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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
133/135

ただ、研ぎ澄まして



 「――なぁジン、追いかけてみたらどうだ?」


 拳二が不意に言った。


 「え?」


 「どの道すぐにはエリア4には行けねぇしよ。話したいことがあるんだろ?」


 「それは……」


 それは、その通りだった。

 具体的に何を話したい訳ではないが、あの大角(ビッグホーン)との戦いをお互い奇跡的に生き延びてから、まともに話が出来ていない。


 しかし今、拳二にマイルズ、ランク2のファングまでこの場にいるのだ。エリア4の情報を得るには絶好の機会でもある。


 そんなジンの迷いを見透かしたように拳二は続けた。


 「刀也(アイツ)のことは、俺としても少し気になる。やり合ったばっかの俺よりは話ができるだろ。頼むぜジン」


 「……分かりました。済みませんが、今日はこれで。出発前にまた顔は出します」


 「おう。落ち着いたら話そうぜ」


 ジンは慌てて駆け出し、刀也を追いかけ本部を後にする。

 するために扉を開いたその時――


 「――待って下さい、ジン君。少しだけ」


 ファングがジンを呼び止めた。


 「?」


 「君が病院前で戦った時、その時救った小さな女の子がいたと思います。あれは……僕の娘です」


 実のところ、ゴライアスと共に集団火葬を見に行った際、そのことは教えられてる。ファングとその娘があの場に居た理由も。分かっているからこそ、傷に触れることはないとジンは判断し、それを知らないふりをする。


 「……そうだったんですか。その、救えてよかった」


 「都合の良い掌返しという事は承知の上、それでも謝らせて下さい。君のこと、モルモットだと言ったことを。そしてなにより、娘を救ってくれてありがとう」


 そう言ってファングは顔が見えなくなるほど、深々と頭を下げた。(元々マフラーで顔は見えなかったが)


 「いや、当然のことをしただけで、その……」


 これ以上ないほどの謝罪と感謝の言葉。思わずジンは言葉に詰まってしまう。そんなジンを見てファングは微笑みながら言う。


 「……ひとまずそれだけは伝えたかった。引き留めましたね、さぁ刀也君を追って下さい。拳二君の言葉じゃないですが、後日また話しましょう」


 「……はい。失礼します。マイルズさんも、また」


 「おう、またなァ」


 












 ジンはハウンド本部を飛び出し、辺りに刀也の姿を探す。


 「さてと。刀也は……あ」


 その時、ジンは初めて気が付いた。


 何も、持っていないのだ。

 自らの武器である『陽炎』も、ネクサスも、何もかも。


 当然ネクサスが無ければ、連絡手段は無い。


 「そ、そういえば……! でも病院には俺の荷物は無かったし……困ったぞ」


 頭が真っ白になりかけたその時、ジンに声が掛けられた。()()()


 

 「ジン……!」

 「ジン君!」


 

 アームズ、そしてサラの2人だった。両者ともに何やら大荷物のようだが……。


 「……」

 「アームズ……さん……?」


 余りに同時だったので、アームズとサラは気まずい睨み合い(?)になる。


 「……代理人(エージェント)、ジンに何か用?」


 「え、ええっと、その、私は――」


 「――用がないなら後にして。私はジンに用がある」


 「よ、用ならあります!」


 「用があっても後にして。私が先」


 「何でですか! 声をかけたのは同時でしたよね?」


 「同時じゃない。私の方がちょっと先だった」


 「そんな事ないです! 同時でした!」


 「いや、同時じゃなかった。そもそも……


 「代理人(エージェント)って呼ぶのやめて下さい! 私の名前は……


 ワーワーキャーキャー。


 ……これは、一体何なんだろうか。


 ジンは2人の言い争いに思わず立ちつくしてしまうが、我に返り仲裁するように割って入る。これ以上言い争わないようにするには……話題を変えるしかない。


 「ちょっと2人とも落ち着いて! 聞きたいんだけど……刀也を見なかった?」


 「ランク11……いや、今は6か。私は見ていない」

 「刀也さん? 刀也さんならさっき遠目にすれ違いましたけど……」


 ヒット。サラさんが見ていた。


 「実は刀也を追っていて……サラさん、案内してもらえますか?」


 「わ、分かりました。一緒に探しましょう」

 「私も手伝うよ、ジン」


 「ありがとうございます。アームズも、ありがとう」

 

 こうしてジンはサラとアームズを連れ、刀也の後を追った。














 


 現在位置は第2層、稼働している大型エレベーターが1基だけあるらしく、刀也はそこへ向かっていたようだ。エレベーターに近付くにつれ、人が多くなっていき……気が付けばはぐれてもおかしくないほどの人込みになっていた。


 「おお……これはすごい。ここしか動いてないみたいだから、階層移動のためには仕方ないですけど……むぎゅう」


 サラが人込みに押されながら呟く。先頭を行くサラを見失わないようにジンも必死に追いすがる。


 「……これじゃ見つけられないか。アームズ、離れないように――


 ――ガッシリ。

 そう言いながら握った手の感触が、何やらガッシリしている。


 「あ、あれ?」


 ジンはその感触に違和感を覚え振り返ると――


 「兄ちゃん。俺はソッチの趣味は無ぇんだが……」


 「わぁッ!!? す、すみません! 人違いです!!」


 筋骨隆々の男性の手を誤って握っていた。ジンは慌てて手を離し、謝りながらアームズを探す。


 幸い、特徴的な銀髪のお陰ですぐに見つけた。少し離れおどおどとした様子だったので、少し強引に腕を掴み引き寄せる。


 「見つけた、アームズ。こっち」


 「……じ、ジン……」


 「え……」


 人混みが苦手だったのか、怖かったのか。アームズは少し涙目になっていた。美しいが無機的で、氷のように冷たい印象のあるその顔立ちが、こういう不安げな表情を浮べていると……不謹慎で失礼だが、不意にドキッとしてしまうジンだった。


 「ご、ごめん、見失ってた。人込みが苦手だったら、被ってていいよ。手、繋いでるからさ」


 ジンはそう言ってアームズの来ている服のフードを被せる。そういえば……最初に素顔で会った時もフードを被っていた。知らない人に声をかけられるのが怖いと言っていたので、当然知らない人と密接することになる人込みは大の苦手なのだろう。


 「ありがとう……」


 



 「むむぅ……」


 そんなジンとアームズのやり取りを遠目に見ていたサラは、ちょっとむくれていた……が、それも束の間。刀也を姿を見つけた。


 「あ……いました! おーい、刀也さーーーん!!」


 「刀也……!!」




 「――む? アールミラーか? それにジンも……」


 ようやく刀也に追い付いた。

 人込みをかき分けるようにして、何とか刀也の下へ移動する。


 「刀也……」


 「どうした、何か用か?」


 「いやその……用がある訳じゃ無いんだけど……その」


 いざ本人を目の前にすると、言葉に詰まる。

 何故拳二との模擬戦であんなことをしたのか? そう正面切っていきなり聞けるほど、ジンは図太くない。


 「ええっと……」


 「……?」

 「ジン君?」


 言葉に詰まっていると、アームズやサラもどうしたのかとジンの顔を覗いてくる。当然の反応だ。2人には刀也を探すのを手伝ってもらいながら、いざ見つけたら用が無い、なんていうのはおかしな話だ。


 すると刀也が、思いもよらない事を言ってきた。



 「……ジン、俺はこれから一度自宅へ戻るが……


 ――良かったらだが、家に来ないか?」



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