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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-4 Deadly Rose
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Encounter-2

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!


 

 日の落ちた黄昏時、4人はようやく合流地点に辿り着いた。


 しかしそこには、目を覆いたくなるような惨状が広がっていた。


 「おいおい……どういうことだこりゃ」


 無数に転がっている死体を前に、拳二は驚愕を隠せない。

 ジンは死体を跨いで少し奥に進み、辺りを見渡した。


 (動いてるものや、人影は見えない……少し遅かったか……)


 サラは屈みながら、注意深く死体を調べた。


 「血液がまだ乾ききっていません。恐らく襲撃されてからそう時間は経っていないでしょう。何故か死体を捕食せず、バラバラにして放置している理由は分かりませんが……」


 とてもさっきまで酔いで顔を青くしていたとは思えない、冷静で的確な分析。

 ジンはこの時初めてサラの仕事モードの様子を目にした。


 「合流予定の数字持ち(ランカー)が居たはずだが……アールミラー、その人物のプロフィールは分かるか?」


 少し離れた位置から刀也がサラに尋ねる。

 刀也もジンと同様、別方向に少し進み周りの様子を調べていたが、収穫は得らなかった。

 サラは手に持った鞄の中からノートパソコンを取り出し、資料を呼び出す。


 「合流予定だったのはエリア5支部所属のランク9、『ゲイル・アリーナス』。占拠された前線基地の正規軍生存兵と共にここで隠れていた筈なんですが……」


 「なっ……ゲイルだと!? それはマジか、嬢ちゃん!?」


 ゲイル・アリーナスの名前に拳二がすぐさま反応する。


 「じょ、嬢ちゃん!? まぁそれは置いとくとして……はい、確かにゲイルさんって人の筈です」


 「ゲイルが居たのにやられたのか……? 嘘だろ……」


 「……その、拳二さん、もしかして……」


 「ああ……まあ、ちょっとな」


 どうやらゲイル・アリーナスは拳二の知り合いだったらしい。

 そうでなくともランクは一桁台、新人であるサラやジンはともかく同じ数字持ち(ランカー)でその名を知らぬ者などいないほどの男だった。


 「ゲイル・アリーナス……槍術の名手として名の知れた、確かな実力者の筈だが……」


 刀也はそう言って再び周りを見渡すが、それらしき者の姿は無い。

 ここに転がっている死体は全てバーテクス正規軍の兵士たちのものだった。


 「彼の死体だけ見当たらない……全員よく探せ、運良く生き延びてるかもしれん!」


 刀也が希望的観測で3人に声を掛けたその時だった。

 不意に何者かの声が、4人の間に響いた。


 

