Welcome to hound
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「……う……」
「お、どうやら目覚めたみたいだな」
「……拳二さん……?」
拳二の声が耳に届く。ジンは重い瞼を開き、意識を覚醒させる。
見覚えのある天井……メディカルルームのベッドに仰向けに寝ているようだ。
ベッドの傍には拳二とサラが座っており、サラが心配の声を上げた。
「だ、大丈夫ですか……?」
痛む上体を起こしながら、ジンは首や肩を回して体の状態を確認する。
(痛みは残っているけど、動くのに支障は無さそうだな)
あれだけ派手に数々の打撃を受けて、骨折や内臓破裂の一つも無いようだ。
意識を失っていたせいで、それが喰らう者の力……すなわち『べノム』による耐久力強化による結果なのか、或いは急激な治癒能力によるものなのかは分からなかった。
そう思考していると、刀也とマクスが入室してきた。
刀也はなにやら小さな箱を所持しているようだが……
「全く、つくづくお前の回復力には驚かされるな、ジン」
刀也が優しく微笑みながら言った。どうやら心配していてくれたようだ。
「ああ……大きな怪我はしていないみたいだ。サラさんも、急に意識を失ってしまって心配をお掛けしました」
「はは……まさか俺の渾身の一撃で死なねえとは、まったく大した野郎だぜ」
拳二も笑いながらジンに話しかけてきた。
さっきまでの燃え上がるような殺気は無く、敵意すら感じない爽やかな笑顔だった。
「拳二さん……その、すいませんでした生意気なこと言って」
ジンは拳二に向かい、頭を下げながら言った。
「あ? 何のことだそりゃ」
拳二はキョトンとした顔でジンに尋ねる。
あまり気にしてはいないのかもしれないが、それでもジンは謝罪を続けた。
「死んでも文句は言うな、とか言って、結局全然敵わなくて……恥ずかしいです。口だけだった自分が」
そもそも本当に死んでしまったら文句など言いようがない。
焔を纏うことで気が大きくなり、無用な挑発をしてしまった事を悔いていた。
「あー……気にすんな、もっとクソ生意気な後輩ならそこにいるしな。むしろ素直な後輩が出来て嬉しいぜ、ジン」
すると刀也が拳二に向かって、いつもの挑発的な皮肉を言う。
「ならば先輩らしく、威厳ある振る舞いをすることだ。特にさっきの戦い、得物の差で勝ちを拾ったようにも見えたがな」
「ぐぬ……刀也、てめえこそ少しは後輩らしくしやがれ!」
(さっき戦闘の実力はお互い譲らないって言ってたけど、口喧嘩なら刀也の圧勝だな……でも、後輩が出来て嬉しいってことは……もしかして)
ジンはそう考えながら、刀也と拳二の漫才のようなやり取りを見ていた。
するとマクスが肩に手を置いて、語りかけてきた。
緩んだ場の空気にはそぐわぬ、真剣な表情だった。
「――ジン君、改めてにはなるが、僕達『ハウンド』は君を歓迎する。それにあたってこれを受け取ってほしい」
刀也がジンに、手に持っていた小箱を手渡す。
箱を開くと、ジンの名前と『23』の数字が刻印された金属製の小さなプレートが入っていた。
「それは君がハウンドの数字持ちであることを証明するIDタグ。ドッグタグとも言うね。君が休んでいる間に、我が同胞たちには支部を通じて連絡をしておいた。
今日この瞬間を以って、君はランク23の数字持ち、我々ハウンドの仲間だ」
「――それは、本当ですか……? それに23って……数字持ちの数は30人ほどいるって聞いたのですが、いきなりこんな数字を貰ってしまっても?」
「構わない。ランク5相手に善戦したんだ。その資格があると、他でもない僕が判断した」
すると刀也と拳二も同じドッグタグを取り出した。
それぞれの名前と、数字が刻印されている。
ハウンドは受け入れてくれたようだ。
憎き喰らう者の力を使う、この自分を。
ジンはその嬉しさからか、少しだけ目を潤わせながら言った。
「……ありがとうございます。この『力』、必ず役に立てて見せます!」
「うん、期待しているよ。もう2,3日経ってから任務も回していくから、休んでおくといい。もちろんここは自由に使ってくれていいからね」
マクスはそう言い残し、メディカルルームを後にする。
しかしマクスがドアに手を伸ばしたその時、ジンは声を張り上げる。
「マクスさん! 待ってください!」
ジンには、マクスのことでどうしても確認したいことがあった。
「マクスさんって……ただの研究員じゃありませんよね?」
思い当たる節がいくつもあった。
まずは今の話に出てきたいくつかの言葉の言い回し。
『我が同胞たち』や『我々ハウンド』といった部分が引っかかる。
次にジンのランク『23』の数字をマクスの独断で設定したともとれる旨の発言。
そして拳二との戦闘中の会話。
拳二が行動を起こす度に、必ずマクスに許可をとっていた。
それらから推測するに、ジンはマクスをただの研究員とは思えなかったのだ。
「マクスさん、あなたは――」
「本当に君は鋭いな……隠すつもりは無かったけど、そういえばまだ言って無かったね。研究員というのは嘘じゃないんだけど……。
――では改めて。
『ハウンド総司令』、マクス・バードだ。よろしくね、ジン君」
自らの真の立場を明かし、マクスは退室していった。
「総司令……マクスさんが……」
ジンは驚きを隠せない。
推測していたとはいえ、組織のトップと改めて言われると、やはり少しだけ信じられない。
喰らう者のカテゴリーの話や、べノムの話を嬉しそうに長々と語っていたから、そこまでは本気でただの研究員だと思っていた。
……刀也なんか敬語使ってないし。
「さて、本当だったらジンの歓迎会でもやりたいところだが……その体じゃキツイだろ。2,3日後にはマクスさんも言ってたが、任務の連絡が来るだろうし、それまでは休んでな。……ま、これからよろしく頼むぜ後輩」
そう言ってマクスに続き、拳二も退室する。
「フ……思わぬ戦闘はあったが、ようやくお前と仲間になれたな」
刀也がジンに話しかける。
「刀也……色々とありがとう。改めてこれからよろしく頼む」
「気にするな、最初に刀を向けてしまったことへの償いのようなものだ。そろそろ俺も行くとする、ゆっくり休めよ」
「って、刀也さんまで行っちゃうんですか?」
サラが刀也に慌てて声を掛ける。
「ああ、後は任せるぞ、アールミラー。新人のサポートも代理人の大事な仕事だ、しっかりな」
そう言って刀也はサラを残し、退室していった。
「……私も、新人なのに……」
要するにサラは、負傷したジンの面倒を押し付けられてしまったらしい。
「……すいませんサラさん。俺なら大丈夫ですから、帰っても――」
「いえ、今日の夜は私もここに泊まりますから、ジン君はゆっくり休んで下さい! 早速食事でも用意してきますね」
そう言ったサラは部屋を後にする。
どうやらメディカルルームとシュミレートルームの他にも、厨房が設置されている部屋があるようだ。
(はは……とはいえ流石に体がキツイな。お言葉に甘えるとするか)
時刻は午後5時頃。美しい夕焼けが窓の外に広がっていた。
サラ(あああああ! 今夜はここに泊まるとか言っちゃったけど、ベッドなんてメディカルルームにしか無いよ……どうしよう……)
そしてこの後滅茶苦茶メインルームのソファーで寝た。




