In fight!-4
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――殺さなければ、殺される。
そんな思いを抱き、ジンは必死になってブレードを振るい続けていた。
目の前にいる拳二という男の繰り出すラッシュは、さっきまでとは明らかに威力が違った。
(手を抜いていたのは……拳二さんの方も一緒だったか……)
拳とブレードを幾度となくぶつけ合わせながら、ジンは状況の打開策を模索していた。
何故なら、このラッシュのぶつけ合いは明らかにジンの不利だったからだ。
理由は単純至極、得物の差であった。
ジンが片手持ちの汎用ブレードを振るっているのに対し、拳二の得物は両手に装着された手甲。
空いている左手でガードすることで誤魔化してはいるが、この強烈なラッシュは素手で何度も受けきれるほど生半可な攻撃では無い。
加えてブレードの刃渡りもこの近距離では無用に長く、打ち合うには取り回しが悪かった。
必死に喰らい付いてはいるが、もう半歩距離を詰められればこの均衡はすぐに崩壊し、ジンは敗北してしまうだろう。
(賭けるしかない。『焔』を使う……!)
ジンはブレードを持つ右腕に力を集中させる。
マクスが言っていた特殊な物質、『べノム』による異能力。
あの全てを失ってしまった日に……代償として手にした力……!
ジンの振るうブレードが、赤黒い焔に包まれた。
手甲と焔を纏うブレードが衝突した瞬間、爆炎が発生し拳二の体を勢いよく吹き飛ばす。
しかし拳二は体勢を崩すこと無く床面に火花を散らしながら滑り、踏み止まった。
見事な身のこなしを見せた拳二に対して、ジンは信じられないものを見たかのように言った。
「今ので仕留められないか……けど!」
ダメージを負わせるどころか態勢すら崩せなかったが、間合いは大きく離せた。
拳二の武器がが装着型の手甲である以上、強力な爆炎で相手の体ごと破壊するのが有効。
そう判断したジンは、更に焔を増大させ、ブレードによる斬撃威力の向上を狙う。
(あのガードごと吹き飛ばす……!)
対する拳二は構えを解き、棒立ちでこちらを見ている。
その表情は僅かに笑っていた。
ジンは拳二の様子を不審に思い、警戒を強めたその瞬間だった。
拳二の口が開き、不敵に呟いた。
「――『べノム』の力、お前だけのものだと思うなよ」
拳二の手足に装着された武器が変形・展開し、青い光を噴出させた。
「な……あの光は!?」
ジンは突然に噴出した光に対し、驚嘆の声を上げる。
――似ている。
見た目に大きな違いはあるものの、あの光はこの焔と同種の力だ。
ジンはそう直感し、より警戒心を高める。
拳二は構えを戻しながら話しかけてきた。
「これが俺の『V-ウェポン』……『バルバロス』だ」
――V-ウェポン。
それはジンにとって、まるで聞いたことの無い名称だった。
ジンは強化された視力を活かして、バルバロスと呼ばれた拳二の武器を凝視した。
詳しい仕組みや構造も、外見のみでは理解できない。
しかし分かったことが1つだけあった。
――その武器には、刀也の得物である刀と同じ『Naismith』の刻印があった。
(ネイスミスの文字は恐らく、あの武器の制作者、或いは製造元の企業名だろう。それに『V』ウェポンという名称……)
ジンは素早く思考を巡らせ、ある1つの確信を抱く。
「……そうか、『Venom』ウェポン……!」
「そういうことだ。悪いが俺も本気で行かせてもらうぜ……なぁ!!」
拳二がそう言い放った瞬間、2人は同時に飛び出す。
赤黒い焔を纏う剣、青白い光を放出させる手甲の衝突は、今までの衝撃を遥かに上回っていた。
――しかし、その衝突の瞬間、一撃で勝敗は決した。
「……折れ……っ!!!」
ジンのブレードが折れた、というよりは砕け散った。
ブレードを失い無防備となったジンに、拳二は更に間合いを詰める。
「コイツで終わりだ……喰らえ!!」
拳二の身体全体の勢いを乗せた、渾身の一撃。
かろうじでブレードを手放し、両腕のガードを上げたジンだったが、そのガードごと吹き飛ばされて壁に激突する。
その勢いは凄まじく、壁面の装甲を大きく歪ませていた。
壁に叩き付けられたジンは力無くその場に倒れ、絶命したかに思えた。
――しかし。
「ま……まだ……」
血を吐きながらジンは立ち上がった。
足はガクガクと震え、両腕はもはや上げられない状態の様だ。
「お前……まだ……」
拳二は驚愕し、ジンをただ見据える事しかできない。
(今の一撃は殺すつもりで打ち込んだ。しかもバルバロスを解放させた状態で。喰らう者でも一撃で仕留めるほどの打撃の筈だ……それを耐えたのか? 妙な力を持っているとはいえ、人間が!?)
拳二は笑った。
構えを解きながら振り返り、大きな声を張り上げた。
「……なあ、もういいだろ。コイツには十分すぎる力がある」
うつろな目で拳二を見据えるジンの前に、不意に現れた長身の男が立ち塞がった。
首が動かせず、その男の顔が見れない。
「そんな死にそうになってまで、君は何を求めてるんだい?」
唐突に投げられた質問。
意識ははっきりとせず、立っているだけでやっとなのに、言葉を発する余裕など無かった。
今にも膝を折り、倒れてしまいそうだったが、まだ戦いは終わっていない。
前に踏み出そうとしたその時。
ジンよりも小柄な誰かが、前から抱きしめその体を支えた。
「ジン君……もう、いいんです。今はもう……!」
それは誰の声なのか、朦朧とする意識ではそれすら分からなかったが、少しばかり楽になった。
ジンは懸命に顔を上げながら、その男の質問に答える。
「俺は……戦わなくちゃいけないんです、喰らう者と」
「それはどうしてだい?」
意識が徐々に戻って来るのを感じる。
ふと刀也と船で話したことを思い出した。
「……全てを失くしてしまったから、せめてこの命は、正しく使わないといけないと思っていたんです」
「思っていた、ね。心境の変化があったのかい?」
「……ただの我儘ですよ、でもその気持ちこそが『人間』である証って言ってくれた人がいるんです」
「……なるほど。ならその我儘を、僕にも聞かせて貰えないかな?」
ジンはハッキリと意識を取り戻し、顔を上げる。
サラに支えられながら、マクスの目を真っ直ぐと見据えて言った。
「復讐……。とにかく喰らう者を殺したい」
その言葉を聞いたマクスは、その表情を大きく変えた。
まるで欲しいものを見つけた子供のような、満面の笑みだ。
「君の気持ちは分かった。その力も。
――ようこそ、『ハウンド』へ」
それは何よりもジンが求めていた言葉。
それを耳にした瞬間、安心したジンは微笑み、意識は闇へ落ちた。




