Encounter-4
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通常の銃器とは一線を画す、凄まじい威力。
べノムの力によって強化されているジンの腕力を以ってしても、反動を完全に抑えきることは出来ず、強い痺れが左腕に残った。
あまりに強大な威力にジンは、撃った自ら唖然としてしまっていた。
(なんて威力だ……その分反動も凄いけど、もう一段べノムの力を強めれば、何とか扱いきれそうだ)
すると拳二がジンの肩を叩き、行動を促す。
「いい射撃のタイミングだが、それすげえ威力だな……とりあえず道は開けた、とっとと行くぞ」
「は、はい」
ジンは我に返り、拳二とサラに続く。
「刀也! こっちは突破した!! とっととずらかるぞ!!」
拳二が振り向きながら叫ぶ。
未だ刀也は女性の喰らう者と互角の攻防を繰り広げており、激しい剣戟の音が鳴り響いていた。
「承知した。すぐに行く」
刀也は喰らう者と距離を取り、刀を構え直した。
(あの構えは――)
ジンはその構えに見覚えがあった。
初めて刀也と対峙した、防御のブレードごと体を斬られた時の上段の構え。
しかしその時とは違い、刀也の持つ刀は白い光を帯びていた。
「――斬ッ!!」
鋭い踏み込みによって瞬時に間合いを詰め、刀を垂直に振り下ろす。
たちまち斬撃を受けた喰らう者は大きく後方に弾かれた。
しかし、相手は無傷。
その手に持っている棘のあるツタのような得物で、刀也の一撃を防御しきったようだ。
とはいえ衝撃までは殺せなかったのか、弾かれた先で体勢を崩し膝を付いていた。
その隙に刀也は刀を鞘に納めながら後退し、拳二たち3人と合流、共に集落跡を離脱した。
「――あの、私が言うのもおかしな話ですけど……あの場で倒せたのではないでしょうか?」
サラが走りながら、拳二に尋ねた。
ジンもそれは思っていたことだった。
刀也側は見ていないが、戦況は終始こちらの優勢、特に拳二とあの2人には大きな力の差があるように見えた……しかし。
「奴らは舐めてかかって来てただけだ。本来なら嬢ちゃんを抱えながら戦える相手じゃねぇ。そうだろ刀也」
拳二は刀也に同意を求めた。
ほぼ2対1の状況を打破したのにも関わらず、決して敵を甘く見ていない。
口調こそ粗暴だが、ランク5に相応しい洗練された戦士であることが窺える。
「それには同意見だな。アールミラーを貶める訳ではないが、守りながら戦うには危険過ぎる相手だ。そちらの2人はどうやら油断していたようだが……あの女、『ロゼ』と名乗っていたが、かなりの手練れだった」
「私は戦闘においては当然、皆さんの足を引っ張ることしか出来ません……すいません、敵の力量を計れていなかったみたいです」
サラは申し訳なさそうに言った。
カテゴリーBまで成長している個体相手では、サラの戦闘力など無力に等しく、それは自分でもよく分かっていた。
「でもこれからどうするんです? あの3人組、野放しにしておく訳にはいかないですけど……基地の奪還はもう……」
今度はジンが拳二に尋ねる。
前線基地の奪還のための協力者を失った以上、作戦は既に破綻している。
ならば今からどう動くべきか……。
初任務が思わぬ展開になってしまったので、とりあえずこの中では最もランクが高く、かつ年上の拳二に判断を仰いだ。
「あそこで3人を撒けたのはでけぇ。俺たちはこのまま前線基地に向かって、占拠してる連中の戦力を偵察してから撤退する。情報を持ってた仲間がやられてる以上、このまま帰る訳にはいかねえ。全員それでいいな?」
「……」
「……」
「……なんだお前ら、豆鉄砲食らった鳩みてえな顔しやがって」
ジンとサラは思わず無言になってしまった。
そんな2人の様子を見て、刀也がニヤつきながら言った。
「クク、お前の普段の物言いからは想像出来ない、まともな判断に驚いているのだろうさ。戦闘狂とでも思われているんじゃないか?」
それを聞いて拳二は怒った。
怒ったというよりは、どこか呆れたような感じだったが。
「お前ら俺を何だと思ってやがる……戦闘力だけでランク5になったとでも思ってんのか」
「い、いやー、そんなことは思ってないですよ……あはは……」
サラは笑って誤魔化そうとしたが、表情からして大嘘だとバレバレである。
(サラさん、表情にすぐ出るからなあ……それにしても拳二さん、流石はランク5だな)
そうジンは思いながら、3人に続いて走り続けた。
単純な戦闘力だけでない、的確な判断力を併せ持った歴戦の戦士なのだと拳二への認識を改める。
「――生きてるかしら、2人共?」
ロゼが瓦礫の山に向かって話しかける。
そこはアリゲイターとレイザーが吹き飛ばされた場所で、2人は埋まっているようだ。
その呼びかけに応じて、瓦礫の山から緑色の大男が立ち上がった。
「ああ、俺は問題無い。やれやれ、流石に侮り過ぎたか」
アリゲイターは汚れを払いながら言った。
その体は再び変化し始め、徐々に人間体に戻っていく。
「ふふ、中々手強い子たちだったわね。ところでレイザーは?」
ロゼは周りを見渡した。
すると少し離れた位置から、既に人間体に戻ったレイザーがこちらに歩いて来ていた。
「レイザー、いるなら返事くらい……あら?」
ロゼとアリゲイターは少なからず驚いた。
レイザーは腹部に傷を負っているのか、血を滲ませていたからだ。
そしてその表情は、明らかな憤怒を浮かべていた。
「お前もあの格闘家にやられたのか? お前の金属変化を貫くとは、よほどの大技を食らってしまったようだな?」
レイザーの表情とは対照的に、半笑いでアリゲイターは言った。
アリゲイターはほとんど無傷に近く、それがレイザーの神経を逆撫でし、行き場の無い苛立ちを募らせていく。
「……違うよ。コレをやったのは後ろの方にいた、片目だけ赤い奴さ。ロゼ、もちろん追いかけるだろ?」
レイザーはいつもの軽い調子を一転させ、怒りの籠った声でロゼに問いかける。
「勿論、殺しに行くわ。2人共遊びは終わりよ、ここからは本気でお願いね」
「しかしロゼ、奴らの居場所は分かるのか? 逃げられてから随分時間が経っているぞ」
アリゲイターが尋ねると、ロゼはニヤリと笑いながら答えた。
「彼らは前線基地の奪還に来た援軍……しかしここで合流するはずの仲間が全滅してて、情報は手に入れられなかった。逃げた方角から考えても、次の為に基地を偵察してから帰還するはずよ。
……といっても、奪還なんて絶対に出来ないのだけれどね」
「ふ、それはそうだな。要するに、人間共の基地に戻れば良いのだな?」
「ええ、読み通りなら遭遇出来る筈よ」
「ならすぐに戻ろう……ボク、あの片目の赤い奴を殺さないと気が済まないよ……」
そうして3人は一直線に前線基地へ引き返した。
既に油断も慢心も無い……あるのはただ純粋なる殺意のみ。
(片目のあいつ……僕の手で必ず殺してやる……!)
しかしレイザーは、2人とは違いジン個人への怒りを滾らせている。
それは人化を果たし、自我を持ってから初めての感情だった。
その感情をなんと言うのかを、レイザーは知らない。
『執着』という言葉の意味を。




