
「そうだなぁ、3対2なら確実に狩れるだろうよ」
「……ああ、確かにそうだな。好機を逃す手は無い」
刀也と拳二も少し遅れてそれぞれ得物を構える。
敵は既に戦闘不能のレイザーと、満身創痍の状態にあるアリゲイター。
ロゼという女は変異体になっていないが、赤目の制御が出来ていないことから、他の2体と同じカテゴリーBの個体であるのは間違い無い。
であれば変異体になったとしても、ジンが合流した今となっては完全にこちら側が上回っている……3人はそう確信していた。
しかしどんな事柄にも例外は存在する。
ジンの存在そのものが人間として例外であるように、喰らう者側にもまた例外と呼べるものはあるのだ。
――否、喰らう者にとっては例外ですらないかもしれない。
何故なら喰らう者に設定されているカテゴリー、それは人間が一方的に定めている基準でしかないのだから。
ロゼは1つの決断を下し、小声でアリゲイターに言った。
「――アリゲイター、ここは私に任せて行きなさい」
「なに……? ロゼそれは……」
アリゲイターは思わず聞き返してしまう。
深く考えずとも、その言葉の真意はすぐに理解できるものだったからだ。
「もう一度言うわ。アリゲイター、レイザーを連れて『組織』まで戻りなさい。これは命令でもあり……私の願いでもあるわ」
「だが……それでは確実にロゼは」
「そうね。そうだけど……あなたがいてもこの戦力差は覆せないわ。もう邪魔にしかならないことは分かってるでしょう?」
「それは、そうだが……」
自分以上の実力者が2人に加えて、レイザーを倒した正体不明のもう1人。
死にかけで意識の無いレイザーと満身創痍のアリゲイター、そしてロゼ。
明らかな数的不利な上に、向こうの実力者に拮抗できるのはロゼしかいない。
アリゲイターはロゼの言う通り、理解していた。
もうこの状況は敗北にしか転がっていかないことを。
「だから頼んだわよ。私と違ってレイザーはきっと『成体』になれる。その時まで、あなたが支えてあげなさい」
穏やかな笑みを浮かべながらロゼは言う。
「……分かった……任せてくれ、レイザーは必ず連れて帰る」
アリゲイターは己の力不足を噛みしめるように牙を食いしばり、レイザーを抱えて背を向け駆け出した。
(それでいいわ。あなたも『成体』になれる可能性は十分にある。だから今は、逃げてもいいのよ)
自分を置き去りにする仲間の敗走。
ロゼは遠ざかる背中を羨望の眼差しで見送った。
「逃げた……!? チッ、俺が追いかける、刀也とジンは女の相手を――」
「行かせないわ、3人まとめて私と踊りましょう?」
咄嗟に走り出した拳二を足止めするように、地面から大量のツタが突き出る。
その攻撃は的確で、拳二を後退させた。
「てめえ……随分と味な真似してくれんじゃねえか」
拳二はバルバロスを構えてロゼの方に向き直る。
「落ち着け拳二、撤退ならそれで構わん。残ったこの女を殺してそれで終わりだ」
刀也が拳二に追跡の制止を促す。
この場は情報入手のためにも生存者の保護が最優先、刀也らしい冷静な判断であった。
「しかし貴様、仲間の為の足止めを買って出るとは喰らう者の癖に見上げた奴だな」
「あら、嬉しいことを言ってくれるのね。喰らう者のことは、まるで感情の無い獣のように思っていたのかしら?」
「……思っているさ。貴様らは本能のままに人間を喰らう化物……無論お前もそうだろう」
刀也はそう言って強い憎しみの念を露わにする。
「『本能』……そうね、確かにその通りかもしれないけど、何事も決め付けてはいけないものよ?」
「何を……」
「人間という生き物は本当に視点の狭い生き物よね。喰らう者のこともそうだけど、何よりこの状況も読み違えているわよ」
ロゼがそう言った瞬間、大量のツタが体から突き出した。
異形への変身……その大きさはアリゲイターをも遥かに上回り、その場を絶望に染め上げていく。
「さぁ……私のダンスを披露しましょうか?」