 「――ゴメンゴメン、その数字持ち(ランカー)の人の頭、僕らが食べちゃった」



 サラのすぐ後方に、小柄な若い男が立っていた。


 「え……」


 サラが振り向くよりも早く、男は蹴りを繰り出す。


 「――させるかオラァッ!!」


 サラの近くにいた拳二が凄まじい速さで男に迫り、拳を叩き付ける。

 男は蹴りを中断し、後ろに飛び退きその一撃を難なく躱した。


 「そっち行ったぞジン!!」


 「り、了解!!」


 ジンは拳二の方に向いたまま飛んで来た男を斬りつけるべく、ブレードを振るう。

 突然の奇襲に驚きつつも、既に臨戦態勢であり、ジンの右瞳は真紅に染まっていた。


 男の後退速度に完璧にタイミングを合わせ放った一振り。

 しかしジンのブレードは空を切る。

 男は自らの脚部を刃物のように変形させ、それを地面に突き立てて急減速したのだ。


 「なにっ……!?」


 ジンは思わず驚嘆の声を上げた。

 男は急減速した次の瞬間、横方向に再び加速し距離をとった。


 「惜しかったねぇ~、でも残念!」


 男は嘲笑うかのような言葉と共に、ジンを見る。

 その両目の瞳は、ジンと同じ真紅に染まっていた。


 「まだだ……!!」


 ジンは素早く散弾銃を取り出し、左手で構える。

 既に銃には緋色合金製の8㎜散弾が装填されており、男との距離は目測およそ20m。十分に有効射程内だった。


 「あー、結構やるなぁ。アリゲイター、やっぱり頼んだ!」


 男が大声を上げたその時、ジンに新手の大男が襲い掛かる。

 真上からの踏みつけ(ストンプ)による急襲。

 ジンは何とか大男の気配を感じ取り、間一髪で飛び退いて避ける。

 サラと敵の間に入り拳二と並び立つ位置(ポジション)に入るまで後方に下がり、態勢を立て直す。


 「……ほう、よく反応したな」


 土煙の上がる中で、大男がゆっくりとこちらに向き直りながら言った。

 大男が着地した地面は大きく抉れており、その踏みつけがいかに強力だったかを物語っている。


 「くっ……待ち伏せしてたのか! もしかして、こいつらが!?」


 ジンはブレードを構え直しながら言った。

 脚部を変形させた小柄な男はともかく、大男の瞳も赤く、すぐに喰らう者(イーター)だと分かった。

 後ろにいるサラも拳銃を取り出して戦闘態勢に入る。


 「ええ、間違いありません! ですがこちらは私を抜いても数的有利です。何とか――」


 サラが有利な状況を口にしたその時、刀也がサラの後ろに立ち位置を変えながら言葉を遮った。



 「――いや、そうでもないようだな。出てこい、そこに隠れているのは分かっている」


 刀也は腰に下げていた刀を抜き放ち、鋭い殺気を滾らせる。

 視線の先にある廃墟の陰から、妙齢の女性が姿を現した。


 「フフ……随分と鋭いのね」


 不敵な笑顔を浮かべながら歩いて来るその女性は、露出の多い色鮮やかなドレスを身に纏っており、とてもこの殺気に満ちた場にはそぐわない、一種の妖艶さを醸し出していた。

 しかし瞳の色は真紅――あの2人の男たち同様、彼女もまた喰らう者(イーター)であることは決定的だった。


 「ち……挟撃か、まんまとやられちまったな」


 拳二は後方の女性を警戒しつつ、周りの地形を把握する。


 (側面には横並びに建物が続いてやがるな……前後にしか逃げ場が無ぇ。となるとここは――)


 「……刀也、その女をタイマンで押さえろ。こっちの2人を突破して脱出する」


 拳二は考えを決め、すぐに指示を出した。

 その作戦に、小柄の男は侮られていると受け取ったのか、敵意の籠った声で言った。


 「へえ、随分簡単に言ってくれるじゃない。ボクたち2人相手にどこまで持ちこたえるかな?」


 「侮るなよレイザー。こいつも中々やりそうだが、後ろの奴からはなにやら不思議な力を感じる……十分気を付けろ」


 「分かってるよ、アリゲイター」


 2人の殺気が高まるのを感じ、ジンも警戒度を上げる。


 (これは……!?)


 ジンは思わず自らの目を疑った。

 レイザーと呼ばれていた小さな男は、手足の形状を刃のようにしながら戦闘態勢に入る。

 アリゲイターと呼ばれていた大男は、全身を深緑色の鱗に包み一回りほど大型化して構える。


 「どうやらカテゴリーBの連中だな。ジン、お前は嬢ちゃんを護衛しながら援護射撃をしてくれ。前衛は俺1人でいい」


 拳二の指示に、ジンは無言で頷きサラの近くに寄る。


 確かにジンも前に出てしまうと、非常に危険だ。刀也は後方を1対1で死守しており、こちら側に構っている余裕は恐らく無いだろう。

 となるとどちらか片方が突破された時点でサラは死ぬ。ならば最初からジンはサラの護衛に徹底させ、後方支援をしてもらいつつ拳二1人で対峙する2人を突破する方針なのだろう。


 拳二の作戦はとても合理的で、代理人(エージェント)の生存に重きを置いた完璧なものだった。

 ただし拳二が実質1対2を制する必要があること、その一点を除けば。


 「さあ……いくぜ」


 両手のバルバロスを衝突させて音を鳴らす。

 拳二にとってその行為は戦いを始めるゴング……模擬戦だけでなく実戦でも行う、本人的には大事な行為だった。
















 「さて、こちらも踊るとしましょうか?」


 そう言って女性は接地する脚を伝せて、可視化されたべノムを地面に流し込んだ。

 すると棘のある植物のツルが生え始め、女性はそれを一気に引き抜く。振るうのに丁度良い長さになったそれは、どうやら彼女の得物らしい。


 (身体変化はせず、異能力で武器を作る……変異体を見せる程の相手ではない、と思われているのか)


 刀也はその余裕ともとれる行為に、興奮することなく冷静に対処する。


 (まぁいい。敵の言葉は聞かず、ただ斬る――!!)


 刀也は鋭い踏み込みと共に、女性に斬りかかった。



 退路は既に無し。

 ここで死ぬか、それとも生き残ることが出来るのか。


 こんな世界では、正に一寸先は『死』あるのみであった。

 

 

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