Inspection-2
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「『人化』……喰らう者が人間を捕食して進化することを指す言葉だ。由来はとても単純。人間の姿に近付いていくからだね」
「ある程度進化するとカテゴリーCからカテゴリーBに分類される……その時点で人間の姿と怪物の姿を使い分けるんでしたよね」
先のカテゴリーの話を繋げながら、ジンは確認するように言った。
情報量は多いが、マクスが簡潔に教えてくれるのですぐに理解できる。
「ああ。それぞれの姿は『人間体』、そして『変異体』と呼ばれているね。この2形態を持っていることで初めてカテゴリーBと呼ばれるんだけど、この段階ではまだ人間体が不完全なんだ。
体の一部に異形を残していたり、肌の色が違ったり……あとは瞳の色が真紅なのも特徴的な部分の一つだね。
そしてひとたび変異体になれば姿形は個体それぞれに多種多様。大型化したり、角や翼が生えてきたり……そもそも二足歩行の姿ですらなくなる個体だっている」
(なるほど、だからあの時に刀也は俺をカテゴリーBの喰らう者と間違えたのか。確かに右目の瞳が赤くなっていたな……でもあれ?)
ジンの中で一つの疑問が生じる。
自分の体には異形は無いし、肌の色も普通だ。
火傷の痕は残っているけど、それでも見た目は普通の人間のそれであった。
何故刀也はあの時『カテゴリーB』だと判断したのだろうか?
「……マクスさん、カテゴリーBとAの違いはどう判断すべきなんですか?」
「ああ、確かに難しい所だね。そうだな、簡単に言うとカテゴリーAは言わば『成体』のことなんだ。
その完璧な人間体は特徴が無く、外見で喰らう者と判断するのはほぼ不可能だ。
異能力を人間体のまま使ったり、変異体になる直前に瞳が赤くなることはあるけどね。
そして最も注意すべき点は、変異体の姿は異形になりながらも人の形を留めることだ。
大型化はしないけど、戦闘力はカテゴリーBとは段違いだと思っていい。
少し長くなってしまったが、喰らう者の人化の段階は一応こんなところだ。」
マクスは説明を終え、ジンに笑いかける。
研究員を名乗るだけあってその知識は正確で、何の知識も無かったジンにも分かりやすく説明してくれた。
「なるほど……ありがとうございます、とても良く分かりました。刀也が俺を間違えたのは、赤い瞳をしていて、それが制御できてない段階の個体だと思ったからか……」
ジンはマクスに礼を言い、そのあとに答え合わせをするかのように小声でブツブツと呟く。
その呟きが耳に入ったのか、マクスはすぐに立ち上がって言った。
「まだ授業をしてあげたいのは山々だけど、そろそろ調査報告を聞きに戻ろう。――君の今後を決めるためにもね」
思わずジンは息を呑んだ。
自分の今後……マクスのその言葉には含みのあるような、どこか棘があったようにも感じられたからだ。
(とにかく戻って、経緯を話すしかない。今後喰らう者と戦っていくには……やはり仲間は必要だろう)
自分が戦った喰らう者など、ただの底辺に過ぎない……。
それを理解したジンは、強引にここまで連れて来た刀也に内心で感謝していた。
最初に戦った焔を纏う個体。
マクスの話を聞いても不可解な点は残っていたが、ジンは敢えてそれを考えないようにした。
まずは、戦うための足場が何よりも必要に思えた。
「へぇ……そりゃ面白ェ話だな……」
サラの作成した報告書と、刀也の口頭での説明が一通り済み、マクスとソファーに座っていた若い男がジンの事情を簡潔に知ることとなった。
最初に口を開いたのは、若い男だった。
「そんな……笑い話ではありません! ジン君はそこで全てを失ってしまったんですよ!?」
「ああ、同意見だ。人の不幸な話を聞いて面白がるとは感心しないな」
サラと刀也が険しい顔でその男の発言に釘を刺す。
しかし当のジンは、怒りよりも2人が自分のことで怒ってくれていることの嬉しさの方が大きく、男の発言に反応することを忘れてしまった。
「なーに言ってやがる。故郷や身内を喰らう者のせいで失うのは珍しくもなんともねぇだろ。なぁ、刀也」
「……それは……」
その言葉に刀也は言い負かされたように押し黙った。
ハウンドとして戦っていれば、同じ境遇の人々を目にするのは珍しくない。
辛い場面を何度も乗り越えて来たからこそ、刀也は言い返すことが出来なかった。
何よりも、刀也自身の過去が、その言葉に偽りは無いと証明していた。
「俺が面白ェって言ったのは、そいつの『力』の話だよ。人の不幸話なんぞ、誰が面白がるかよ」
「ふむ……確かに興味深い。焔を纏う喰らう者……その個体にも謎は多いが、何よりジン君の心臓に深く関わっているだろう」
ニヤニヤとした表情の男とは対照的に、マクスは真剣に考え込んでいるようだ。
そんなマクスの様子を見て、男が再び口を開く。
「なぁ、やっぱり見極める必要がありそうッスよ、マクスさん」
「ああ、やってくれるか、拳二」
なにやら不穏な感じで話が進んでいるような気がしていた。
ジンはマクスに怪訝な表情で尋ねる。
「マクスさん……見極める、とは?」
「ああ……悪いが喰らう者の力を宿す君を簡単に受け入れる訳にはいかない。そこで……
――今からこの男、数字持ちの拳二と戦ってもらう」
男と目が合った。名前は拳二と言うらしい。
「ま、ヨロシクな」
その言葉は友好的なもののはずなのに、ジンは刀也と対峙した時と同じものを感じていた。
これは――明らかな殺気だった。
ジン(ところであの人……マクスさんにはちゃんと(?)敬語で話してる……。
ガラ悪そうなのに、ちょっと意外だ……)




