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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
135/135

ただ、研ぎ澄まして-3

諸々個人的な生活環境が大きく変わり、再出発まで随分とかかりましたが、少しずつまた更新していこうと思います。また読んで頂けたらとても嬉しいです。




 「――着いた。ここが俺の家だ」


 都市区画から少し外れ、しばらく歩いた先に辿り着いたのは古い木造の建物だった。

 刀也曰く、大災厄以前は一種の神様を祭っていた『神社』なるものとして使われていたようだ。


 「木造……良く残ってたものだよな。鉄筋コンクリートの建物だって綺麗に残ってないのに」


 「実際、そのままの姿で残っている訳じゃない。至る所に何度も修繕を施しているからな。」


 色褪せた朱色の鳥居をくぐり、4人はそのまま玄関口に向かう。

 引き戸に手をかけた刀也が、ふと手を止めて言った。


 「……帰ってくるのは本当に久しぶりだ。仕事先で寝泊まりすることがほとんどだったからな」


 「へぇ、そうなんだ。どれくらい?」


 「そうだな、半年か……それ以上――」


 ――ガラリ。と引き戸が開く。刀也が開いたのではなく、中から別の人が開いたのだ。


 「……え?」

 「……あ」

 「……?」


 ジン、サラ、アームズは思わず固まった。

 見慣れぬ装いの女性が扉を開いて姿を現したからだ。女性は眼前の刀也を見上げながら呟く。


 「……刀也。おかえりなさい」


 「……あぁ。今帰った。(あかね)


 













 「しかし珍しい服ですね。私初めて見ました」


 「これは父が好きで着ていて……大災厄前でも珍しかったものだから。こう見えて結構楽なのよ」


 お茶を出してもらい、腰を下ろしてちょっとした談話の時間になる。聞けばその見慣れぬ装いは『和服』というらしい。大昔に、とある東の島国から伝来したもののようだ。

 女性は「お食事の準備をしてきます」と言って台所へ向かった。


 女性の名は(あかね)

 同性かつ、コミュニケーション能力の高いサラとはすぐに打ち解けたようだ。


 「それにしても刀也さん……茜さんとはどういった関係なんですかぁ?」


 サラがニヤニヤとしながら刀也に聞く。ジンとしてもそれは気になるところで、サラの勢いに乗っかるようにして、興味の目で刀也を見る。

 なおアームズは興味ゼロなのか、黙々とお茶を啜っていた。


 「……説明すると長いが、要は兄妹(きょうだい)……茜は妹のようなものだ」


 「へえ、妹さんがいたんですね」


 「厳密には違うがな。茜は、神薙神威の実子だ」


 ジンはそのことに少し驚いた。茜が神威の実子であるという事ではなく、()()()()()()()()()()()()事に。


 「……それじゃ刀也は……?」


 「俺はただの孤児だ。幼い頃に神威に拾われただけの、な」


 「そっか……ゴメン、無神経なこと聞いた」


 「別に構わんさ。特段珍しくもない。それよりジン、少し付き合わないか?」


 刀也は茶を飲み干し、立ち上がった。


 「大角(ビッグホーン)との戦いから、あまり落ち着いて話せていないからな。俺の用事ついでにどうだ?」


 「も、もちろん行くよ!」


 つい言葉に詰まってしまっていたジンだったが、刀也の方から話を申し出てくれるのは有り難い。ジンは慌てて立ち上がる。


 するとそれに合わせるようにしてアームズが立ち上がったが、刀也がそれを制する。


 「ランク3、ここでアールミラーと待っていてくれ。ジンと2人で話したい」


 「……」


 指図されたことが癇に障ったのか、アームズは刀也を睨み付けるように見つめる。するとジンが口を開くより速くサラが動いた。


 「ま、まぁまぁ。そうだ、茜さんのお手伝いでもしてようよ、アームズ」

 「でも」

 「いいからいいから! ホラ、行こう」


 そう言ってサラはアームズを台所へ引っ張っていった。


 「フ……気が利く。それでは行こうか」


 「うん。でもどこへ?」


 「すぐにわかる」













 刀也に連れられジンがたどり着いたのは、広い裏庭の隅にひっそりと佇む、薄らと苔むした石碑のようなものだった。


 「刀也、これは……」


 「これはそうだな……いわば墓のようなものだ、神薙神威の。もっとも遺体はここには埋まっていないがな」


 刀也曰く、神威の遺体はワームビーストの騒動で荒れに荒れた現場からはとても運び出せなかったようだ。


 「ここに帰ってくると、いつも考えてしまう。自分なりに神威(ちち)に近付こうと努力をしても、少しも追いつけて居ないんじゃないかと。ビッグホーンの一件もあって、今回は余計にそう思う」


 「そっか……刀也は、その……」

 「焦ってるのか?と問いたいんだろう?」


 刀也はジンの言葉に重ねるように言った。そんなに表情に出ていただろうか。


 「まぁその……その通りだ。さっきの模擬戦、刀まで抜いて様子がおかしかったから」


 「焦っている……か。お前の言う通りかもしれんな。ビッグホーンとの戦闘の際、俺は最後まで戦いきれず、結局お前頼みになってしまった」


 それは違う。

 刀也は俺を庇ってくれたから、とジンは否定しようとしたが、刀也はそのまま言葉を続けた。


 「だが、分かっているんだ。八つ当たりのようなものだったと。拳ニにも悪い事をした。だが、強くなりたかった。拳ニよりも、誰よりも」


 どこか覇気のない、刀也らしくない声色だった。

 ビッグホーンとの戦闘が、精神的に随分と刀也を追い詰めてしまったようだ。かつて神威が退けたという個体が故に、刀也にとっては余計に、多大な無力感を与えてしまったのだろう。


 そんな事を漠然と考えていると、刀也は改めて向き直り、言った。


 「もしこの先俺が道を違え、踏み外したら……お前が俺を斬れ」

 

 そう言った刀也の瞳は、夕焼けのせいか、少し赤く見えた。

 

 

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