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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
134/135

ただ、研ぎ澄まして-2



 混雑を極めた都市区画を抜け、廃墟群もちらほら見えるようになってきた。刀也の自宅はどうやら都市区画より少し外れた場所にあるようだ。


 「そういえば……サラさん、アームズも。俺に用があるって言ってたけど、どうしたの?」


 その場で口喧嘩を始めるものだから、慌てて刀也を探すのに巻き込んだことをジンは思い出した。するとサラが「あっ」と、まるで思い出したかのように漏らし、そのまま畳みかけるように言った。


 「そ、そうですよ! というか、明日また会いに行くって言ったの、黙って退院してるなんてひどくないですか!? ね、アームズさん」

 「……私は別に。また会えたから、いい」


 サラはアームズにも同意を求めるように言ったが、意外にも同意は得られず。今度は「えぇ……」と残念そうな反応を見せる。


 ……なんだか、ちぐはぐだけど仲の良い姉妹のようにも見えて、少し微笑ましかった。


 「それに関しては、スミマセン。俺は元気になったから、少しでも早くベッドを空けようと思って。……あんな状況ですし」


 此度の騒動での被害……それは限りなく甚大で、死者数などは分かっていない。もはやそれを数えられるほど、エリア1の人々に余裕は無かった。


 「……」

 「……」

 「……」


 「――暗くなるのは勝手だが……結局、ジンへの用はいいのかアールミラー」


 刀也が溜息交じりに、沈黙を破るように言った。


 「そう、ですね。ここで暗くなってても仕方ありません。とりあえずジン君、これ」


 サラがそう言って自身が持っていた荷物を開く。その中身はジンの持っていた携帯端末(ネクサス)、そして愛刀である『陽炎(かげろう)』だった。


 「あ……サラさんが持っていてくれたんですね。良かった、失くしたかと思ってました」


 ジンはホッと胸を撫で下ろし、サラからネクサスと陽炎を受け取る。


 「ええ。病院内も昨日は大パニックで、置き去りにされてたのをたまたま見つけて」


 サラいわく、病院前でバスターを撃退した後、その場に散乱したままだったという。ネクサスはサラから電話をかけ、その着信音で探してくれたようだ。


 「ホントに……サラさんにはお世話になりっぱなしだな。ありがとうございます」


 「……いえ、大したことは……ないですよ。当然のサポートです」


 (あれ……サラさん……?)


 ジンの謝礼に対し、サラは普段通りの謙遜するような言葉であったが、目を伏せどことなく覇気のない声色だった。ジンは少し疑問に思ったが――


 「なるほどな。それで……ランク3の方は、何の用だったんだ?」


 刀也の言葉に遮られる。するとアームズはぴくりと肩を震わせた。ぎくり、と擬音が聞こえて来そうにも思ったが。


 「え……っと。その……」


 アームズは少し顔を赤らめながら、抱えていた紙袋をもじもじとしながらも開く。中には大量の食料品が入っていた。


 「ジン、お腹減ってると思って。しばらく捕まっていて、その後すぐにあんな戦いになったから……」


 「……」

 「……」

 「……」


 先程の憂鬱な沈黙とは違う、驚きでの沈黙。

 ジンは突然のことに単純に面食らい、刀也は機械とまで言われていたアームズのこの行為に驚愕し、そしてサラは――


 「――ち、ちょっと! アームズさん!! これなら私の用事が先でも良かったじゃないですか!! もちろんごはんも大事ですけど……確かに大事ですけど!!」


 「で、でも……」


 口喧嘩……とまではいかないものの、サラとアームズの言い合いが始まった。と言ってもどちらかというと散々「私の用事の方が先」とアームズが主張していたのに、文字通り蓋を開けてみたら見舞い品を持ってきた程度のことだったものだから、思わずサラがツッコんでいるようなやり取りだ。アームズもサラの言う通りと分かっているのか、表情こそあまり変わらないが言い返せなくなっていた。


 そんなやり取りを尻目に、刀也がジンに耳打ちするように言った。


 「フフ、お前も中々隅に置けない……む」


 刀也は少しばかりジンを弄ろうとしたが、ジンを見てその言葉は途切れた。ジンは少しだけ早歩きでサラとアームズの前を歩き、笑顔を浮かべながら……泣いていた。


 「……なん、で、だろう。嬉しくて……本当に」


 ジンは家族同然の人たちを殺され、姉も目の前で失い、半ば自暴自棄になりかけ復讐に憑りつかれかけていた。大角(ビッグホーン)との戦いで生きたいという決意を見せた今でも、その奥底にある気持ちは変わらないだろう。


 それでも。

 今、仲間に心配に思われていたことに嬉しさを。一時でも復讐を忘れ、生きていて良かったと喜びを感じているのなら。


 俺も、良かったと思う。

 お前をハウンド(ここ)へ連れてきて、良かったと思う。


 「……そうか」


 刀也はジンの肩をポンと叩き、そのまま黙ってジンと並んだまま歩き続けた。


 


道中、アームズのくれた食料は結局4人で分け合うことに。


「確かに私が間違っていた。……だから分けてあげる……さ、サラ」


そんな一言があった後、サラがアームズのことを妹のように可愛がるようになるのに、時間はそうかからなかった。

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