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My ability-5

更新しました!良かったら覗いて見て下さい!



 「凄い……」


 見渡す限りの穏やかな大海原。

 既に日は落ちているのに、美しい満月と、満天の星が輝き辺りを照らしている。


 ジンは甲板で1人、その夜空に圧倒されていた。


 時間は既に0時を回り、真夜中と言っていい。刀也もサラも休んでいるだろう。

 操縦席付近にしか船の照明は光っていない。生き残りの兵士が2人、交代で操船をしているようだ。


 「……エリア1、『最後の砦』か……どんな所なのか、想像もつかないな」


 朝にはエリア1に到着すると、さっき兵士の1人が教えてくれた。

 楽しみなのか、緊張しているのか……どちらともとれる曖昧な感情が、つい足をここへ運ばせた。


 「――きっと、驚くと思いますよ。隣、いいですか?」


 不意に後ろから声がかけられる。そこにはサラが立っていた。


 「サラさん……じゃなくて、サラ、こんな時間にどうしたの?」


 サラはジンの隣に立ち、手すりに寄りかかって空を見上げた。

 夜空の光がサラの横顔を照らす。

その表情は穏やかで、サラの船酔いも心配なさそうだ。


 「……綺麗ですね。こんな絶景、初めて目にしました」


 絶景……確かにサラの言う通り、目の前に広がっている光景は、正に絶景としか形容できないものだった。

 数えきれない星の輝きが、何の隔たりも無い夜空一面に広がり、穏やかな水面にそれを映している。

 空と海の境界線が分からなくなる、そんな錯覚に陥ってしまいそうな。


 ジンは、こんなにも輝く星空を見たことが無かった。


 物心つく前からずっとエリア3のスラムで育ってきた。

 あの街では工場や大災厄以前の廃墟が乱立し、こんなに空は広くない。

 工業地帯故の大気汚染の影響か、或いは夜通し稼働する工場の明かりが邪魔をするのか……夜空には月以外のものなど見えなかった。


 「……エリア3にいた頃は、夜空なんて気にして見上げたことなんか無かったから。姉さんにも見せてあげたかったな」


 「お姉さんのことは……本当に辛かったですね」


 サラはそう言いながら、その場にしゃがみ込んだ。


 「代わりと言っては失礼な気もしますが……良かったら、私の事を話させてくれませんか? 何の変哲もない、つまらない話にはなりますが、ジン君にだけ根掘り葉掘り話してもらって、フェアじゃないというか……私も、ジン君とは『対等な関係』でいたいですから」


 サラは微笑みながらジンを見上げた。

 対等な関係……年上にも関わらず、そう言ってくれるのはジンにとって嬉しいことだった。

 エリア3のスラムには、ジンやカガリような10~20代前半の人間はほとんどおらず、よく馬鹿にされたものだった。というよりは、可愛がられていたと言った方が正しいが。


 「一応年上だし、敬語を使わなくても……。年下の俺だけなんか変な感じだよ」


 「い、いえその……性分みたいで、誰に対してもこうなんです。そこはあまり気にしないで下さい」


 「――だったら、やっぱり俺にも敬語で話させて下さい。俺、年上の人に敬意を払うのが性分ですから」















 ずっと前の事を思い出す。

 あれは14歳頃だっただろうか。14歳の子供を雇ってくれるような所は中々見つからなくて、その頃は頻繁に盗みをやってた。

 そんな中、盗みに入った小さい武器工場。武器やそれに関わる部品は高く売れるから、色々な武器工場に目をつけて、夜な夜な勝手に入っては盗みまくってた。

 その時偶然、親方に見つかったのだ。これは怒られる……と思って身を竦めた俺だったが、親方は以外にも優しく声を掛けてくれた。


 『なんじゃ、盗みを働くぐらい困っているなら、ワシの工房で働かんか小僧?』


 こうして改めて俺はこの工場で下働きをすることになった。

 すでに親方には弟子がいて、その弟子はその時確か20歳くらいだった。

 当時まだ俺はただのクソガキだったけど、やっと仕事を貰えて嬉しかったから気合を入れて挨拶をしたんだ。


 『俺の名前はジン! すぐに一流の職人になるから、爺さんもそこの兄さんもよろしくな!』


 そう言ったつもりだったんだけど、よろしくの辺りで思い切りその弟子の人に殴られた。


 『爺さんじゃねぇ、親方と呼べ! そして俺の名前はガンツ。ここでは必ず敬語で話せ、年上を敬え!』


 っていきなり説教されちゃって。そこで初めて年功序列を厳しく叩き込まれた。

 でもそのガンツさんって人は、年齢抜きにしても尊敬できる人で、色々な事を教わった。

 怖い人だったからかな、よく姉さんには『就職してから用心深い……と言うか、臆病な性格になったね』って言われたよ。

 













 

 「――ってことがあって、やっぱり俺は、年功序列は守りたいんです」


 「へえ……いい所で働いてたんですね」


 「ええそれは勿論。俺の自慢の……自慢の職場でした」


 気付けばジンはサラのすぐ隣にしゃがみこんで、夢中になって思い出を語っていた。


 「……ってサラさん、すいません俺ばかり話してしまって」


 「いえ、とても楽しそうだったので、つい私も聞き入ってしまいました。私は……そうですね、本当に何の変哲もない、エリア1の辺境で生まれ育ったんです――」

















 エリア1の都市区画から大きく離れた、辺境の農業区画。

 そこで細々と代々労働者(ワーカー)として働いているアールミラー家の次女、それが私サラ・アールミラーです。

 エリア1は気候が安定していることから、農業が盛んに行われていて、食料は価値が高いのもあって労働者(ワーカー)と言ってもそれなりに安定した暮らしは出来ていたんですけど……。


 ある日、その農業区画が喰らう者(イーター)に襲われてしまったんです。

 アールミラー家は幸い、襲撃地点から距離があったので被害はありませんでした。しかし、知り合いの同業者がそこには何人もいて、仲の良い隣人といえる仲でした。


 その隣人たちが一瞬でいなくなってしまった事に、私は初めて恐怖と怒りを感じました。


 両親や兄には散々反対されましたけど、私は何とか説得して、バーテクス正規軍直轄の軍学校に入学することになりました。

 女性が正規軍に参加するには、喰らう者(イーター)に対しての専門的な知識を持つ人間か、或いは戦闘技術に特別秀でていなくてはいけません。

 しかし例外、直轄の軍学校の卒業さえできていればそのまま正規軍に参加できるのです。

 それに私は飛び込みました。必死に勉強して、最終的には苦手な戦闘以外は主席で卒業しました。


 ――もっとも今は正規軍ではなく、『とある組織』で働いていますが。

 

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