Isolation
更新しました!良かったら覗いていって下さい!
「――――みーつけた」
「!! お前は……確かレイザーとかいったか……」
司令部内の通路を走るジンの目の前に姿を現したのは、レイザーと呼ばれていた小柄な男。
狂気的な笑顔を浮かべながら、真っ直ぐに歩いて来る。
「はは、アリゲイターと呼び合ってただけなのに、覚えてくれたんだ? でもごめんね、外の2人とは合流させないよ。ボクに傷を負わせたんだ、君にはしっかり償ってもらわなきゃね?」
そう言ってレイザーは自らの腹部に触れた。
服には大穴が開いており、そこから覗く腹部には傷が無い。
しかし服の穴の外側は広範囲が赤く滲んでいる。
(血の跡は服に残ってるけど、体は治癒してるみたいだな。どうやら喰らう者は急激な治癒能力をどの個体も備えてるみたいだ)
ジンはレイザーの腹部の状態を見て、治癒能力は自分だけの異能力ではないことを理解する。
右手にはブレード、左手には散弾銃、体に纏うはあの赤黒い焔。
真紅の両瞳でレイザーを睨み付け、完全な戦闘態勢に移行する。
「――俺はお前ら喰らう者に全てを奪われ、代わりにこの力を手に入れた……ならこの力と命はお前らを殺すためだけに使おう。ようやく始まるんだ、俺の復讐が」
ジンは自らの戦いへの覚悟を示すように呟いた。
纏う焔は勢いを増していき、その場に殺気が満ちていく。
――今は、これでいい。
歩むべき『道』はまだ分からないけれど、きっとその道に喰らう者は邪魔だ。
「はぁ? なーにゴチャゴチャ言ってんのさ、訳分かんないし……まぁでも、僕と殺し合ってくれるなら、なんでもいいよ」
レイザーもジンの殺気の昂りに呼応するように、自らの体を変化させる。
両腕・両足は金属質な光沢を持つ、鎌のような形態になっていく。
拳二と交戦していた前回に比べ、変化の規模が大きい。
小柄な体はみるみる大きくなっていき、骨格で造形された蟷螂のような異形の怪物に姿を変えた。
人の形をかろうじで留めているのは、上半身の胸と頭のみだった。
(カテゴリーBの喰らう者……俺の焔のような異能力ではなく、体そのものを異形に変化させて戦う傾向がある……確かにマクスさんの教えてくれた通りみたいだな)
「その瞳の色に、よく分からない焔の力……ボクに殺されるまで、せいぜい足掻いてみせろよなああああ!!!」
レイザーはその巨躯からは信じられないほど速く、ジンに向かって突進してきた。
速度を維持したまま振るわれる、巨大な鎌と化した腕。
(速いしきっとこの一撃は重い……でも!!)
ジンは動じることなく、ブレードに焔を纏わせながら思い返す。
刀也の一閃の方が鋭かったし、拳二さんのラッシュの方が早かった。
あの日からまだ数日しか経っていないのに、いくつもの戦いを乗り越えてきた。
刀也にはバッサリ斬られて、拳二さんには散々殴られて……それにあの日なんか、胸を貫かれて殺されかけた。
思い返してみれば負けてばっかりだ。
でもこの苦い経験をなんとか乗り越えて、今ここに立ってる。
ランク23、ハウンドの一員として。
臆するな、ランク23。
目の前にいるのは紛れもないお前の敵だ。
その数字を手にし、この戦いを邪魔するものはいない。
ならば、お前はいよいよ勝たなくてはならない。
敵を殺さなくてはならない。
――今が、その時だ。
飛び立て、青年よ。
「おおおおおおおお!!!」
ジンの気合の乗った叫びと共に、焔の刃が振るわれる。
レイザーの巨大な鎌にも劣らない、強力な一撃。
2つの刃の衝突と同時に、大きな爆炎が上がった。
「始まったみたいですね……」
サラは建物に響く衝撃を感じながら呟いた。
「とにかく……私たちは事が済むまで監視映像で戦況を把握しながら待機です。良かったらその間に、少し話しませんか?」
外で激しい戦闘が起こっているにも関わらず、サラは笑った。
保護した女性を悪戯に怯えさせてはいけないと判断し、柔らかい物腰で接したのだ。
その判断は功を奏し、女性は恐る恐る話し始めた。
「わ……私の名前は『ミシェル・マローン』といいます……バーテクス正規軍所属、『通信技術師』です……」
「通信士……女性では珍しいですね……っと、私はサラ。サラ・アールミラーです。ハウンド所属の代理人です」
互いに自己紹介をし、監視映像を見守りつつもサラは話を進めていく。
「ミシェルさん。状況が状況なので、単刀直入に聞きます。この基地で一体何が起きたのか、聞かせて貰えませんか?」
「も、もちろんです! でもその前に、私からも聞いていいですか……? あなたたちが救援に来てくれたのなら、脱出したこの基地の兵士達と合流した筈です……彼らは……どこに……?」
ミシェルは薄々感付いているのだろう。
弱々しく今にも消えてしまいそうな声色が、サラにそう思わせた。
「彼らは合流地点で襲撃されたようで、私たちが着いた時には、もう……」
「そう、ですか……そんな……」
ミシェルの目から涙が溢れる。
彼らの救援を信じて、ずっとここに隠れていたのだろう。
その心中は察するに余りある。さぞ孤独だっただろう。
だがしかし、サラには理由が分からなかった。
彼女を1人残して脱出した兵士たちの行動の理由が。
「でも何故、ミシェルさんはここに1人残っていたのですか……?」
ミシェルは涙を拭い、振り絞るような声で話し始めた。
「それも含めてお話しします。この基地で起きたことの全てを――」




