Encounter
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「エリア5……ここに来るのは久し振りだな」
目的地に着陸し、空輸艇から最初に降りた刀也が呟いた。
ジンと拳二も刀也に続く。
「ここが、エリア5……」
ジンの目の前に広がるのは、殺風景ともいえる荒野のみ。
赤茶色の砂や岩、そして大災厄以前に建てられ、既に廃墟と化した建造物。人間の手がほとんど入っていないことは明らかだった。
「ここから更に5㎞ほど南下すると、目的地の基地があります。どうか気を付けて!」
パイロットはそう言い残し、空輸艇を発進させこの場を離脱していった。
「……本当なら今の説明、お前の仕事だぞ」
拳二が後ろに振り向きながら言った。そこには顔色の悪いサラの姿があった。
しかし真っ直ぐと歩いて来ているので、船酔いほど悪い状態ではないようだ。
「すいません……移動しながら立て直しますので……とりあえず南方向4㎞ほどの地点に、大災厄以前の集落跡があります。そこで現地の数字持ちと合流し、情報を照らし合せてから奪還作戦を開始する、という手筈になっています」
「じゃ、とっとと行くぞ。日が落ちる前には合流してぇからな」
既に日の落ちかかった夕暮れ時。これ以上時間が経てば、じき夜になってしまう。
視界の悪い状態で土地勘の無いエリア5を移動するのは得策ではない。
こうして4人は、急ぎ足で荒野を進み始めたのであった。
「――いやー、それにしてもコイツ結構強かったなあ、確か数字持ちって言ったっけ?」
小柄の年若い男が、くるくると何かを指の上で回しながら楽しそうな声で言った。
回転を止め、少し離れた場所に立っている大男にそれを投げる。
大男は投げられた物体を難なく片手でキャッチし、まじまじと見つめる。
――その物体は、人間の頭部であった。
「ああ、我ら2人相手によく粘っていた。人間の戦士もなかなかどうしてやるものだ」
「まぁ、楽しめたのはそいつ1人だけだったけどね~。他の連中は雑魚ばっかであくびが出ちゃったよ」
2人の周囲にはおびただしい量の死体。
そのいずれもが鋭利な刃物で切り裂かれたように、バラバラになって転がっていた。
大男は死体だらけになっている周りを見渡しながら言った。
「人間共の前線基地を落としたはいいが、こんな廃墟に潜んでいたとはな。手練れも混じっていたし、先手を打てて良かった」
「またまた~、手練れっていっても1人だったし。こんな連中、不意を突かれたって負けないよ。ボクより強いのになーに弱気なこと言ってんのさ、『アリゲイター』」
「ふん……」
大男の口が大きく開く。裂けた、と言った方が正しいかもしれない。
頬の方まで口は続いており、中には人間のものとは形状の異なる鋭利な牙が並んでいる。
先程キャッチした人間の頭部に噛みつき、頭蓋骨をものともせずに噛み砕く。
大量の血を撒き散らしながら頭部はグシャグシャに潰れ、大男にのみ込まれていく。
「……相変わらず豪快な喰い方。その大食いっぷりじゃ『成体』になるのもすぐなんじゃない?」
「いや、こう見えてまだ俺は人化してから日が浅い。もちろんお前ほどじゃあないがな。先になるのはロゼだろう」
「呼んだかしら?」
2人の会話に入って来たのは、『ロゼ』と呼ばれた妙齢の女性だった。
「ああロゼ、そちらの食事はもういいのか?」
大男の名は『アリゲイター』。
彼は口元に付着した血を拭いながら尋ねた。
「ええ、十分に。……しかし『レイザー』が数字持ちを倒せるとは思わなかったわ、人化したばかりとは思えないわね」
そう言ってロゼは首の無い死体に目を付け、死体の近くに落ちていたドッグタグを拾い上げる。
――ランク9、ジン達の合流を待っていた、現地の数字持ちのものだった。
「ロゼ、この後はどうするの? ボクとアリゲイターはまだ食べられるよ」
小柄の若い男……名を『レイザー』。
レイザーはいつの間にか拾っていた人間の腕を喰らっていた。
「フフ……それが、ちょっと面白いものを見つけたのよね」
ロゼはそう言って微笑みながら、数枚の書類を取り出した。
「どうやらここに隠れてた連中、仲間とここで合流してから私たちを叩く予定だったみたい。合流してくるのは3人だけみたいだけど、全員が数字持ちみたいね」
「ホント!? てことは……」
「待っていれば獲物はあちらからやって来る、という訳か。俺達はつくづく運が良いらしい」
情報を聞き、レイザーとアリゲイターは顔を見合わせ喜んだ。
そんな2人のやり取りは、ロゼの目にはまるで兄弟のように映った。
「あなたたち、性格は真逆なのに妙に気が合ってるわね。やっぱり食べ足りなかったのかしら?」
「あー、別に大したことじゃないよ。ただボクが素早く仕留め過ぎたせいで、生きてるのが残ってなかったんだ」
「うむ。レイザーの異能力は強力だが、捕食には向いていない」
「なるほど、要するに死体じゃ満足できないわけね」
ロゼは2人に対し、呆れたように両手をヒラヒラさせながら言った。
すると2人は嬉しそうな声色で、同時に答えた。
『もちろん! 人間を喰うなら生きたままが一番美味い!』
「フフ、それには私も同意見だけれど。さて、準備を始めましょうか? 宴の準備をね」
バーテクス正規軍兵士のバラバラに切断された無数の死体と、1人の数字持ちの首無し死体。
それらは新鮮でないという理由で、彼らに捕食すらされず、その場に放置されていた。
日も落ちかけた夕暮れの空の下、大きな血溜まりが地面を赤く染め上げていたが、その赤色よりも更に紅い――
真紅の瞳たちだけが、その場で蠢いていた。
レイザー「ところでアリゲイター、人の頭って美味いの?」
アリゲイター「んー……かなり硬いが、脳が最高に美味い」




