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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
132/135

刀也VS拳二-2



 「――捕まえたぜ」


 刀也の斬撃をすり抜け、遂に拳二が一歩分間合いを詰めた。密着寸前の格闘戦(ゼロレンジ)、ここまで近いとナイフでもない限り、刀剣の類は邪魔でしかない。


 「オラァ!!」


 「っく、うぅ……!」


 拳の引きが無い、ショートパンチの連打が刀也を襲う。神薙を逆手に持ち替え上手く守ってはいるが、明らかにやりづらそうな様子だ。このまま押し切られるのも時間の問題だろう。


 観戦していたファング、マイルズもこれは決まった、と言わんばかりに呟く。


 「拳二くんが間合いに入った。……決まりですかね」

 「あちゃー、ああなるともうダメだなァ。クク、ジン。俺は拳二に賭けるぜ……って言っても、流石に今から賭けるのは卑怯か」


 実のところ、ジンにはどちらか片方を応援することなどできなかった。刀也も拳二も、ジンにとっては戦友であり、同じくらい大切に思っている人間だからだ。しかし、ファングもマイルズも既に勝負が決したかのように拳二に賭けるものだから、何となく逆張りしたくなってしまった。


 「だ、だったら俺は刀也に賭けます! まだ勝負は決まってない」


 「おぉ? マジかよジン、こりゃ昼飯は頂きだなァ」

 「ジン君……別に僕は勝っても何も要求しませんからね」


 ……ああ、きっと自分はギャンブルの類はまるで向いてないんだろうな……。つい刀也に賭けてしまった事を、拳二に少し申し訳なく思いながら勝負の行方を見守る。














 「どうした、威勢の割にはもう終わりそうじゃねぇかよ」


 「く……!」


 拳二は挑発的な言葉を吐きつつ、ラッシュをかける。刀也は既に数発ジャブを貰っており、かつ得意な間合いの内側に入られているということもあり、反応が鈍る。


 苦し紛れの反撃に、逆手に持ち替えた神薙を振るう。……が、()()()()()()


 「――甘い。終わりだ」


 ほんの小さな予備動作から繰り出されたのは、顎を打ち抜くショートアッパー。しかしそのパンチは浅く、刀也の顎には届かない。


 高い金属音が響き、神薙が真上に弾け飛んだ。


 刀也ではなく、刀也の持つ神薙が狙われていたのだ。剣聖と呼ばれる達人から、その剣だけを弾き無力化する。神業とも言える拳二のパンチに、観戦していた3人は思わず(おのの)く。


 




 ――剣聖である刀也が、得物を弾き飛ばされたという事実。

 完全に勝敗は決したと思われた。それは観戦していた3人にとっても、神薙を弾き飛ばした拳二でさえも。拳二は手加減など微塵たりともしていない。


 ……が、これはあくまでも「模擬戦」であるという事で、拳二にある種の油断は、確かに生まれていた。



 


 


 

 するり、と刀也の腕が拳二の首元に伸びる。


 (……!! しまっ――)


 気付いた時には既に時遅し。

 刀也は拳二の上着の襟を掴み、強引に引き寄せて頭突き(ヘッドバット)を見舞ったのだ。


 「!!」

 「なにィ……!?」

 「頭突き!?」


 観戦している3人はそれぞれ驚愕の声を上げる。先の拳二が見せたショートアッパ―以上の驚きだった。


 拳二は刀也の頭突きをモロに受け、思わず後退する。


 「こ……この野郎……()()()()()()()()……!?」


 拳二は鼻血を流しながら、刀也を睨みそう言った。刀也は落ちてきた神薙を華麗にキャッチしていた。

 迂闊な反撃を誘い武器を弾く拳二の行動を、逆に()()()()()()()()()()。一度間合いを離し、戦況を仕切り直すために。


 ……とはいえ、あの刀也が神薙を手放し、あのような泥臭い攻撃をしてくるとは。

 拳二は完全に虚を突かれ、まんまと頭突きを喰らってしまった。


 (何か……今までのアイツとは、違う)


 そう疑問に思ったのも束の間、刀也が次なる行動に移った。



 ()()()()()()()()()()



 「なっ……お前……!?」

 

 神薙は青白い光を帯び、凄まじい存在感を放つ。べノムの力が斬撃を強化する、単純が故に必殺の一刀だ。

 これには拳二だけではなく、観戦していたマイルズやジンも顔色を変えた。


 「何のつもりだ!? こりゃまずい!!」

 「と、刀也……!? 何を……!?」


 あくまでこれは模擬戦……V-ウェポンを使用するとはいえ、べノムの力を引き出す「武器解放」は禁止事項だった。その規則をジンは知らなかったが、刀也の雰囲気が変わったのを感じて困惑した。間違い無く、模擬戦とはいえ同じ仲間に向けるものではない、本気の殺気だった。


