My ability-6
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「――組織の名は『ハウンド』。
喰らう者の討滅を生業とする一騎当千の『数字持ち』と呼ばれる戦闘員。
そして世界各地で喰らう者の情報を集め、数字持ちに仕事として情報を斡旋する『代理人』と呼ばれる諜報員で構成されています。
私は学校を卒業する直前ハウンドから勧誘を受け、色々と考えた結果代理人としてハウンドに参加することを決めたんです。」
サラは自らが所属する組織の名を明かし、丁寧に説明をしていく。
「へえ……『ハウンド』か。バーテクス正規軍以外にも対喰らう者の組織があったなんて知らなかったです。もしかして、刀也は……?」
ジンはサラの所属するハウンドなる組織の話を聞き、合点がいった。
『高位の数字持ち』……なんとなく分かってはいたが、刀也を指している言葉だったようだ。
「ええ、刀也さんは私と同じくハウンドに所属する数字持ちです。その数は全体で約30人ほどですが、彼の持つ数字は『11』……あの若さでかなりの上位に位置する、凄い人ですよ」
(11……なるほど、道理であんなに強い訳だ。)
港湾区画で対峙した時を思い出す。
ジンの体に大きな傷痕を残したあの上段斬りが、ランク11の実力を証明している。
その刀也より強いのが、あと10人もいるなんて……
「あの刀也でランク11……30人とはいえ、凄い人たちの集まりなんですね」
そこでジンは、ふと疑問に思った。
そこまでの強者達が、何故バーテクス正規軍に参加していないのかと考えたのだ。
「でも何故、ハウンドという組織が存在するんです? そこまで強い力を持っているなら、組織を分ける必要性を感じませんが……」
するとサラが、ため息交じりに答える。
「……エリア1以外ではあまり知られていませんが、現在バーテクス正規軍は腐敗が進んでいるんです。長きに渡る戦いで、膨大な数の兵士が死んでいきました」
ジンはサラの話に聞き入った。
その話の内容は現在人類がどれほどの危機に瀕しているか、そしてハウンドの必要性を理解するには十分すぎるほどの内容だったのだ。
――大災厄により文明は滅び、当時の人口約70億人はその数を20億人まで減らしたと言われている。
しかしその大災厄後に現れた怪物、喰らう者との長きに渡る戦いの末。
現在明確に判明している総人口は、1億人にも満たないという。
しかし人類は遂に『緋色合金』を開発し、ようやく喰らう者とも対等に戦える武器を手に入れた。
だが、それはもう遅過ぎた。
正規軍の兵士は大きくその数を減らし、生き残った多くの兵士が恐怖のあまり、保身に逃げていったのだ。
『治安維持』や『防衛』の名目の下、前線に立たなくなり、そうした正規軍の消極的な姿勢は、戦意ある一部の人間の不満を募らせ、遂には離反者まで出るようになった。
そうした戦意ある離反者を集め、独自に喰らう者と戦い続けているのが組織『ハウンド』の起源だという。
「――だからサラさんはハウンドに……でもそれじゃ、今の正規軍は機能してないってことですか?」
ジンは耳を疑ってしまった。
誇り高く、人類のために必死で戦っていると思っていたバーテクス正規軍が、そんな状態だとは全く知らなかったのだ。
「いえ……全く機能してない訳ではありませんが……それでも積極的に前線で戦う部隊は少なく、ここ最近の喰らう者との戦いではハウンドの方が功績を上げているのも事実です」
サラがそう答えながら、不意に立ち上がる。
「とにかく……それぞれが一騎当千の力を持つとはいえ、数字持ちの数は30人程。とても厳しい戦況が続いています。ですがジン君の『力』はきっと大きな戦力になると思います」
しゃがみ込んだままのジンに、サラが手を差し伸べる。
「もしジン君が良かったら……私たち『ハウンド』と一緒に戦ってくれませんか?」
真っ直ぐなサラの眼差しと、その微笑み。きっとこの人は本気で誘ってくれているんだろうと、疑うことなく直感した。
しかしジンは差し伸べられた手を、すぐに取ることが出来なかった。
サラはともかく、喰らう者の力を宿したこの身を、ハウンドは受け入れてくれるだろうか。
そしてそれはハウンドだけではない、よく考えると正規軍も同じことだ。
その迷いが、ジンの今後を揺るがす。
(戦うと覚悟はしたが……俺が戦える場所はあるのだろうか……)
そんな考えに悩むジンの表情を見て、サラは慌てて差し伸べた手を引く。
「す、すいません、また無責任なこと言って。私の一存で決められるような事では無かったです」
ジンはその言葉に顔を上げ、サラに申し訳ない気持ちになり立ち上がりながら言った。
「いえ、そう思ってくれるのはとても嬉しいのですが……少し、考える時間が必要みたいです。俺が手に入れてしまったこの『力』の事を」
「そうですね……エリア1に着いたら、街並みでも見回りながらゆっくり考えてみてください。そろそろ休みましょうか、昼間は大変だったんですから、少しでも体を回復させないと」
こうして2人は船内に戻っていった。
色々教えて貰えて良かった。とジンはサラに感謝し、同時にこれからの不安を抱きながら眠りに就いた。
「はぁ……」
サラ自室で深いため息をついていた。
色々な現状を話し、最終的には『ハウンド』へ勧誘したサラだったが、今落ち込んでいることはそれらとは全く無縁の事柄であった。
「結局、敬語無しでは話してくれなかったなぁ、ジン君。結構仲良くなれたと思ったんだけど……」
ジンにはあの時亡くしてしまった姉がいて、代わりとまではいかないが自分がその心の穴を埋めてあげられれば……と考えての提案だったが、敬語無しで話してくれたのはほんの一瞬で終わってしまった。
(まあ私の方が年上だから仕方ないとは思うけど……刀也さんには敬語無しだから、ちょっと妬けちゃうなぁ……)
そんな他愛もないささやかな嫉妬心を抱きながら、サラもまた眠りに就いた。
(……どうか到着まで海が穏やかでありますように)
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