 「ち……あの野郎、本気かよ……! 何のつもりか知らねえが仕方無ぇ……!」


 拳二も刀也の殺気に合わせるように、バルバロイを解放する。変形した装甲の隙間から、神薙同様の青白い光を放出する。


 「や、やめ――」


 ジンの叫びも間に合わず、刀也は無言のまま拳二に襲い掛かる。刀也の姿が消えたと錯覚するほどの、鋭い踏み込みだった。






 「――そこまで。エリア4に行く大仕事の直前ですからね。この辺でいいでしょう」


 刀也と拳二の間に入ったのは、ファングだった。刀也の繰り出した袈裟懸け一閃も、拳二が反撃で放っていたストレートも、両手に持った短双剣によって完全に止めきっていた。


 刀也はファングの短剣と刃を合わせながら言った。


 「……俺が放ったのは「壱の奥義・疾風一閃(しっぷういっせん)」。俺の持つ4つの奥義の中でも、最も速い斬撃だ」


 「なるほど。奥義ですか。通りで」


 ファングは納得するように答える。その直後、ファングの手袋の中から手首にかけて、血がボタボタと流れ落ちる。斬撃を止めた衝撃により、手が裂けているのだろう。

 しかし刀也としては奥義を止められたのが事実。それも片手で、完璧に。


 「手を抜いていたな。ランク2、ファング・マクヘイル」


 僅かながら苛立ちが見え隠れするような声色。しかし刀也の口角は上がっていた。


 「……何のことやら」


 ファングはわざとらしく、しかしあくまでシラをきる。


 


 












 その後、刀也は拳二へ「今回は引き分けだ」とだけ言い残し、去ってしまった。

 

 「……」

 「……」


 ジンたちはメインルームに戻りひとまず腰を下ろすが、誰も口を開けない。ファングが間に入らなければ、大怪我に繋がっていたかもしれない。最早模擬戦とは呼べない戦いだった。

 刀也が何故あんなことをしたのか。それは本人にしか分からないが……。


 ファングが手を治療しつつ、沈黙を破る。


 「いやぁ、驚きましたよ。剣聖の奥義まで習得していたとは。縫うほどは裂けていなくて良かった」


 マイルズもファングの治療を手伝っており、包帯をぐるぐると巻きながら話す。


 「にしてもファング……アレをよく止めきったもんだ。刀也の言う通り、模擬戦では手加減してたのか?」


 「いや、本当に手は抜いてませんよ。()()ね」


 一通りの治療を終えたファングは、自身の得物である短双剣をジンたちに見せる。


 「V-ウェポン『アンサング』。僕が感じた脅威に呼応し、その力を引き出す特性があります。つまり相手が手を抜いていれば、こちらもそれなりにしかならない、という訳です」


 「へぇ。お前さんとは結構長いが、初めて知ったぜ。……てことはアレか。むしろ手を抜かれてたのは俺たちで、拳二とやって初めて刀也は本気だったのか」


 「そういう事です。……けれど、あそこまで本気で来るとは流石に思っていなかった。拳二君はどう思いますか? 戦ったあなたが一番分かるでしょう」


 ファングは黙り込んでいた拳二に話を振る。


 「……やり過ぎだとは思ったが、模擬戦っつーことで俺が油断してたのも事実だ。クソ、あの野郎引き分けとか言いやがって」


 「拳二さん……」


 ジンは悔しそうに語る拳二の方に視線を移す。

 悔しさのあまり拳二はとてつもなく機嫌が悪いが、どこか負けを認め脱力しているようにも見える。


 事実、あの時刀也が見せたのは「奥義」だと言っていた。外野から見ていたのにも関わらず、一瞬見失うほどの速度で突っ込んだ刀也に対し、拳二はその場のカウンターで受けようとしており、反応も遅れているように見えた。あのままファングが止めなければ、間違い無く拳二は……。


 (――一体、どうしちゃったんだよ、刀也……)


 突然に起きた、友の豹変。

 訳も分からず、ジンはただ困惑するばかりだった。









 「ふう、ようやく着いたか。ったく、暑いなあこっちは」


エリア1、第4層。軍港になにやら大荷物で降り立った者がいた。小汚いツナギを身に纏い、工具入れを腰に下げたままの、いかにも工場からそのまま出てきたような格好の……若い女性だった。

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